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第2回 形状による音の違い 
A&Vvillage 5月号 第55号 P78〜P79

貝崎静雄(カイザーサウンド)

 見た目通りの音がする

 形状による音の違いは、前回の材質(素材)による音の違いと同様、誰にでも容易に理解できることでしょう。

 角の取れた丸いものは叩くと柔らかい優しい音がして、角張ったものは硬い金属的な音がします。

 オーディオ機器においても同様です。丸い曲線的なアンプやスピーカーは角のとれた柔らかい音がして、角張ったいかついアンプやスピーカーはその形の通りいかついきつい音がします。

 自然界の形のバランス

 私たちの身の回りの自然界を見てください。草花、木、動物、石、人体、そのほとんどが直線と曲線の両方がバランスされた形でできています。

 直線だけ、曲線だけで構成されているというものは極わずかしかありません。

 曲線的なものは雲、花、人間のお尻など触覚的に柔らかなものが多く、逆に直線的なものは岩肌、樹木の幹、動物の骨など触っても硬いものがほとんどです。

 つまり曲線的で丸いものは音も触覚的にも柔らかく、逆に直線的なものは音も触覚的にも硬くなる傾向があるということです。

 しかし例外的なものもあります。長年濁流にもまれた川原の石は全く角のない丸いものが多くあります。

 これは人に例えると苦労を重ねて性格が丸くなるということ、オーディオに例えるとエージングが進んだ機器はきつさが取れてまろやかな音になるということに相等するのでしょう。

 自然の摂理の面白いところです。

 ローゼンクランツのインシュレーターの形状に見る音の設計の違い
 
 PB-REXUとPB-DADDYのふたつを例にとり、形状に見る音の設計の違いを考えてみましょう。

 見比べていただいて分かる通り、REXUの方は角が少し角張っており、面取りにしても45度の角度で直線でカットしています。DADDYの方は全体に角の取れたデザインで、丸みが基調となっています。

 音の違いもREXUは若さと可能性溢れたパンチのある音、DADDYはスムーズに流れる力強くもまろやかなバランスの取れた大人の音といった印象です。

 これは全く見た目通りの音の違いであります。

 シンバルの形状

 シンバルの厚みのある「ジャーン」という響き、多くのジャズファンがこの音に魂を奪われています。

 にじんだような暖かな音、濃密な余韻、その音の秘密はシンバルの表面にある細かなディンプル(くぼみ)にあります。

 このたくさんのディンプルが音に微妙なタメと厚みを加えるのです。

 ジャズの魂

 『熱狂的なジャズファンである評論家の寺島靖国氏の最高に気に入るインシュレーターを作ろう』

 この思いがキッカケで、PB-BIGを母体としたPB-BIG JAZZの開発に取りかかりました。

 まっ平らなBIGの表面に、シンバルと同様のディンプルを中心に一個、内周に5個、外周に10個、計16個作ります。

 これで振動にタメと厚みを加えようという作戦です。

 PB-BIG JAZZの誕生

 試作でひとつだけ作ってみました。

 結果は大成功でした。音に輝きと陰影が出てコントラストが鮮やかに浮かび上がってきます。

 このコクのあるつややかなサウンドはジヤズファンなら誰しも求めてやまないものです。

 リズムのノリが一段と深くなります。

 そしてまたクラッシックを聴く時に使っても、それはそれでひとつの趣のある音として聴けてしまうのですから、音とは楽しいものです。

 異分子の影響

 BIG JAZZの音に与える影響は、ステレオ機器全体のたった一個のインシュレーターを代えただけでも誰が聴いても分かるくらいの大きな変化がありました。

 それはディンプルの効果が絶大であるという以上に、ステレオ機器全体の振動の足並みを揃えている状態の中に違った傾向のものがひとつでも入れると、その異分子の性質が大きくクローズアップされるということでもあります。

 振動の足並みを揃える

 しかしその後アンプ、CDプレヤー関係の12個のインシュレーターすべてをBIG JAZZに代えてみて、音は大きく変化しました。

 目の前にこれまで経験したことのない音世界が広がったのです。

 とてもジャズ臭い音になったかというとそうではありません。

 ひとつひとつの音に魂が宿ったかのように音楽が生き生きと鳴り出したのです。

 ジャズ、クラッシックなどの音楽ジャンルは全く関係ありません、すべてのCDから上質のアナログレコードの様な芳醇な音楽を聴くことが出来るようになりました。

 これまでのBIGが「静」、禁欲的で内にエネルギーを秘めたタイプなのに対し、BIG JAZZは「動」、官能的でファイトを前面に押し出すサウンドです。

 これはインシュレーターすべてをBIG JAZZに揃え、振動の足並みが揃ったことより全体の統一感がとれ、その本来の力、個性が存分に発揮できたためです。

 ディンプルの効果

 ゴルフボールにはたくさんのディンプルがあります。このディンプルをなくしツルンとした状態にすると空気の流れを切り裂くことができず、すぐに失速してしまいます。

 競泳用の水着も前回のオリンピックから鮫肌の様なザラザラした素材が使われています。これも表面が平らなものよりも凹凸がある物の方が水を突き破っていく推進力が得られるという実験結果に基づいています。

 音楽情報を伝える信号も空気や水の流れと同じく波動です。

 波の様に流れてくる情報をより正確に伝えるためには、表面にディンプルを設け、その流れをスムーズに、あるいは加速してやることが大切なことなのです。

 だからと言ってディンプルの数は多ければ多いほどいいという訳ではありません。その形状や深さも行き過ぎない程度、丁度いいぐらいが丁度いいのです。

 縦方向の振動伝達

 それとディンプルには縦方向の凹凸を付け、波動の上下の動きをうながすという役割りがあります。

 多くの回遊魚は身体を横方向にくねらせることにより、ゆったりとした泳ぎをしています。

 しかしイルカが一気にジャプをする時には、身体を縦方向に大きくしならせ爆発的な推進力を得ています。

 上下の波動の伝達が大きなエネルギーを取り出す重要なポイントなのです。

 BIG JAZZの開発過程で振動伝達のより深い真理が分かってきました。

 すべてのパーツの足並みを揃える

 振動の足並みを揃えるという考え方は、インシュレーターだけの問題ではありません。

 電源、ライン、スピーカー、すべてのケーブルを構造面も含めて振動面で同一の思想で作られたものを使わないと、本来の性能を発揮することができません。

 ひとつのステレオに開発思想の全く異なるケーブルを組み合わせた場合、全体のチームワークが乱れ、統一感のないチグハグな音になってしまいます。

 これはオーケストラでもすべての楽団員の呼吸が合って、初めていい音楽が奏でられるのと同じことなのです。

 三点支持のすすめ

 振動体を支えるインシュレーターは三点支持が基本です。

 カメラを支える三脚が三本足である様に、三点支持は支えられるものに全くブレを与えない理想の形態なのです。

 しかし多くのメーカー製品は、四点支持を採用しています。

 これは『音のよさを追求』した結果ではなく、『扱い易さ、安全性』を求めてのものだということをユーザーは理解しておいてください。

 自然から学ぶ

 前回も書きましたが、ステレオはひとつの生命体です。

 その命を光り輝かせるためにはどの様にすればよいのか。

 それを導き出すためのヒントは、全てが必然から成り立っている自然界の中に必ず存在していると考えています。

 それこそが「カラクリ」なのです。

A&Vvillage 5月号 第55号 P78〜P79に掲載されています。

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