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ブランドの定点観測 by 村井裕弥

ブランドの定点観測

新製品が出る。心をまっさらにして試聴する。そして、その特徴や完成度をわかりやすく読者に伝える。これは、オーディオライターの最重要責務だ。しかしその一方、開発者から話を聞き、何年にもわたってそのブランドの音を「定点観測」することも重要であると筆者は考える。そのようにすることで初めて見えて来るものがあるからだ。

その「定点観測」を15年以上の長きにわたって続けているブランドのひとつがローゼンクランツ。おおよそ半年おきに「その時点における到達点」をチェックしているが、ブレのなさにかけては業界一といってよかろう。とにかく、音楽の感動を最優先にした製品作りと使いこなしを心がけ、着実に前進を続けているのだ。


フルレンジ一発でなければ、出せない世界

さて、2012年を迎え、カイザーサウンド東京試聴室の音はどう変わったか。入るなり気付いたのは、機器周辺の壁に何枚かの板が打ち付けられていることだ。もちろんローゼンクランツのことだから、カイザー寸法や方向性の管理がきっちりなされているに違いない。

次に気付いたのは、D/Aコンバーターが替わっていること。訊いてみると、川崎の計測器メーカーが作った1号機を、ローゼンクランツ流に振動対策したものだという。昨夏デビューした音楽再生専用コンピュータにも、同様の振動対策が施されたとも聞いた。

その結果、おなじみのフルレンジ・スピーカーRK−AL12・Gen2からどのような音が出るようになったのか。日本の歌、クラシック、ジャズ、ロックの順に新旧名盤(コンピュータに蓄えられたデータ)を聴いたが、まずは音離れの良さにびっくり。

といっても、一部ハイエンド・スピーカーにありがちな「わざとらしくピキピキ立ち上がる、過剰なハイスピード・サウンド」ではない。コーン紙を振動させ、そこから音が発せられていることが信じられないほど、ストレスフリーに伝わってくるのだ。

静電型スピーカーにどこか通じる世界といえば、おわかりいただけるだろうか。しかし、それほどストレスフリーに出ているというのに、音そのものはけっこうマッチョ系。音色、陰翳ともに濃いめで、温度感やや高め。というより、筆者としてはこのあたりがあるべき温度。ストライクゾーンど真ん中だ。

次に特筆すべきは、音の描き分け。クラシックのオーケストラものが数曲続いたが、オケ、ホール、録音家の意図、リマスタリングの味付け等、違いがこれほどわかりやすいシステムは珍しい。システムそのものの色付けが限りなくゼロに近く、情報の損失もゼロに近い証拠だろう。


3D再生をあと押ししたのは

しかし、今回「昨夏に比べ、最も変わった」と思わされたのは音像定位だ。スピーカーより1.5メートル程度手前、ユニットよりいくらか高い位置に、歌手の口元が来る(もちろん、ソフトによってその位置は微妙に変わる)。これはもう3Dと呼んでよい世界だ。

そこで、そのことについてふれると、「この音像定位の張り出しは、このラックが作っているのですよ」という。そうか。うっかりしていた。『オーディオアクセサリー』第141号145ページで筆者が紹介したGen2ではないか。

「音像の高さや、急峻な立ち上がりのはじけ方に、明らかな改善が認められる。音そのものは若々しく、適度にシェイプされた印象」「一番変わったのは音圧感と躍動感!、Dレンジはもちろん、fレンジまで広がって聞こえる」これは昨春音元出版試聴室でテストしたときのコメントだが、ここカイザーサウンド東京試聴室でもその通りの力を発揮しているといえる。(実は、今回Gen2にはとあるオプションが付いていて、そのおかげも大きいのだが、そこまで書くとわけがわからなくなりそうなので省略)

帰り際、もうひとつのGen2を、機器とリスニングポジションの間に置くという実験もおこなわれたが、音像がさらに前へ飛び出してきたから、もう爆笑するしかなかった。(試しに、もうひとつのGen2を前後さかさまに置いてみると、今度は音像がぐちゃぐちゃに崩れた)


最新スピーカーケーブルを自宅試聴する

ほかにもいろいろ技術的な解説を聞いたが、こういった目に見える違い以上に、ケーブルなど目に見えないところの進化も大きいのだという。そこで、その最先端のノウハウを盛り込んだスピーカーケーブルを自宅でも聴いてみることにした。

驚いた! アンプも、スピーカーもまるで違うのだから同じ音になるわけはないのだが、いわばイトコのような音が出た。ある種のもやが晴れ、解像度がアップ。ただし、これ見よがしな、わざとらしい解像力ではない。

これまで、「ただ古いだけ」と思っていた、半世紀も前の録音から濃密な香気がただよってきた。それでいて、最新録音の鮮度が落ちるようなこともない。この両立は意外とむずかしいというのに。

東京試聴室から電話がかかって来たので、感想を正直に伝えると、「そういった製品が作れるのも、すべてフルレンジ・スピーカーをベースにしているからです」といわれた。 

もう四半世紀も前になるだろうか。某国内大手が当時としては高画質なブラウン管を開発し、それをベースに製品作りをおこなった結果、VTRなどの画質も飛躍的に向上。そんな昔話を思い出した。