音楽のリズムと車の走りに馬のイメージを求めたい
日本ではアニマルブランドといえば魔法瓶(虎、象、犬、孔雀・・・)だが、ヨーロッパでは車が多い。たとえば、フェラーリとポルシェは馬、ジャガーはその名の通りジャガー、プジョーはライオンといった塩梅。馬や猫科の動物にその走りを重ね合わせ、理想としたからではないかと思う。
因みに動物以外ではアルファとランチャが家系の紋章、シトロエンが発展の礎となった山形歯車、アウディは四輪を模したもの・・・と、その車のルーツやアイデンティティを想起させるものが多い。
翻って我が日本車はアルファベットの頭文字を象ったものばかり(三菱やスバルのような例外もあるが)でブランドマークひとつにもその歴史の違いを感じるのだ。
さて、こんな話を始めたのは、車の走りを徹底追求している中で、「馬が合う!」という言葉に閃きを覚えたからだ!
「馬が合う」とは、「相手との間合いや呼吸が合い、気持ちまで通じ合う」
そんな風に私は解釈している。
他にも「人馬一体」「天高く馬肥ゆる秋」「馬の耳に念仏」「生き馬の目を抜く」と、馬にちなんだ言葉は多く、ともに人との共生の歴史の長い犬猫や牛よりもずっと多いのだ。馬は移動、運搬、農耕、戦闘のパートナーとしてより人と密接な関係にあった証であろう。
人類の長い友、馬。
音楽のリズムやテンポ、そしてノリの良さの再現に、
そして、車の走りに、
馬のイメージを求めてみたいのである。
そこで馬の走りを色々調べてみる事にした。分かっていたつもりではあったが、馬の細かい動きについては実は何も知らなかったという悲しい現実を突きつけられる結果となった。馬の走りをスローモーションで見てみると、後ろ脚による強い蹴りに促されるように前脚が伸びているのがよく分かる。
馬の走りを音で表すのには、昔から「ぱっか、ぱっか」と表されているが、馬場を最速で走る時の音に耳を凝らすと、「ドドドッ、ドドドッ」という三拍子のリズムになっている。バスドラのビートと同じなのである。
0:53
蹴り出した後、馬体が浮いている
(走りの一周期の最後の部分)
馬の走りの一周期
0:59スタートのコマ部分の説明です。
静止、スタートのコマ送りで御覧下さい。
ランチア・カッパの次の「加速度組み立て」に
この動きをそのまま360度の位相の中に採り入れてみたい。
@ 0:59
最初の着地 (左後ろ脚)
この時他の3本の脚は浮いた状態
A 1:00
2番めの着地 (右後ろ脚)
この時左後ろ脚の蹴りと同時に、
体重は右後ろ脚に掛かっている。
この時前の両足は未だ浮いた状態ではあるが、
左前脚はストライドを伸ばさんとしている。
右前脚は少し遅れて着地させるべく膝をたたんでいる。
B 1:01
3番目の着地 (左前脚)
左前脚の着地を確認するかのように、
右後ろ脚で蹴りの体勢に入ろうとする。
右後ろ脚と左前脚の2本が着地している。
右後ろ脚で蹴った時には一瞬ではあるが、
左の前足1本でのみ着地状態になる。
前方へ進む勢いで左前脚は蹴るというより送る感じが強い。
C 1:02
4番目の着地 (右前脚)
右前脚の着地を待って左前脚に蹴りに入る。
左前脚を蹴り終えたところでは右前脚1本で馬体を支える。
前方体重移動の勢いで右前脚も後ろに蹴り出す。
D1:03~1:04
飛馳
最後となる4番目の右前脚を蹴り終えた時点で、
四本の脚を腹の下にたたみ、馬体は宙に浮き前方へ大きく進む。
四肢の着地、蹴り出しがリズミカルに、
テンポよく繰り返される。
1:04の静止画を見ただけで、
四肢が次のどの順番でどんな動きをするのかが読み取れる。
【注意】
馬にも左と右の利き足の違いがあるので、
右から始まる場合もある。
ランチア・カッパで実験
この馬の走りを応用した調教をどの車にしようか? 164かカッパか迷ったが、既に3回の加速度組み立てを施しているカッパに決めた。微細レベルまで身体に馴染んでいるから、ほんの僅かな変化も分かると睨んだからだ。164の魅力はスプリント力にあるが、カッパはカール・ルイスのように美しく伸びるストライドが素晴らしい。
写真を見ながらイメージを描いてみた。
Rear Left のホイールを時計の針で5分、360度位相では30度進ませた。他の3本も同じ要領で本設計の位相ポジションに組み直した(今までは全てを0°に合わせていた)。
タイヤの加速度組み立てに当っても、
馬の脚の運びと同じ順に組んで行く念の入れようである。
@ 30° (左後ろ脚)=R.L |
↓ |
A 18° (右後ろ脚)=R.R |
↓ |
B 354° (左前脚)=F.L |
↓ |
C 330° (右前脚)=F.R |
このボルト締めの写真はF.Rで最後の仕上げである。
この微妙な間合いがリズム感やタメを生むのである。「加速度組み立て」はネジの締め加減や、長さの配分比によって創り出される芸術的表現なのである。「正確だから良い!」と、一概に言えないところが面白い。
それは、単調な打ち込み系のリズムビートが、正確であるにも関わらず今ひとつ乗れないのと同じだ。そこにも「音と音楽の違い」を見る事が出来る。
相手の出方に応じて呼応するのが間である。
その中で、シグナルを送る側も受ける側も、
「その感じ!」
「その調子!」
と呼吸が合う感覚である。
馬蹄(?)の調整完了
さぁ! 出来上がった!
さて、どれだけ「馬が合う」ようになったのか?!
トドちゃんを連れてドライブに出かけよう!
塩浜ICから湾岸首都高へ入るまでは気持よく走れたが、レインボ−ブリッジに入ったかのように大渋滞に巻き込まれた。このルートが混むのは珍しい。その日は残念ながら充分な走行テストにはならなかった。しかし、良い感触はしっかり確認出来た。はやる気持ちを抑え、本格的なテストは明日まで待つ事にしよう。
湾岸を横浜ベイブリッジへ
ベイブリッジまで走行テストで足を伸ばすのは今回が初めてだ。昨日とは打って変わって車は気持ち良いほどスムーズに流れた。このコースは緩やかなアップダウンこそあれ、ほとんど真っ直ぐなので車の直進性のテストには持って来いである。
今回の加速度組み立ては、何かが違う!!
根本的に違う!
この感覚をどう言葉に表したら良いのだろう??
そう! 生き物の動きなのである!
ハイドロ・シトロエン以上に生き物だ!
座席が鞍に変わり、ハンドルは手綱となる!
運転しながら腰を快く上下させているのだ!
これは凄い事になった!
リズミカルでイメージ通りだ!
そう! 鉄の馬に生まれ変わったのである!
ここまで上手く行くとは・・・
これはきっと、神が与えてくれたご褒美に違いない!
方向性、戸籍簿管理、加速度組み立て・・・
閃きを頼りに己を信じ、
唯一無二の技術を完璧にモノにした瞬間である。
この達成感と喜びは昇天ものだ!
このままお迎えが来ても悔いは無い!
今の私は血が脈打つような高揚感と、
湖水が止まったような沈着冷静な状態が往来しているようだ!
音のカラクリの解明も佳境に!
大黒ふ頭、海に向かって車を止め、
静かに脈打つエンジンを止め安堵して独りつぶやく。
「もう大丈夫だ!」 。
このフィーリングをオーディオに活かせたら、
音と音楽の違い、即ち「音のカラクリ」の完結である。
車で成し得たものをオーディオに導入すれば良いだけの話である。唯一の強力なライバルである息子も、私以上に高度なレベル内容を追求している。ケーブルに於ける長さの組み合わせパターンの研究である。まだまだ負けてはいられないのである。
私の求める音の世界。それは無限に存在する。「有ある全て」と「無である全て」の極地とならなければ実現しない恐ろしい世界である。これを極めれば「オーディオ平均律的調律法」の確立となるかもしれない。
ここは東京の目と鼻の先の横浜だが、私の意識は馬に引かれて遥かなる新境地へとたどり着いたようだ。
しかし、これはゴールではない。
新たな旅の始まりなのである・・・