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アッシャーとカイザーの最高のコラボレーションモデル!


 ● 今井 明

 S-520の改造モデル履歴

 もう1年数ヶ月前になる、初めてアッシャーのS-520というスピーカーを聴いて驚いてしまったのは。シッカリとした作りのエンクロージャー、透明で軽いコーンのウーハーからとても元気の良い楽しい音楽が聴けて最初の値踏みでは5〜6万円ぐらいだだろうと思って価格を聞いて二度びっくりしてしまった記憶がすでに懐かしい。素性の良いスピーカーという評判が口コミで広がったのか様々な形でアイディアを盛り込んだモディファイモデルが作られ、その度に新たな魅力を発見してきた。

 本誌連載でもお馴染みの高橋和正先生のユニウェーブモデルはウーハーとトゥイーターの距離をずらして時間軸をあわせ、余計な振動をしないようにユニットの後ろに錘をつけた重量モデルになった。見通しの良さと高級感のある音が印象的であった。

 年末年始から話題となったX処理をS-520に施したモデルは凄かった。とても滑らかで空気感というか空間の広がりと低音の弾むような楽しい音になった。こちらも高級感はあるのだが幾分カジュアルな親しみやすい音といった所で今でも魅力の衰えないモデルである。

 Ge3がチューニングしたものはS-520をさらに元気良く鳴らしてしまったある意味正常進化モデル?。とにかく鳴りっぷりが良いのが特徴的、かといって荒れているというものではないからそこはさすがである。

 セイシンモデルでは言わずと知れた制振合金を使用したもので、カッチリとした引き締まった再生音だった。こちらはネジを締めるトルクによりかなり音の印象が違ったのが印象に残っている。

 そして、ついにカイザーサウンドが動いた

 このように各社とも目を付けたスピーカーのモディファイに、カイザーゲージを開発して音のカラクリの解明にますます意気盛んなカイザーサウンドがついに取り組む事になった。元々納品などでエンゼルポケットに社長が来られていた時に鳴っていたS-520を聴いた際に、「良いスピーカーだね、これを完璧に鳴らしたらえらい事になるぞ」と言っていたのがきっかけであった。

 さらに、「どうせやるならこれまで書いてきた事のすべてと新しい考えも入れて精魂込めてやります」。「さらに実際の作業と音の違いを聴いてもらって、納得してもらえるような公開のデモンストレーションにしたい」というお話になり、日程の調整などで八月の最終末に行う事となった。これは、公開デモの誌上レポートである。

 満員のお客さんの前で全てを公開

 当日、エンゼルポケットに入ってまず最初の音を聴いてびっくりしてしまった。何が違うって音の存在感がまったく違うのだ。その時点ではスピーカーが変わっていたとは気が付かず(見た目は同じなので)後から聞いて納得した次第。とにかく何も言わないで聴いても良い事がすぐにわかる音だ、これなら大丈夫。時間の少し前から人が増え始め、少し過ぎたあたりからは満員状態となった。

 まずはモディファイバージョンの音を少し聴いてもらってから、箱から出した新品のスピーカーの音を聴いてもらう。これだけでお客さんの目の色が変わってくるのがわかる。この反応の大きさがカイザーならではという気がする。

 早速社長とスピーカーを中心に取り囲み?作業を見守る。まずは箱の左右の方向性から調べて決め、ユニットを外していく。木製のエンクロージャーなので特に響きの方向性が出やすいのだという。そして、ユニットの方向性の管理、社長は毎日のようにこのような作業をしているので感覚が鋭くなっているといって、ほとんど指先で調べるように調べていく。

 見ているとまるで気功師のような怪しげな雰囲気さえ漂う、と珍しく迷われたので何かと思ったらマグネットとコーン、フレームで違うので調べるのに戸惑ったらしい。最終的には全体的な流れで決めるらしいが、こんな細かいところまで気を使っているのに驚いたがそれを見れるのも公開デモならではだ。

 ついでにそこまで修行?しなくてもわかりやすいユニットの方向性の調べ方も公開して頂いた。音を出しながら少しだけスピーカーから外れた所に顔や耳を持っていく、すると順方向では外れた所でも音が聞こえ、逆方向ではすぐに音が聞こえなくなるとのこと、これは手や指で調べるよりもわかりやすいそうだ。

 そしてこの流れは基本的に生き物の流れに沿って下から上に、後ろから前に、内から外に向かうようにするのが人間にとって良い音になる方向だと言われた。話だけ聞くと俄かには信じがたいが、実際に出てくる音に現れるのだからやってみる価値はあるだろう。

 最後には人間が耳で決めること、それが一番大事だと社長は語られた。人間が聴くものなのだから人間の感覚を大事にしなければならない、と。

 吸音材について

 それからこれはもう当たり前といわんばかりにジャンパー線からパッキンの向きまで確かめられた。一つでも疎かにすればそれは全て音に出てしまうから妥協は出来ない、ということらしい。そして、S-520の数少ない気になる点の一つである吸音材の交換作業に移った。もともとメーカー製のスピーカーは例外を除けば測定値を良くしたり暴れを抑えるために吸音材を多めに使っている。それもコストダウンのためにあまり良い素材は使われない事が多い。

 S-520に入っていたのも粗毛フェルトとスポンジ状のありきたりなものだった。これを何に変えるのかと思ったら貝崎社長が取り出したのは何と新聞紙とカレンダー!これにはさすがにびっくりしたが「木と紙の相性は良いのです、元々同じものなのですから」とのこと。さらにこれをシュレッダーでほど良い幅に裁断し絡める。長さはもちろんいくつかのカイザーゲージ上の波の良い所だ。

 音楽の波は複雑なものなので単一の材質では吸音しきれない、だから硬めのカレンダーと柔らかめの新聞紙を使いさらに様々な長さで瞬時にエネルギーを受け止めるという説明、なんだかわかったようなわからないような感じだが実際に手で押し込んでみると丁度良い感じだ。お客さんも触りながら確かめていたがこんな機会は滅多にないだろう、これも程よいところという人間の感覚が大事なのだそうだ。

 さらに目玉?!、加速度組み立て

 内部の改造が終わり、後はネジを締めて終わりというところでまたまたとんでもない事を言い出した、「一週間前にやっと出来るようになりましたが、ネジの順番も指定して締めたいと思います」トルク管理はあったけれどネジの順番とは?つまりネジにも方向性やエネルギーの方向性があるから、それを下から組んでいって一番エネルギーが抜けるネジを一番上になるように順番にしてやることで音楽のエネルギーが加速されるのですとのこと。

 さすがに絶句したので作業を見守るとネジを並べて指先で方向性見ている様子、場所が決まったところでそれぞれを締めていく。この時も下が一番強く、上に向かってだんだんエネルギーが出るように締めるらしい、これはトルクドライバーでも同じようにすることがあるので納得出来る。やはり響きを生かす事が音楽を活かす事になるのだ。

 カイザーサウンドは音の調律師

 そして組み立てが終わって鳴らしてみると、先ほどのノーマル状態とは全く別物になり先ほどのモディファイバージョンの雰囲気を纏う、この雰囲気感、音の濃さ、せまってくるような音の強さがカイザーサウンドらしさと言えるだろう。

 これはアッシャーだけでなく他の全てのスピーカーから聴けない音だと感じた。その場にいた誰もが長時間にも拘らずほとんど帰らず、もちろんモディファイしたスピーカーは売れて、S-520を持っている人はその場でモディファイの予約をしていったという結果が何よりの証拠だろう。

 何か良い表現はないかと考えた末に浮かんだのが「調律師」という言葉だ。

 いかにピアノの名器と言えどもきちんとした調律をしないままでは素晴らしい音楽を奏でる事は出来ない、スピーカーはやはり楽器なのだ。工場生産から出たばかりでは調律されない楽器と同じで音が出るだけである。

 これを人間の感覚に合わせて調律するからカイザーのモデルはどれも「音楽」が鳴るのである。このモディファイモデルはまさに良く調律された楽器で、どんな音楽でも素晴らしく鳴らしてくれる、この一言に尽きるだろう。すでにS-520をお持ちの皆さん、一度愛器を調律に出してみませんか?きっとスピーカーも喜ぶはずですよ。


 A&Vvillage 64号より転載

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