『ULTRASONE Edition9のモディファイをやって貰える事を、”まみそぶろぐ”で知ったので、是非お願いしたい』との連絡をT.Nさんという方から頂きました。”まみそ”さんと同じくメタルを好んで聴かれるとの事・・・。
『自分もドラムを叩く関係上、生音との違いがどうしても気になるので、その部分を注力してモディファイをお願いしたい』。『それ以外は全てカイザーサウンドを信頼して託します』。
こうまで言われると頑張りたくなるのが私です。
どんな音であって欲しいのか?
音楽とどう付き合いたいのか?
何度もメールと電話で音楽談義を交わしました。
T.Nさんは膨大なヘッドホンを展示・試聴出来る専門店に勤めておられるヘッドホンに於けるプロな訳です。そんな方からモディファイを頼まれるのは嬉しい反面大変でもあります。
モディファイというのは音の良し悪しが結果となって顕著に現れる関係上、技術評価と信用失墜の両刃の剣状態にあります。今回のような仕事はリスクを避ける意味から引き受けたがらないのが普通だと思います。
私の得意とする技術内容は下記のようになります。こんな風に多分野なるオーディオの知識・技術・経験を持つ、ユーティリティー・バランス型タイプの人間は世界でも稀有だと思います。
:ケーブルは素線からの一貫設計
:オーディオルームの設計
:オーディオアクセサリー類の設計
:SPユニット及びエンクロージャーの設計
:SPユニットのエネルギーの方向性の検体技術
:あるゆる素材の響きの方向性の検体技術
:オーディオ機器の各種モディファイ
:オーディオシステムのセッティング及びクリニック、
:カーオーディオのインストールプラン
:カーオーディオのイコライジング及びマルチシステム調整
モディファイ成功の必須条件は? との問いに。
正しい診断と解決能力に尽きる! と答えます。
Edition9の分析
密閉型の特徴である圧縮された密度の濃い音を聴かせてくれる割に、綺麗でワイドレンジ傾向の音が鈍重な低音となって損をしているところがあります。それでもタイトなサウンドはとても魅力があります。
Edition9はメタルやロックに最高だとの評価があるみたいですが、その他の多くのヘッドホンの音を充分に知らない私ですので、普通のスピーカーを聴く時と同じ評価基準で口を開けているという事を前提に受け止めて欲しいと思います。
又、ケーブル設計者の立場として感ずるのは、導体の純度が高過ぎる事が、先述のような感想に繋がっているのだと思います。又、解体してみて分かった事ですが、余りにも素線径が細過ぎます。
純正のケーブルは30cm位の長さまでなら使い道はありますが、如何にヘッドホンと言えども、この細さの線がこれだけ長いと音がグダグダになってしまいます。
聞くところによりますと、Edition9は現在プレミアが付いているそうですが、そこまでの物とは私には思えません。それともこれ以外のヘッドホンが不甲斐なさを示しているのかもしれません。
このところ高級ヘッドホンの需要増に伴い、その価格は天井知らずの様相を呈していて、ヘッドホンバブル到来と言ったところです。スピーカーで音楽を聴く事の出来ない環境の人達の数の増加を意味しているのだろうと思います。
モディファイ開始
私は普段からスピーカーにはオールラウンドプレーヤーを要求し目指しています。今回はEdition9をヘッドホンの理想に近づけるべく、冒険気味なモディファイしてみたいと目論んでいます。その為にカイザーサウンドの根幹を成す、”カイザーゲージ”を元にして作ったBasic1の素線を使う事にしました。
ヘッドホン用にしては素線の径がかなり太いので、出来上がり時の外径は10ミリ近くになります。依頼主に怒られそうですが、私の独断で黙ってやります。取り回し等の不自由さは、音の魅力が吹っ飛ばしてくれると信じるのみです。
若しも依頼主に駄目出しを喰らった時は、弁償する覚悟で挑みました。
私の耳では大成功との答えが出ました。
ヘッドホン特有の閉じ込められたような鳴り方は全く無くなり、広い空間で聞いている感じに変わりました。これはケーブルの位相ずれが解消された事を意味しています。楽器の位置関係を示す距離と方位の正確性が確保されたのです。
ヘッドホンは左の信号は左耳にしか入りませんし、右信号は右耳にしか入りません。従って左方向の音と右方向の音が交じり合った楽器の倍音が織り成す大気中に響く美しい音を聞く事は決してありません。この点がホームオーディオとの決定的な違いです。
スピーカーのダイヤフラムと耳の距離も固定されているので、自分の動きに伴う空間での音の移動を感ずる事も出来ません。これがヘッドホン特有の音空間であります。
だから、性能の良し悪しや構造の違いが幾らあっても、一定のエアーボリュームの限界を超える事は出来ないのです。我が耳と音源である楽器軍をある種の器具で固定されているのと同じなのです。
・・・とヘッドホンのマイナス面をあれこれと沢山述べましたが、それらの負である面が無くなったかのように自然の音楽が聞けるようになったのです。私の目論見は成功しました。
これでまたひとつ、ヘッドホンの音のカラクリを解明出来た事を皆さんに報告させて頂きます。まな板の鯉となって私の手術台に身を任せられたT.Nさんの勇気に敬意を表したいと思います。
Kaiser Sound
Shizuo Kaizaki