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その52 VIV lab 編

VIV labのフラッグシップスピーカーevanui signatureType3が、メグで聴けるというので喜んで参加しました。初期のモデルとはユニットが変わっていて、まるっきり別のスピーカーに変身していました。

8センチから15センチへと大型化しての登場です。そのユニットの付いている金属ハウジング部一式を交換出来るので、バージョンアップがどの世代からも可能なのはよく考えられています。

アルミの振動板が照明に反射してキラキラ光るのが印象的です。大きな鳥の瞳を見ているようです。振動板はと言うと、0.1ミリ厚のアルミを短冊状に切った物を手で折り、円形に繋いでいるそうですが菊の花にも似ています。正真正銘の手作りユニットです。

ユニットの付いてあるハウジング部はアルミブロック削り出し。木部のエンクロージャーは18ミリ厚のアピトン合板を60数枚積層して独特のフォルムに削り出しているのです。手間を掛けた拘りの作品というのが一目で分かります。

共振しない事を理想とする設計なので、ユニットとエンクロージャーが一体となる波動を目指そうとする、私のスピーカーの理想とは対極にあります。そのVIV labスピーカーの特徴は、何と言ってもダンパーレス、エッジレス振動板にあります。磁性流体によって収まるように収まる形で保持される構造だそうで、固定はされていません。

ユニットの付いている金属ハウジング部一式で交換出来るのでバージョンアップがどの世代からも可能なのはサービス性が高くよく考えられています。

今回初めて体験したその音は、素晴らしい音とそうでない音がハッキリと二層に分かれて鳴っていて、材質の異なるキャビネット振動と一体化していないのが分かります。

未だ設置したばかりなので致し方ないところはあります。しかし、その音はとても大きな可能性を感じさせます。本来の実力を発揮するには1時間ぐらい必要とするのかもしれません。

良くも悪くもシステムの能力や部屋のコンディションがモロに出る、怖いスピーカーというのが第一印象です。また、ソフトとの相性も大きく出るし、とにかく神経過敏症と診断しても構わないほどなのです。

敏感過ぎると感じるのは、理論に構造と作り込みが追いついていないのか?

あるいは、スピーカーが高度過ぎて使いこなせていないのか?


そうこうしていると、環境に馴染み始めたのか、スピーカーのタイミンが合って来て徐々に良さが出始めました。しかし、半年前にVIV labのトーンアームでアバンギャルド・デュオを、このメグで鳴らした時の鮮烈な音から比べると、その時の魅力の半分しか出ていません。

振動研究をしている私の立場からの答えは、その両方共にあるとみています。束縛されないフリーエッジ振動板はアンプからの動作命令に素直に動ける長所と共に、自らが起こした反射波によって、その動きを邪魔され易いという”諸刃の剣”状態がこれほど顕著な例はありません。 

従って、セッティングの良し悪しも大きく出てしまいます。高度な道具を高度な技で操った時のパフォーマンスは、誰をも興奮状態に陥れる事が出来るでしょう。全てはそのポテンシャルを活かせるかどうかに掛かっています。その情景が目に浮かぶもどかしさを感じていた時に、会長の中塚さんがお開きを匂わせる挨拶を始めました。

折角の研究の成果が理解されないまま終わろうとすることが、とても残念に思えて来たのです。まるで自分の事のように、ステレオ屋としての性が上手く鳴らしてやりたい! 本当の実力を分かって欲しい! そんな衝動が体の中から駆り立てるのです。

良い物は良い! それは、他人の作品であれ我が作品であれ、変わるものではありません。どれだけ高度な技術であるかというのは、モノ作りを志す者同士にとって分かる何かがあるのです・・・。

「後半の音は開発者ご自身の意図とする音ではないように思えるので、もう一度秋元氏が納得する組合せで鳴らしてみてはどうでしょう!?」 と私は提案しました。出しゃばった風に取られると開発者の顔を潰すことになりかねません。

それと同時に、秋元氏の耳元で「スピーカーの位置を微調整させて貰っても構わない?」と許可を取りました。私と彼との間には隠された逸話があるのです。ラスベガスのオーディオショウのVIV labブースで、そのセッティングに於ける信頼関係が3年前に両者間で出来上がっていたのでその点の心配は不要でした。 

ほんの数センチ動かしただけです。

その時だけは、研ぎ澄まされた集中力で納得の行く位置出しが出来ました。いつものように音を聴かずに、ひたすら集中力だけで先程まで聴いた音の貯金を元にセッティングするのです。

普通の人が見たら百人が百人オカルトとしか思えない筈です。しかし、メグではもう既に、三、四回こうしたシーンをお見せしているので、何もなかったように受け入れてくれる環境が出来つつあります。

秋元氏が取っておきにと用意した、

パーカッションの曲が鳴らされた瞬間! 

一体何が起こったのか? 

と言われんばかりに、

生々しい音が炸裂したのでした。

私の睨んだ通り、イヤその倍は上回るポタンシャルを持っていることが分かりました。正にモンスターユニットです。VIV labには日本人の能力の高さを世界に知らしめて欲しいと願っています。

現在ローゼンクランツでは、フィーストレックスの和紙製ユニットで高級スピーカーを作っていますが、このユニットをカイザー流にアレンジして、高性能スピーカーを完成させたいという私のスピーカーフェチが頭をもたげて来ました。

真剣にモノ作りに取り組んでいる者同士が、技術披露のような形で出会うのはとても刺激に富んでいます。

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