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その25 「すぐに送ってください。さっそく試したいです・・・」


 第29回 「ジャズびたりオーディオ 桃源郷」 寺島靖国・・・オーディオアクセサリー106号より抜粋 

 まず、ローゼンクランツの「ビッグ・ジャズ」について報告しなければならない。毎々お知らせしているとおり、私はローゼンクランツのインシュレーターの愛用者である。我が家にはなぜかこの会社のアゴ上下関係の法則に則った製品が合う。というよりこれが無くては我がオーディオは機能しない。低音の製作者であり、音の凸凹の作り手でもある。特に低音については音の設計者と言ってもいい存在だ。

 ビッグを購入、愛用していたが、ある日電話があり、アンタのために「ビッグジャズ」を作りましたよ、というのである。

 「すぐに送ってください」。

 「さっそく試したいです」。

 「至急頼みます」。

 来た。はめた。聴いた。何が「ジャズ」だ。せっかくの黒いジャズが白いジャズになってしまったではないか。タバコのケムで燻されたライブハウスの空気が一転、すっきりしてしまった。不良がいっきに秀才になった。

 私の愛用する「ビッグ」との違いは、表面と裏面にうがたれたいくつかの穴。それだけである。それだけでこんなに変わるものなのか。私は自分の耳を自慢しているのではない。私のシステムはいつの間にか、変化に鋭い反応を見せるようになったのだ。

 ジャズ。私はようく考えてみた。一口にジャズといっても広うござんす。多種多様である。ブルーノートからECMまで。そうか、分った。私とローゼンクランツのご主人のジャズは違うのだ。彼は私のジャズの好みを分っているはずである。にもかかわらず、始めると結局自分の好みのジャズの音を作ってしまうのだろう。

 彼の音を思い出していた。みなさん、憶えておられるだろうか、彼が我が家へ来て、1日精魂傾け、私のシステムを自分の音に作り替えた。第1音が出て、私は嘆き「低音がなくなった」と言った。すると彼は言ったのだ。「低音て何です」。

 低音も中音も高音もない音。オーディオマニアは最終コースにたどり着き「仙人」になると、そういう音を志望するようになる。広島の彼の店の音。それだ。今回の「ビッグジャズ」はそれに近い音だ。

 私は突き返した。私はまだ仙人になりたくない。汚れた世間で右往左往していたい。10年先の話だ。10年後に相まみえよう。さらば「ビッグジャズ」。日本に30人ほどいる仙人ファンに可愛がってもらえよ。


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