伊勢海老と松葉ガニ |
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東京での全ての仕事を終えて、さぁ! これから広島に向けて帰ろうとした時・・・・ 「コン!コン!・・・?」、 運転中に助手席の窓を叩く音がする。 妻が窓を開けると。 「奥さん!奥さん!これから広島まで帰るの?」。 と、気さくに軽トラに乗った”おっさん”が声をかけてきた。 「実はねぇ!、内のかみさんがお宅と同じジャガーに乗ってんだよ、生まれは広島でね、それで、つい親しみを感じて声をかけたんだけどさぁ!、今日は、俺の娘に赤ん坊が生まれて機嫌がいいから、伊勢海老くれてやるから持っていけよ!」。 「ここじゃなんだから、この先の車を止めやすいところで渡すから、ちょっとついて来な!」。 と言って、私の前に出てハザードランプをつけ、橋を渡ったそのたもとで車を止めた。 |
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「ご主人ご免な!、これ見てくれよ!、・・・どうだい!、・・・凄いだろう!」。 軽トラの荷台には、発泡スチロールに入った伊勢海老、毛蟹、松葉ガニとそれは立派なモノばかり。 「さっき!、産婦人科のその医者に30万ばかしお礼をしてきたところなんだけどさぁ!、”伊勢海老”と”蟹”も渡そうとしたら、ジンマシンが出るといって、金だけ受け取って、いらないと言いやがった」。 「これ持ってみな!、生きがいいだろう?、俺はついそこで、従業員を750人ほど使ってこういう商売やってんだけど、いま時こんな良い毛蟹は取れないんだよ!、ロシアのその筋にそれなりの事をして、俺ん所にはこんなに良い物が入ってくるんだけどさぁ!」。 「車は、俺の場合、ベンツの600だけど、それにしてもご主人いい時計しているねぇ!・・・(実は、19,800円)」。 なるほど、靴はメッシュの6万円は下らないだろうと思える物を履いている、この男は少なくとも金持ちには見える。とにかく、話のテンポがなんとも良い。この話し方は漫才そのものでもあるし、またテキヤそのものでもある。生でその実演を見せてもらっているようで、話が聞いていて凄く楽しい。これは暗記物に等しい話し方である。私も営業一筋30年だからよ〜く分る。こうして、楽しそうに受け答えしているようであっても、私の心は非常に冷静です。それにしても、”立て板に水”と寺島さんから言われた私もたじたじです。 「銀座の料亭に卸しているし、大阪の黒門にだって卸しているよ」。 「それに、ついこの間も、俺テレビに出たんだよ!、どうしてこんな立派な毛蟹がお宅にだけ手に入るんだ?」といって。 「いいかい!」。 と言うなり、松葉ガニの足を1本折って、 「ホラ!、食ってみなよ!」。 と差し出す。 一口で、それをほおばるとプリンプリンしていて、甘味があって本当においしい!。 「奥さんも、ほら!、食ってみな!、どうだい!、美味ぇだろう?」 「ハイ、美味しいです」。 「ところで、奥さん、東京には何の用事で来たの?」 「ハイ、この近くにマンションを探しに、それと大学生の息子がいるので逢いに来たんです」。 「どこの大学?」 「東京商船です」。 「俺も東京商船だよ、じゃ後輩だなぁ!」 「何から何まで重なり、不思議なご縁ですねぇ〜!」 「そうだなぁ!、3456このナンバーも俺の金庫の番号だよ!、ハッハッハッ!」 「ところで、ご主人今いくら金持ってる?」 あれ?!、さっきまでくれてやると言っていたのに、”おかしいなぁ”と、このあたりから思った。ちょっと戸惑いながら、ジックリと考えたあと、 「2万円です」。 「奥さんはいくら持ってるの?」 家内は私の顔色を伺いながら、 「私も2万円くらい、でも帰りのガソリン代もいるから・・・!?」 「そうは言っても、ただじゃ何だから、松葉ガニ4つと伊勢海老をおまけで1つ付けてやるからこれで3万円でどうだ!、これで気に入んなきゃ仕方がない、俺もそれ以上はいくら何でも出来ない、さぁ!どうだ!、もってけ!」。 「分りました、貰いましょう!」。 「じゃあな!」と言って、軽トラのおっさんは去って行った。 道中、車の中でその出来事に対して、妻と二人の間で話に花が咲きました。「毎日、孫が 5〜10人くらい生まれるのだろう」との結論に達しました。「広島」が「群馬」になったり、「長野」になったり、はたまた、卒業校は「早稲田」になったり、「慶応」になったりするのでしょう。 しかし、楽しいひと時を過ごした感じで、ペテン師のようでもあるが、不思議と憎めないキャラクターなのでした。そして、味は天下一品美味しかったです。 |
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