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PB-BIG3のエネルギーの強さに戸惑い

----- Original Message -----
From: K.T
To: info@rosenkranz-jp.com
Sent: Tuesday, March 06, 2012 11:55 AM
Subject: 貸し出し試聴希望

お借りしていたPB-BIG3の試聴が終わりましたので本日、郵パックにて発送いたしました。結論から言うと今回の試聴では購入を決意するには至りませんでした。印象が薄かったというわけではありません。その正反対です。とてつもなく鮮烈な体験でした。いままでに聴いたことのないサウンド、響き、輝き。正直、驚きました。

これまでにもカーボン系、チタン系、といくつかの有名どころのインシュレーターを試聴しましたが、今回はまるで異次元の体験でした。それなりのインシュレーターであれば音の高低にそれなりの影響を与えるものですが、PB-BIG3の場合はそれに加えて音の前後までも支配してしまう。

まるで何か特殊な銃で撃たれているかのように、音が、とりわけシンバルが、目の前にすっ飛んで来るわけです。敬愛する寺島靖国氏がローゼンクランツを手放せない理由のひとつはこれなのだなと実感した次第です。

さらに、ハイテク系インシュレーターにありがちな、音のミッドレンジを希薄にする傾向がないという点、それどころか真ん中をより濃密にさえしてしまうことに、驚きを通り越してあきれたような笑いさえ浮かんできたほどです。

ではなにがフィットしなかったのかというと、それはひとことで言うなら低域です。しかし低域が「痩せた」わけではありません。それはきわめてよく引き締まっています。強く、きわめて強い。

とりわけ、エレクトリック・ベースの弦を爪が弾くときの瞬時のアタック音と、その直後に、この「直後」という時間感覚をしばし朦朧とさせるようなしなやかさで、不意に、図太く、出所不明のままどこからともなく伸びてくる、まさに「地を這うような」サウンド。なにか不可思議な軟体動物にでも遭遇してしまったかのような体験。

では、強さが問題ではないとするなら何かというと、それは「甘さ」です。強さと甘さ。強度と糖度(笑)。それはおなじひとつのものになることができます。強くて甘い。そういう音があるのだということを体験的に私は知っています。

今回の試聴の意図はまさに現行のシステム(LINNN/CD12〜LP12〜KLIMAXコントロール、レイ・オーディオ/HQS2200UPM〜RM8V、SPインシュレーターはイルンゴ・オーディオのSONORITE)の「強くて甘い」音をさらに強く、さらに甘くすることを意図したものでした。

もちろん、「強くて甘い」などいう言葉はなんの一般性も持ちえない、きわめて私的でおセンチな表現ですから、ローゼンクランツのインシュレーターは十分に強いけど十分に甘くない、などと書いてもほとんどなんの意味もない、戯言以下でしかありません。

しかしあまりにもPB-BIG3の「強さ」が鮮烈で、「甘さ」を味わう余裕を与えてくれなかった、というのもまた、事実といえば事実なところです。とにかく音がすっとくんでくるのです。ひとつの楽曲を構成するいくつもの楽器のひとつひとつが同時に一斉に立騒ぎ、われもわれもとこちらにむかって押し寄せてくる。

とりわけ70年代のポップスのアナログ盤の再生においてその傾向が顕著で、まるでミックスダウンする以前の、個々に録音採取した音素材をなんの手も加えずに一斉に同レベルで再生しているかのような、きわめてポリフォニックで特異なサウンドが出現したわけです。

おそらく「甘さ」の正体はいわゆる「付帯音」と呼ばれるものなのかもしれず、やわらかく、つつみこむような、ほっとする、くつろいだ、といったようなある種の母性的な形容詞群で表現しうるこの「甘さ」を、PB-BIG3は、まさに父性的な凛とした厳格さで、ことごとくキャンセルしてしまったのではないでしょうか。

もちろん、そのキャンセルされたあとの音こそが、本来の、あるべき、イデアルなすがたであるという視点もあるはずです。しかしわたしの駄耳にはフィットしなかった。とても悲しいことです。

ひょっとするとわたしはいまだPB-BIG3に驚いたままなのかもしれません。動揺したまま冷静な判断ができなくて無意識に留保しているのかもしれません。しかしもうこれ以上幼稚なオーディオ作文をつづることを控えます。こころよく試聴させていただいたことを貝崎さんに深く感謝します。ありがとうございました。

K.T

----- Original Message -----
From: info@rosenkranz-jp.com
To: K.T
Sent: Tuesday, March 06, 2012 21:13 PM
Subject: RE: 貸し出し試聴希望

K.T様

BIG3の詳細なる感想を有難う御座いました。

BIG3を装着して得られた音の感想を頂戴した訳ですが、ここまで克明に書かれている内容はすべてありのままで、正にその通りの音だったと推察出来るのは私にとっては容易な事です。

何故ならばK.Tさんと私が同じ時空間に居合わせ音楽を共有していたとしても、私も同じ感想を抱いた事でしょう。このような心境になれるのは、海千山千オーディオの神秘なる部分を、音のカラクリの解明に取り組んでいるからでありますす。

また、K.Tさんが今回の音よりも、過去に強さと甘さの最適なバランスの音を体験なさっておられたからこそ、その時の音との相対比較も正確に出来たのだろうと思います。何事も知らなければ比較出来るものではありません。

今回のポイントで大切な事は二つあります。

その内の一つは、BIG3が音を出す面とBIG3を使いこなす人が出す音との両面があります。この点を一番最初に電話を頂戴した時に、オーディオトータルの問題だからクリニックのお話を申し上げたのです。

スピーカーの底面のどの位置に置いたかで、音は強くも甘くも如何様にでもコントロール出来ます。BIG3の構造を見て頂くとお分かり頂けると思いますが、ピンポイント支持となっています。

何十通りもの微調整を試みられていたら、変幻自在な表現が可能だという事も分かって頂けたのではと思いますが、如何せん一週間の試聴期間では無理からぬところです。何通りほど試されたかは知りませんが、今回の試聴で出た音は、その無限大に存在するインシュレーターの支持位置の内の一つの音にしか過ぎません。

これがセッティングの腕の部分です。

> 「甘さ」を、PB-BIG3は、まさに父性的な凛とした厳格さで、ことごとくキャンセルしてしまったのでは?

との推論を頂きましたが、それは間違いです。そういう音になる置き方をしたからこそ、その表現になったので、それはBIG3が貴方の指示に従って出した音にしか過ぎないのです。違った指示をすれば違った音を表現します。だからその時の音はBIG3の音でもあり、K.Tさんの音でもあるのです。

ピンポイントのお話をすれば、甘さが上回り、もう少し強さと厳格さが欲しいと感ずる位置にBIG3を置いたなら、今回とは反対の感想となって返って来たかもしれません。これを称してローゼンクランツでは1/100mm精度の波動コントロールと表現しています。

二つめの問題点は、レイオーディオのエンクロージャーと台座ブロックに使われている合板という素材の特徴です。約2ミリ間隔毎にボンドを経て振動移動をしますが、繊維が互いに90度ずつ交差して張り合わせているので、微弱な振動、即ち優しさ、弱さ、甘さと密接な関係があるのは正にその部分です。

合板は振動が馴染むまでに一番時間の掛かる素材なのです。従って、指揮者としてのK.Tさんが振るタクトの通りに貴方のシステムの演奏レベルが上がるには、リハーサル時間が足りなかったというのが最終結論ではないでしょうか。

最後に物の良し悪しにもピンからキリがあるように、腕の部分もピンからキリまであります。道具は使いようです。世界最高峰と自負する私のオーディオシステム・ハンドリング技術の一端を、同じBIG3を使っていつでもご披露させて頂きます。聞くは一時の恥、聞かざるは生涯の恥です。

私が何故日本全国を回ってありとあらゆるシステムのオーディオクリニックをするのかを分かって欲しいのです。

カイザーサウンド
貝崎静雄

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