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その17 苦労の甲斐あって感動的な作品になりました


  今回のフェーズプラグの開発には半端ではなく疲れました。特に東京での物作りには知り合いがいませんから苦労しました。タウンページを頼りに電話をしますと、警戒心が働くのか、初めからなめられているというか、何かシックリ来ないところがあります。


 結果からいいますと、大変満足の行く120%の出来栄えの物となりました。

 しかし、途中での苦労は大変なもので、

 一回目の量産では60個作って8個しか取れませんでした。

 二回目はまだひどく、100個作って4個しか取れない有様でした。

 そんな関係で、30,000円だった価格が途中で34,000円に変わったのです。


 さすがに、業を煮やした私は東京での業者をあきらめ、結局地元の広島で作る事になりました。ミラクルサウンド・スクリーンを作ってもらっているロクロ木工所でも、『これは難しいから、心あたりを当たってみましょう』といって紹介してくれたのです。

 そこは厳島神社で有名な宮島のすぐ近くです。箪笥などのつまみを専門に作るところですから、高級家具で有名な広島のマルニ木工の仕事あたりをしているのかもしれません。先ず、伺う前に電話を入れたのですが、何とも、職人ならではの愛想のない話しぶりです。それが不思議な事に、今回は逆に私の耳には心地良く響くのです。

 すぐその足で訪問しましたところ、きれいにスケッチして、こういう刃物で、このようにしてやろうと思います、と素人にも分るように説明してくれるのです。すべて刃物は自分でこしらえると聞いて安心しました。

 旋盤は刃物次第です。

 刃物を作れない者は、ハッキリいって一人前とは云えません。


 今回のフェーズプラグはボイスコイルとのギャップが命ですから、芯出しに大変神経を使います。相手は木の中でも特別に硬いエボニーです。キリの先端が90度あたりの普通の物ですと、捕らえられずに逃げてしまうのです。そうなると、いくら外形がきれいに仕上がっていても使い物になりません。

 その前に、出来上がったフェーズプラグを検査する為の専用チェッカーを、STB-DAIBUTSUを作ってくれている名うての職人に作ってもらっていたのです。それは、わずか0.375ミリのギャップしかない厳しいものです。それに、東京で作った物をねじ込み、チェックポイントを説明いたします。驚いた事に、そんな厳しい話しをしても、その職人は平然として態度を一つも変えないのです。

 この時点で、「よし!、この人ならいけるとひらめきました!」。

 『3日ほどすれば、試作を作っておきますから』という言葉を聞いてそこを後にしました。

 待ちどおしい3日は長いものです。

 楽しみに伺って、物を見て私はビックリしました!!。

 「その腕が良いのには、腰を抜かすほどビックリしました!」。

 まるで金属加工みたいな仕上がりです。


 試作の段階で、もうかなりの感触は得ました。ほんの僅か芯出し用のキリの長さを短くしてもらうことぐらいです。その刃物は素晴らしく、芯出しと面出しを同時にやってしまうモノですから狂いようがないのです。

 『それでもキリが長いと僅かでもブレルので、本番では必要で最小の長さのキリにしてやり直しましょう』といってくれたので、安心して東京へ向けて出発出来ました。量産物が一週間ほどで届きました。

 本番ではいきなり160個作って、不良はたったの5個です。

 これだけ難しい物を作って、木工でこの歩止まり率は驚異的です。


 じっくり聴いてみましたが、音は完璧です。

 シェリングの弾くベートーベンのバイオリンコンチェルトの何と気高く品のある音でしょう。

 この音を聴いてこのフェーズプラグが売れなかったら、

 「もう私にはこれ以上の音を作る力は今の時点ではありません」

 と言いたいぐらい官能的な響きなのです。

 ロザリアのソナタなどは涙が出そうになるほど心が洗われます。

 このフェーズプラグの音をB&Wの設計者が聴いたら何という言葉を発するでしょう・・・。


 苦労が多かった今回のフェーズプラグですが、

 プラス思考で考えると、業者選びを初めに間違ったからこそ、

 腕の良い業者に出会えたと、今では運が良いと思っています。


 振り返ってみれば、ある時点では製品化は無理かなと落ち込んだ時期もありました。

 しかし、大風呂敷を広げているわけですから引くに引けない状況です。

 でも、それがあったからこそ出来たわけですから、

 「ホラも風呂敷も私には絶対必要だなぁ・・・」とつくづく思っています。


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