オーディオ界の異端児? 或いは風雲児?
十数年前、停滞したオーディオ界に広島から殴り込みをかけた私も今年で65歳になった。世間では定年を経て第ニの人生を歩んでいる頃であるが、その道にはまだまだ遠い。未だ現役の最前線に我が身を置いている。
周りから見たら、そろそろ隠居しても良い頃だろう! そろそろ広島に帰ってゆっくりとおやりなさいよ! と、いう声も聞こえて来ないでもない。そういう親身な声や孫の話を嬉しそうにする同輩達の事を聞くと、業界ではまるで天狗か海賊のように言われているこの私も、所詮は一人のそれも老境に差し掛かった男。果たして、今の私は幸福なのか? と、ふと立ち止まって考える事もないではない。
ある確信
ところが、最近、オーディオ界で一番恵まれている人間は私ではないか?!
と、決して強がりでなく、素直にそう思えるようになった。
その理由は、「世界で一番いい音を目指す!」
と、掲げた目標の達成圏に一歩足を踏み入れたからである。
まさに音の成層圏突入であり、
私にとって望外の喜びである。
この勢いに乗って、成層圏をも突き抜けるつもりだ!
3台の車から得られたもの
さて、ではなぜそう確信するに至ったか!
音ではなく、最近手に入れた個性溢れる3台の車が、
その確信の元となったというのだから、
皮肉なものである。
決して狙った訳ではない。
音の頂点を目指すには、
同じ音という物差しだけで測っていては、
確かめ算的納得を得難いと本能的に察したからだと思う。
だから、全く違うジャンルでありながら、
置き換え可能な物での摺り合わせ作業が必要となる。
それを私は、「速さ・技能・力」といった、
動的能力に求めているのである。
その対象として好きな相撲や野球といった、アスリート的芸術に眼をやるのであるが、具体的な優劣の差や違いが目に見えて分かり易いという利点はあるが、これらは人間技であり、人工のものであるオーディオの現象の例えとするには、今一つピンと来ない人もいるであろう。
だから、同じく現代の科学技術の粋であり、かつ、動的能力を持った工業製品である車に求める事になるのである。しかし、そもそもそんな理屈で車を好きな訳ではない。感覚を上げる為に常日頃から、自分自身を自由に泳がす事を心掛けているだけなのだ。
それは本当の自分を知る為でもある。
言葉を置き換えると、
「自己の確立と精神の開放」である。
際立って来ると、
「見えざるが見えるが如し」の心眼が研ぎ澄まされる。
俗に言う覚醒という奴だ。
自分にとって、何が必要なのか?
どうする事が、プラスになるのか?
本能的に出て来たピュアーな欲求だったとしか思い当たらない。
運も実力の内と云われるのに似ているかもしれない。
セッティングの技術を製品に
「オーディオクリニック」が価値あるサービスとして認められるにつれて、あらゆるブランドの商品に接する機会も増えた。より深いところまで音を聴けるようにもなった。セッティングスキルの向上は音の逆算力を飛躍的に高めてくれる。
それらが、想像力、閃きに繋がり、製品設計のプラスになるのは自明の理である。誰も異論を挟めるものではない。この両方を同時にやっているのは、我がカイザーサウンドだけであろう。
「ただ単に聴いた経験が有る」のと、「所有者であるお客さんと共に、セッティングという音作りを通してコミュニケーションが計れる」のとでは、丸っきり内容も成果も違って来る。プロとしてのプライド、責任、覚悟の差がそうさせるからだ。
オーディオ業界の誤り
何事も、何人も、皆が正しいと思って行動する訳だから、何度試みても似たような答えにしか至り着くはずがない。オーディオの歴史も裕に50年を越えた。各社競って性能向上に努め、機器の静的性能(エレクトロニクス的性能)を幾ら上げようとも、音楽の魅力や感動は連動しては上がらない。
目指すべき方向は良いとしても、行っている事自体に誤りがあるとしか私には思えない。昨今のヴィンテージ人気はその逆説的証明だ。そんな事実が既に結論として出ている事を認めようではないか!
オーディオ屋さん? いや、オーディオアスリート!
では、成否の鍵はあるのか?
それは動的性能と、どう取り組むかに掛かっていると思っている。
だから私は自分の事を「オーディオアスリート」と呼ぶように務めている。
アスリート達がエネルギー(食糧)を得、運動し、
重力や空気の壁と闘うように、
「電気・振動・気流」が、オーディオの三要素であると見定め、
その仕組みを解明して来た。
その結果、常日頃から口を酸っぱくして言っているが、オーディオにおいて音楽の生気を失わせているのは、このバランスのいびつさにある事が分かった。そして、このいびつさの解決には、置き換え可能なものでの摺り合わせ検証行為において、脳の違う所を働かせた方が裏表の関係を知り易くなるのである。
この一見異物を強引に摺り合わせるような手法が、実は音の解明に有効な手段である事を発見し、実際の製品に活かし、顧客が求める以上の音を目の前で実現して見せ感動の世界を提供する。
そして、未だかつてない境地へと突き抜ける!
改めて言うが、これが、私がオーディオ界で一番恵まれている男だと確信する所以である。
そして、オーディオという土俵でなら、
世界と勝負して勝てる! と、私は本気で思っている。
明鏡止水
今の私にもう迷いはない。
確信(核心)を得た人間の心は澄みきって力が漲っている。
ちょっと大げさかもしれないが、明鏡止水の境地であり、
鋼(はがね)の意志と水のように澄んで自由な心があるのである。
「さあ、どこからでもいらっしゃい!」