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カイザーサウンドのファンの皆様へ

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From: T.T
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Sent: Tuesday, Octorber 01, 2013 20:08 PM
Subject: カイザーサウンドのファンの皆様へ

 9月の下旬、関東で商用があり1年ぶりに上京。その際に深川のカイザーサウンドを訪問したので、最近氏が入手した3台の車の件も併せてレポートする。

□東京、深川にて

さらなる高みに達したカイザーサウンド

 この1か月というもの貝崎さんからたびたび、

 「最近ね、自分でも有り難いと思うほど良い音になったんよ。

 さ、こっちに出てきんさい。」

 と、聞かされていたので、渡りに舟とばかり関東への出張を利用して深川のカイザーサウンドを訪問することにした。約1年ぶりの訪問となる。訪問の度にカイザーの音は飛躍的に進歩しているが、今回はその口ぶりは少しニュアンスが違う。さて、どちらの方へ、そして、どこまで行ってしまったのか胸が高まる。

 いつもの東京駅で待ち合わせすると、氏が最近ぞっこんというランチャで迎えにきてくれた。 今回の訪問のもう一方の目当てはこのランチャだが、この件は後で詳しく述べる。 軽く湾岸を一周していよいよカイザーサウンドへ。

 一聴してすぐこれまでとは違う音のたたずまいだと感じた。余裕度が違う。もうアナログだ、 デジタルだとのたまうことが阿呆らしいようなしっかと大地に足をつけた音があの10センチのフルレンジユニットから放たれるのである。

 前回の訪問時とのハード的な違いは、まずはストリームリバイバーとサウンドリボルバーというルームアコースティック改善アクセサリーの有無だが、これが相当効いている。音楽が部屋中に満ち満ちてマンションの新建材のチープな響きをそこに探りあてることは出来ないほどである。

 この段階でもうノックアウトされているというのに、淨君が昨夜徹夜して作ったというケーブルを手にしている。ピンケーブルの新作である。簡単に能書きを述べてくれる。なんでも調整機能をケーブルに持たせているらしい。よく分からないが論より証拠で早速つなぎかえて聞いてみる。

最初の一音から違う。

「な、なんなんだ!」というのが実感である。

エモーションの質と量が違う。

次に噂の電源対策グッズを空いたコンセントに挿入する。

音楽に生気と深みが増す。

あっけに取られていると氏が、

「この最悪の環境でこうなんですから、

明日伺うYさんの家なら次元の違う音になりますよ。」


 翌日は信州のYさんの宅に、この新ケーブルとクリニックのために出かけるのである。 Yさん宅はサウンドフロアに加え、地元の杉を壁面に配置したほぼ理想に近い音響環境にある。 一体どのような音世界が待っているのだろうか。ホテルのベッドに就いてからもなかなか寝付けなかった。


□マッコウクジラで信州へ

陸の白鯨! クライスラー300C

 信州への脚は貝崎さんがシトロエンCXを手放した直後に手に入れたクライスラー300C。 クライスラー伝統の5,700CC/HEMI-HEAD/OHVエンジン搭載で幅1.9m、車長5mに達する巨体。

 ホテル前に現れた300Cはその角ばった巨体と大きなラジエーターグリルに白い車体色が相まってまさに白いマッコウクジラ。 メルビルの名作「白鯨」(MOBY DICK)を思い起させる大迫力である。

 実は多くのカーマニア同様、米車には偏見を持っていた、大味、時代遅れの技術、低信頼性、大食い・・・。 その米車を欧州車を乗り継いできた貝崎さんがいたく気に入っている。これは認識を改めなければならないかも、と、乗り込んだ。

悠然たる乗り心地はまさにビッグサルーン、

少々の凸凹などは重さでのしていく。

都内を抜けたあとで運転を変わりハンドルを握る。


分厚いトルクが巨体を前に押し出す。

急坂もものともしない。

緩いはずのアメ車のボディはミシリとも言わぬ。

鉄の塊が空気の抵抗など初めからなかったのように進んでいく。

この力強さと大らかさは蒸気機関のようでもある。


アメリカ人には建国の歴史とともに、

蒸気機関車や蒸気船の記憶が深く刻まれているのかもしれない。

乗れば乗るほどどっしりと構えて、

どこからでもかかってこい! という横綱相撲、

天下無敵の金剛力だ。

 信州に入るとこの巨躯が思いの外、軽やかに山道を駆け抜ける。Yさん宅に着くころにはすっかりこの車が気に入ってしまった。 個人的にはレクサスやメルセデスも眼中に入らないほどだ。

冷静に考えてみればアメリカは世界最大の工業国。

兵器の世界ではあらゆる分野でbPなのである。

「アメリカの底力をなめたらイカンぜよ〜!」と、

車にたしなめられているような気がした。


これぞ蕎麦

 信州は蕎麦どころ。田舎に行けば方々に地元の人が手打ちの店を出している。 去年来訪した際も美味しい蕎麦をいただいたが今回はその店から100mほどのところにある別の店に案内していただいた。

 気取らない信州の蕎麦は東京の蕎麦と違って真っ黒。しかし、それが本来の蕎麦であろう。 出てきた蕎麦は並のはずだが東京の3枚分はあろうかという分量。見た目は悪いが素朴で力強い風味に溢れている。

 蕎麦湯は飲んだ瞬間に身体中に浸透して滋養となる。 信州の澄んだ空気と水、そして土までいっしょに食べている思いがする。 まさにこれが蕎麦である。


オーディオは情緒だ!(Yさん宅にて)

 渋滞の影響でYさん宅に着いたのは午後3時前。ほぼ1年ぶりの再会である。
木の香りのするオーディオルームは響きが美しく、それだけで魅せられてしまう。 しばらくこのまま聞いていたいのだが、到着が大幅に遅れて時間に余裕がないので早速ピンケーブルの新作に繋ぎかえる。

同じ曲をスタートさせる。

出だしの一音からもう違う。

ギターの爪弾きの微妙なニュアンス、

歌い手の繊細なビブラート、

躍動感あふれる正確なリズム。


まるで楽器がより高級なものに、

バックの演奏者がより上手い人に、

歌手はボイストレーニングを受けたように聞こえる。

いやいや、そんなことはもうどうでも良いのだ。

ここではオーディオ的評価基準を、

瑣末なレベルに引きづり下してしまう音が出ているのだ。

そこにあるのは演者や作家の姿であり、その内面である。


 近年のカイザーサウンドは評価用ソースに日本の音楽を多用する。 オーディオファンは洋楽派が大半と思うが、同じ民族の音楽を使うということはそれだけ深いレベルで情感を理解出来るからだと思う。

 今眼前で鳴っているさだまさしの「精霊流し」はより哀切の度合いを増し、故人を偲ぶ思い、遠く離れた故郷や過ぎし日への郷愁が切々と伝わってくる。凡百の装置なら単に感傷的なだけであろう。

 世界的な大数学者であった岡潔氏は「数学は情緒である。」と、言い切った。ここで聞かれる音はもうエモーション云々というレベルではない。外国語には翻訳できないと言われる「情緒」がそこにある。 岡先生の言う大和民族の「情緒」のレベルまで達しているのである。もう言葉もないほどだ。

気が付けばもう8時を回っている。

ここでの時は濃く、短くも永い。

北志賀の深い山の闇のなかYさん宅を発つ。

Yさん、どうもありがとう。


□ランチャで宇都宮のイタリア車専門店へ行く

 最後の日はやはり貝崎さんが最近入手したアルファロメオ164を引き取りに宇都宮まで同行する。 ランチャで向かい、帰りは2台で東京へ帰るのだ。

イタリアのプリマドンナ、ランチャ

 若い頃、阪神間に住まっていた時期があった。土地柄、高級外車が多いところでメルセデスもBMWも日常茶飯の街で気になる一台が小さなランチャデルタ、それもラリーで有名でなる前のただの1.5Lの通常モデルだった。

 制約の多いFIATベースの小型の2ボックス車でありながら名匠ジュジアーロは、「トリノの宝石」と言われるにふさわしい気品のある形を与えており、同クラスのゴルフなどはまったくの実用車(実際に実用車だが当時の日本ではステイタス)にしか見えないのだった。

 また、40過ぎのころにランチャテーマ8.32の程度の良い中古車を勧められたことがある。フェラーリによる官能的なエンジンや豪華かつ上品な内装に惹かれたものの、この車には自分はまだ乗る資格がないと諦めた経緯があり、ランチャは30年来の憧れの存在であり続けたのである。

 このランチャカッパはランチャにふさわしく上品かつ官能的な衣装を身に纏っている。よく見ると基本的なシルエットは共同開発したプジョー406やシトロエンエグザンティアと同じだが、面の取り方やフロントやリアの意匠によってまったく違う車に仕上がっているのだ。見事としか言いようがない。さすが美の国、イタリアである。


 エンジンは名機と言われるアルファ製V6だが、ランチャの車格に応じて穏やかに味付けしてあるが、いざ、アクセルを踏みこんでやるとアルファエンジンらしい快音を伴って加速する。

 しかし、この車の素晴らしいところは足回りだ。昔世話になっていた名メカニックから、プジョーとランチャはどんな下位車種でも必ず鍛造のサスペンションアームを奢る、と、伺ったことがある。今は必ずしもそうではないようだが、それだけ足回りに強いこだわりのある社風なのだろう。

乗り心地は快適でシトロエンのようでもあり、

プジョーのようでもある。

コーナーではゆっくりとロールしながら優雅に駆けぬけていく。

レーンチェンジでは全く無駄な動きなく隣のレーンへ移行する。

それも極めて優雅に!

この優雅な足さばきはアスリートというより舞踊家だ。


5月に観たパリオペラ座バレエの公演を思い出した。

我が国の上方舞にも通じる所作を感じさせる部分もある。

車に乗って舞踊を想起するのは初めての経験だ。

それくらいこの車のシャシーは素晴らしく、唯一無二のものだ。


 しかし、失礼を承知で申せば、普通の方にはその良さは分かりにくいと思われる。 貝崎さんのようにフランス車やイタリア車を中心に幾多の車を乗り継いできた人にしかわからないのかもしれない。

 ランチャはまさにイタリアのプリマドンナである。


熱血のイタ車野郎 ダックトレーディング

 年上の方に野郎は失礼だが、そう表現せざるを得ないのが宇都宮のイタリア車専門店、ダックトレーディングの代表、高林さんだ。 若い頃はB110サニーでレースに、その後はラリーに転じ、国際ラリーへの参戦経験もある方だ。その上オーディオ狂というではないか!

 無口な土地柄の北関東においてこれだけ熱く語る人は初めて会う。 ビジネスではなく情熱の発露として商いをやっているような方である。 ランチャはここで購入したとのこと。この店の技術と高林さんの人柄を見込んでアルファ164を「お任せ」でメンテに出してあるのだ。

 (貝崎さんが瀬戸内の水軍ならこの方は足利軍団の末裔か・・・。)
ここは元々がイタリア車好きの小生にとっては天国(地獄?)のようなところ。 長くお邪魔したかったのだが高速道路の渋滞が気になるので早々にこの場を辞した。

 ああ、未練・・・・。

 高林さん、又来ますね!


韋駄天?アルファ

今回の旅の締めくくりはアルファロメオ164だ。

アルファ純血のV6SOHCユニットは、

カンツオーネを歌うが如く気持ちよく回り、

無用に回したい誘惑に駆られる。

この感覚は現代の車には希薄だ。

 しかし、名匠の手によって蘇ったとはいえ、カイザーチューンを施したランチャの後では分が悪い。今回はその片鱗を垣間見たという程度である。 カイザーマジックはこれからだが、素晴らしいコンディションになることを確信した。

 なぜなら並走するランチャから見るアルファの後ろ姿と、運転する貝崎さんの後頭部のシルエットが相似形なのである。

 いやー、本当に楽しい旅となりました。

 貝崎さん、淨君、Yさん、そして高林さん、

 改めてお礼を申し上げます。


 PS.
 車三昧の後、空港に着いて愛車プジョーに乗ると、これはこれで我が家に帰りついた気分。 車それぞれに良さがある。だから車道楽は止められない。もちろんオーディオも!

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