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第1回 材質(素材)による音の違い 
A&Vvillage 3月号 第54号 P80〜P81

貝崎静雄(カイザーサウンド)

 音の因果関係

 独自ブランドのオーディオ製品を製作、販売するようになって十数年、ここ最近になってようやく「音と様々な要素との因果関係」が分かるようになってきました。

 「長時間聴いていると疲れてくる」「音はいいのに音楽が心に響いてこない」

 こういった問題点もそのステレオの状態を見れば、短時間で解決策が分かるようになってきました。また音づくりに対して明確な方向性をお持ちの方には、瞬時にして的確なアドバイスをして差し上げられるようになりました。

 表に現れてくるすべての現象(結果)には理由(原因)があります。その因果関係を十分に理解していると、どの様な問題もたちどころに解決できるのです。

 オーディオには命がある

 オーケストラを例に考えてみましょう。大編成のオーケストラで心響かせる音楽を奏でようとする場合、演奏者個々の技量が高いことも大切ですが、演奏者全員が心をひとつにし、明確な意志を持った指揮者の統率の元、全体として美しいハーモニーを奏でるようでなければなりません。

 オーディオにおいても同様です。オーディオの指揮者であるリスナー自身が明確な音の方向性を持つことが大切です。そしてその上でそれぞれのコンポーネントが最高の実力を発揮できる状態にし、同時に全体のバランス、チームワークを整えるといった作業が必要不可欠なのです。

 オーディオはひとつの生命体です。その持ち主が愛情をかけオーディオに与えられた命を光り輝かせるよう努力と工夫をしなければなりません。ただ単にお金をかけただけではその装置から「いい音」は鳴っても、「いい音楽」を奏でることはできないのです。

 5つの要素からなる「音のカラクリ」

 これまでの経験から、オーディオ・コンポーネントの命を光り輝かせるための「音のカラクリ」を5つの要素(と総括)に分けて考えてみました。

 1 材質(素材)による音の違い
 2 形状による音の違い
 3 色による音の違い
 4 素材の持つ響きの方向の違いによる音の違い
 5 構造による音の違い
 6 5つの要素が織り成すバランスとハーモニー

 今月から六回に渡り、「音のカラクリ」と題して、音と様々な要素との因果関係についてお話していきたいと思います。

 まず最初は(材質)による音の違いについてのべて見ます。

 オーディオは楽器である

 オーディオ・コンポーネントを『様々な音楽を奏でる楽器である』と考えたならば、楽器として理想的な素材がオーディオにとっても理想の素材であると考えています。

 しかしどの様な楽器でも限られた範囲の音色しか出しません。ピアノは決してトランペットの様な音を響かせることはありません。しかしオーディオではひとつの装置で大太鼓の様な激しい音から鈴の様な繊細な音色まで常にニュートラルな状態で再生しなければなりません。

 そこで最近はすべての素材の持つ響きを押さえ込むことによって理想の音を追求しようという動きが主流となってきました。

 しかし「ローゼンクランツ」では、その素材の持つ響きも音楽情報の一部であるという考えの元、これまで様々な商品開発を進めてまいりました。

 そしてその素材のよさを最大限に活かすことが、美しい音楽を再生するための最良の方法であるという考えに至ったのです。

 では楽器にとって、オーディオにとって最良の素材とは何でしょうか。楽器の世界では長い歴史の中で、多くの素材の中から「木」と「金属」、大きく分けてこのふたつが選ばれてきました。

 ● 木材について

 木にも様々な種類があります。模型飛行機に使われる羽根のように軽い「バルサ材」から、水にも沈む「黒檀」のように硬くて重い木まで。その特性はまさに千差万別ですが、「柔らか過ぎてもダメ」、「硬過ぎてもダメ」、ちょうどいい具合が良いのです。

 この両極の間に数え切れない種類の木があり、それぞれ独自の個性を持っています。そして多くの人たちが使ってみた結果として「桜」、「カエデ」、「楢」、これらの木が一般的に良いとされ高い評価を受けています。

 ただすべては『適材適所』、どの様な木をどの様な場所に使うかは、長年の経験と勘を要することです。一概にあの木とこの木とではどちらがいいとは判断できません。これは木だけではありませんが、すべての素材は最高に活かされる場所を与えられ、初めてその持てる能力を発揮できるものなのです。

 「ローゼンクランツ」のサウンドフロアーの床材にはハードメイプルの無垢板を使うのですが、その下の根太材にはそれより柔らかい米松を使います。

 振動は硬い物から柔らかい物へと行きたがる性質がありますので、その性質を活かした使い方をしているのです。その結果他の要素とも相まって、音楽エネルギーが自然と前後左右、高さを持った三次元方向への広がりを持つという訳です。

 「ローゼンクランツ」では、「ハードメイプル」が最も振動伝達性に優れ、他の素材とのマッチングも良好であるとの判断をし、縦方向に継ぎ目のない柾目の一番いい木を主たる製品、「オーディオラック」、「スピーカーのエンクロージャー」、「ウッドブロック」、「オーディオボード」、「オーディオの床材」等に採用しております。

 そしてこれら木材が理想的に組み合わされた時の有機体が織り成す美しいハーモニーは、物理特性を超えた生きた音楽の感動というものをダイレクトに聴き手に伝えてくれます。

 ● 金属について

 「ブラスバンド」、直訳すれば「真鍮楽団」ということになります。吹奏楽における楽器の素材の王様といえば何といっても真鍮でしょう。金管楽器は、ごくわずかに高価な銀を使ったものがある以外は、そのほとんどが真鍮でできています。

 真鍮(黄銅)は加工しやすく耐食性に優れており、その素材自体の響きもまた素晴らしいものです。

 オーディオで使う素材は、その存在を強く主張するものであってはなりません。しかし素材自体の響きが美しくなくてはならず、再生する音楽と美しいハーモニーを奏でるものであることが絶対の条件です。

 そういった意味でも「ローゼンクランツ」では、オーディオ・コンポーネントを支えるインシュレーターの素材には真鍮が理想であると考え、真鍮の持つ素晴らしい特性を活かす様々な工夫をした製品を数多く作り出してきました。

 また実際に他の様々な素材と聴き比べをしてみますと、真鍮という素材の持つ人肌を感じさせる暖かい音色は、聴く人の心をとても和ませてくれます。この事については、また『色による音の違い』の所で詳しくご説明させていただきます。

 前述の木と同様に金属もまた「硬過ぎてもダメ」、「柔らか過ぎてもダメ」ということです。インシュレーターの場合、硬過ぎる金属を使うと、コンポからの信号がインシュレーターを介して反発してコンポに戻り、その時間差を伴った振動が音楽信号を汚してしまいます。またそういった素材を使うと音がきつくなり、長時間聴いていると疲れてしまいます。

 金属もまた『適材適所』なのであり、周りの素材との関わりがその真価を発揮させるために重要な条件となります。

 インシュレーターの良し悪しを見分ける簡単な方法があります。そのインシュレーターを入れて音量が上がったように感じるのであれば、それは良いものでしょう。また逆に音量が下がったように感じられるのならば、それは本来音楽の持つエネルギーを十分に取り出せていないのですから良くないということになります。

 素材の組み合わせ

 木と金属、有機物と無機物、それぞれの素材の持つ特性、長所を活かして使うことが大切です。

 これまでの経験から、振動の流れに沿って木と金属を交互に使うことが理想的であるということを感じています。コンポのインシュレーターは金属製、その下のラックは木製、そしてそのラックの下に金属製のインシュレーターを介して木製のフロアーを敷くといった具合です。

 どうしても同じ素材が重なった場合、金属同士なら音が硬くなり、木材同士なら腰の弱い音になってしまうという傾向があるようです。

 素材の『適材適所』ということと同様に『互いを活かし合う関係』ということも、命あるオーディオを光り輝かせるための欠くことができない重要な要素であります。

A&Vvillage 3月号 第54号 P80〜P81に掲載されています。

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