第12回 「音のカラクリ」の恐さを知った今回の商品開発
A&Vvillage 1月号 第65号 P86〜P87

貝崎静雄(カイザーサウンド)

  ● スピーカーのフェーズプラグの役割
 かねてより開発を進めておりました、B&Wスピーカー専用のフェーズプラグについて体験した事を中心に今回はお話してみたいと思います。そうは言っても、「フェーズプラグとは何か?」、ご存じない方がおられるでしょうから、先ず最初にその説明をさせて頂く事から始めなければならないでしょう。

 コーン型のスピーカーの中心部に付いている砲弾型をした親指ほどの大きさの部品です。何の為に付いているかといいますと、お茶碗の形をしたコーンが前後に動く事によって中心部で波動がぶつかり合って音波が乱れます。そのわずかな乱れが、音の暴れや、歪となって周波数特性に大きな影響を与えるのです。それを防ぐ為に、波形を乱さないように上手く音波を拡散させ、イコライザーの役割を持つ砲弾型のフェーズプラグが用いられているのです。


  ● フェーズプラグの開発に着手した理由
 そもそも、なぜ私がフェーズプラグを開発するようになったのかを打ち明けなければ話は前を向いて進んで行きません。事の発端は、B&Wスピーカーをお持ちのお客様宅へセッティングにお伺いして思ったことなのですが、かなりの方が各社から出ている別売のフェーズプラグに変更しておられる事です。しかし私が聴く限り、そのほとんどがかえって音を悪くしているのです。

 この手の物は旋盤加工所へ現物を持ち込み、「これと同じ物を○○の材質で作って下さい」といえば、その日にでも出来上がるような代物です。全てがそうだとは思いませんが、そんな安易な作り方にしか見受けられないようでなりません。

 ノウハウも、理論も、メカニズムも充分とは思えないのに、付けられた値段だけは超一流なのには驚かされます。結果としての音がなに人にも文句を言わせないものでありさえすれば、幾らの値段をつけるのも一向に構わないと思います。

 しかし、最重要項目の一つである材料の響きの方向管理すらも出来ていない物がほとんどです。ですから、交換した事がかえって改悪になってしまい、左右のバランスが崩れて聴くに堪えないのです。それは社外品に限らず、現実はと言うと、方向性の管理に関しては純正のメーカー製であっても然りなのですから残念なことではあります。

 

  ● 持ち前のファイトがムクムクと湧いて来た
 こうした音の心臓部に当たるような重要な性格の物は、本来ならB&Wスピーカーの長所、短所を知り尽くした上で設計されるべきです。私がこの手の安易な物に手を付けなかったのは、あまりにも発想が貧弱で物造りに魅力を感じなかったからです。

 経験上、想像以上に音が変わるところなのは分ってきました。非常に単純な部品なのですが、振動が音に変わる瞬間のところですから、これほど大事なところは無いといっても過言ではありません。持ち前のファイトがムクムクと湧いて来て、「音のカラクリ」を研究してきた立場の私がそれを証明せずして、誰が出来るのかという気持ちになってきたのです。


  ● B&Wスピーカーの音の特徴
 B&W800シリーズの音はクールでハイテクノロジー・サウンドというのが大方の見方のようです。これに「ヒューマンな感じが織り込まれたら申し分ないのになぁ!」と思っているのはB&Wオーナーならずとも、今一歩購入をためらっている方にとっても嬉しいことではないでしょうか。

 ハイテク素材をふんだんに使っている関係上、そうなるのは致し方のないことではあります。ローゼンクランツではその部分にスポットを当て、開発いたしました。その人肌の温度感については、ローゼンクランツが一番得意とするところです。

 

  ● オリジナルと数ある市販品群の形状に見る音の違い
 図面はまだお見せしていませんでしたので今回披露させていただきます。オリジナルの図面と対比出来るように横に並べ、そして、その違いから何を狙ってそうなったのかを説明してみたいと思います。機種によって材質の違いがありますが、私が基本にしたのは805のシグネチャーです。それはアルミで出来ていてネジの取り付けてあるネックの部分が、肉眼では分からないぐらいほんの僅かですが、実は中心に向かってすり鉢状に削ってあります。即ち外周の部分で幅の狭い円接触になっているのです。

オリジナルのフェーズプラグ ローゼンクランツフェーズプラグ

 これはパラボラアンテナのようにエネルギーを中心に集める作用が働きます。一旦発生した音楽振動エネルギーが聴き手の方向に出て行かないで、自分の方に逆流する事自体が拙いのです。これが音抜けの悪い原因の一つでもあるのです。

 いくつかのメーカーから発売されているフェーズプラグを店頭のショーウインド越しに見ますと、もっとも良くないのは完全に階段状に内側の部分を座具っているのです。これでは音楽振動を内部に閉じ込めてしまい、時間軸のずれたにじんだ音になるのは頷けますね。これはダムを作ったことによって魚が川に戻れないのと同じ状態です。即ち音楽という命が繋がれて行かないのです。この両者の形状の説明からしても、明らかに純正の方が良いのが分かっていただけるでしょう。


  ● ローゼンクランツの形状に見る特徴
 ネックの外周部分をアール加工しております。これによって中心のネジで受けた音楽エネルギーの流れは、砲弾の先端方向に向かってスムーズに流れて行くのです。このアールの緩やかさをどれ位にするのかがポイントなのです。これを決めるだけでも波動コントロールというローゼンクランツ特有の微調整技術がモノを言うのです。

 私の設計のイメージは横から見たこの形状をレース場のコースに見なしているのです。車が淀みなくいかにスムーズに流れるように運転出来るかという風に。結局のところは、どれだけ良い音で聴きたいかという思いの強さが最後にはモノを言うのではないでしょうか。


   ● 能力の限界に挑戦してみたい!
 欲張りかもしれませんが、フェーズプラグ一つでどこまで音質向上が図れるか?、私自身の頭の中にイメージしている音を具現化するのが今回の大仕事です。改善したい項目を列挙してみました。

血の通った音にしたい


 中高域のハウジングキャビネットに代表されるように、B&Wスピーカーはハイテク素材の多用によりS/Nの良い音が得られている反面、市場では音が冷たいとの評価です。その為にギターのネック材に使われるエボニーの無垢木を採用しました。本当に音楽が好きであれば、音を聴くと何をして欲しいかスピーカーがキチンと教えてくれるのです。3つのユニットの素材に全て違うモノを採用していることによる音のつなげ方の難しさがありますが、フェーズプラグの残響時間を長くすることによって、心地良く、また各ユニット間の響きの融合を図る事が出来るのです。
 

ユニットの繋がりを良くし、エネルギーを前面に出したい


 方向性の強い無垢木の特徴を活かし、砲弾型のフェーズプラグに伝わる音楽電気振動エネルギーを勢いよく押し出せるように、ネジの先端の加工形状を105度の円錐型にします。ネジの形状、精度、長さのバランス等の力を借り、肝心なフェーズプラグには生命が誕生するかのように感情表現の中枢を司る中音域が形成されます。これで初めてナチュラルな喜怒哀楽の表現が可能になるのです。また、3つのユニットに繋がりが生まれ、音楽は見違えるように上に下に倍音が伸びて行きます。 

アタックを強く、切れの良い音を出したい


 ネジの太さ、長さ、ハウジングの穴繰り等を見る限りにおいて、比重が7も8もするような重金属を採用するような軸強度設計はどこにも出来ておりません。ネジ部分にストレスが集中しますので、せめてオリジナルのアルミの重さが限度です。実際にネジの部分を指先で持ってみるとよく分るのですが、3分と持てない筈です。この構造を車に採用したらたちまち金属疲労で命取りです。車のフロント重量が重たくなると挙動が安定せず、ハンドル操作は意のままにならなくなります。

 そうです、ヘッドを軽くしてやらなければ瞬発力が生まれません。その為にも今回採用したエボニーという素材があらゆる面で理想なのです。スピーカーユニットの中心部に取り付けられるネジの長さの配分比率に於いては、充分な強度設計のもとに設計されて初めて安定した足場の確保が出来ます。そのネジに採用した素材は自身がほとんど鳴かないシリコン入り真鍮のエコブラスです。音を切れ良く立ち上がらす為には足場がシッカリしていなくてはなりません。

拘りの専用エコブラスネジ


 B&Wフェーズプラグ専用エコブラスネジの出来栄えは素晴らしく、感動ものです。拘りの設計はスムーズに音楽エネルギーを放出させる事を狙って、先端部分の直径を0.1ミリほどテーパー状の先細りにしたことです。たった0.1ミリの違いですが、その効果は音楽の流麗感となって大きく現れます。そしてエンド部の十文字に入れたスリットの効果もまた大きく、程よい響きの美しさを生み出します。

 また、フェーズプラグ内にねじ込まれた部分の長さと、スピーカー本体側に入る長さの比率配分がエネルギーの強さと響きの美しさの両方の鍵を握っているのです。それも独自の波動コントロール法でミクロの調整を取りますので、なんともいえないウェルバランスな音楽が誕生します。その具体的効果としては、先ず立ち上がりの速さとなって現れ、当然その恩恵はアタック音にも顕著に現れます。そして更なる効果は超微弱音までも明確に描き出し、その結果情報量は何倍にも跳ね上がります。

  ● ある音楽家のお客さんから頂いた体験レポート
 オイストラッフとロストロポービッチの共演したブラームスのダブルコンチェルトを聞きました。ロストロの最初のソロから気迫が伝わってきました。その後にオイストラッフが出てくるとこれも凄い、ただ美しくふくよかな音というだけではなく音楽が迸り出てきます。命がけで演奏しているのが良くわかります。これは演奏家のすぐ傍で聞く音です。キンキンしてうるさい音なんかしません。傍で聴いてキンキンするのは下手なヴァイオリン弾きだけ。

 よく、演奏家の近くで聞く音は、演奏雑音などが入ってあんまり音楽的な音とはいえないなどといった事を聞くことがあります。この人が言う音楽的な音とはいったい何なのでしょうかね。弦楽器のソロとか弦楽四重奏などは傍で聴くのが一番音楽が伝わってきますね。ただし装置が、マイクで拾った音を正確に再現できた場合に限りますね。ローゼンクランツのこのフェーズプラグは、正確な再現プラス命が吹き込まれた音といっても良いと思いました。

 次にアルゼンチンタンゴ.カミニート 前田はるみとオマールバレンテアナログレコードでなくては出ないと思っていた畳み掛けたり弾んだりして、聴いている自分の体まで持っていかれそうなタンゴのリズム感、レコードを超えた?かも。前田はるみの歌の心が即即と伝わってきて、ライブをその場で聞いているみたいです。背中がぞくぞくしてきました。

 後ちょっとずつ、オーケストラものとかオペラなど次々聴いてみると、ピアニッシモでも音が痩せず意味を持って鳴り、今までよりボリュウムは絞り気味なのに、フォルテッシモは際限も無くと思えるほど盛り上がっていきます。下はコントラバスから上のヴァイオリンまで弓を当てて音が出る瞬間の再現が凄く良く出て、音楽的な再現を助長していることは勿論、音的にも快感です。金管楽器なんかホーンスピーカーで鳴らしているようなリアルさです。

 椿姫のヴィオレッタのアリアなんて涙が出そうです。スピーカーがオーケストラだとしたら、フェーズプラグは指揮者みたいです。今までろくな指揮者が居なくて嘆いていたところに、本当にすばらしい指揮者にめぐり合えて、やっと待望の常任指揮者が決まった。そういう思いがします。

 もっと若い時にこういう音で音楽を聴いていたらなあと思うのは、単なる愚痴ですね。将来的に、ナイアガラスタンダードをつけたら、もっと温度感が上がってもっと素晴らしくなるのでしょうねきっと!。エボニー製フェーズプラグ、本当に素晴らしいものを、本当に有難うございました。

  ● 結び
 音楽家の方から頂いたレポートにもありますように、親指ほどのたった一つの部品によって、音楽の根本表現まで変わってしまうという恐ろしさを今回ほど感じた事はありませんでした。フェーズプラグひとつの中に、「素材による音の違い」、「形状による音の違い」、「構造による音の違い」、「響きの方向性による音の違い」、「色による音の違い」といった、「音のカラクリ」のすべてを見た思いがしました。

A&Vvillage 1月号 第65号 P86〜P87に掲載されています。


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