トップ情報音のカラクリ第23回 音のクリニックとセッティング編

第23回 音のクリニックとセッティング編

 【クリニック開始前の依頼文と状況説明】

 ● 現状

 今回のクリニックをお願いするにあたり、まず私のシステムと問題点をお伝え致します。

 ご参照下さい。

アンプ(プリメイン型) SANSUI AU-07 Anniversary Model
CD&DAC Nakamichi DORAGON CD & DORAGON DAC
スピーカー Dynaudio Special 25

 以前はDynaudioのコンター1.3を鳴らしておりましたが、現在はその時の設定を基に若干のチューニングを施してSpecial 25を乗せております。これをモンスターケーブルのスピーカーケーブルでアンプに繋いでいます。システムラックはADKでスピーカースタンドはAcoustic ReviveのRSS‐602です。

 理想とする音

 私の理想とする音は演奏者や歌い手の息遣いや気配が感じ取れるような実態感のある《音楽》です。刺激的で重箱の隅を無理やり見せびらかすような《音》は望みません。仕事柄、生楽器の音を耳にすることが多いため、楽器は楽器らしく鳴り、アンサンブルとしての調和のとれた《音楽》と《気配》がスピーカーを通して欲しいのです。

今回のクリニックではまず現状のものが一体どのくらいのレベルまで音楽として蘇生できるかを体感し、"音のカラクリ"の実態を出来るだけ解き明かしてみたいと思います。今まで楽器の演奏者として自分のシステムと向き合ってきましたが、オーディオのプロによって引き出されたシステムの本当の姿を見てみたいと思います。

 【クリニック開始】

 ●ノウハウによって出せる音

 さて、いよいよクリニックの開始です。最初にとりかかったのは部屋の響きの癖と建材のチェック。次に音を鳴らしながらアンプのEQを変えて倍音成分の整合性とその特徴の把握を行い、アンプとスピーカーの連係を確認した後ひとまず診断終了。

 この結果を受けてスピーカーをその時点における部屋の最も適した位置へ移動しました。これにより部屋の反響とスピーカーの空気振動に折り合いをつけることが出来たわけです。次に左右のスピーカーを入れ替え、スピーカーケーブルの長さをふたつのスピーカーが同調するように片方だけ短くし、最後に左右のスピーカーケーブルの+・-のHOT/COLDの配線の役割分担を今までと逆にして終了。

 この結果、左右のスピーカーの方向性が一致しアンプとの連係も完全にシンクロされたまま繋がったのです。これだけの作業に費やした時間は約1時間というところでしょうか。どの過程でも音は確実に変化しましたが、スピーカーやケーブルの入れ替えの根拠となった部屋の建材のチェックと響きの癖を見抜いたうえで倍音成分の整合性を把握することなど、実際に作業を目の当たりにしても素人が見よう見真似で身につけられるものではないことをすぐに悟りました。

 これらの作業で腕一本による無料クリニックはほぼ終わりを迎えましたが、これでとりあえずシステムのチームワークは結束され、音楽の流れにバランスのとれた道筋が出来あがったのです。

 潜在能力の開花への道筋

 ここまでの過程で現状のシステムで音楽を蘇生できるレベルはほぼ確認することが出来ました。これからは「限られた予算でいかにして最大の効果を得るか」というテーマに臨みます。このテーマに対して一番重要となるのは、組まれているシステムのなかで高い潜在能力を秘めたまま引き出されずにいる機器は何なのかを見極めることです。

 今回のターゲットはスピーカーです。なぜならスピーカーの発生する振動が、それ自体だけでなくシステム全てに多大な影響を及ぼすからです。その上、スピーカーの能力が高ければ高いほどより多くの空気を振るわせ、ますます出音を濁らせてしまうのです。

 スピーカーにおける足回りの重要性

 私のSpecial 25は以前、他社のインシュレータとローゼンクランツのPB-COUSIN(H)をスパイク受けに使っておりました。しかし今回のクリニックを受けるにあたり、インシュレータをPB-REXUへ、スパイクをスタンド純正の物からSK-42/SK-52.5へとそれぞれ変更しました。

 このスパイクの組み付けに関しても、今回のセッティングは無料クリニックの対象になるので、私自ら行うよりも遥かに完璧な組み付けができました。この時点でもシステムの表現力は格段に向上しています。この後、予定ではスピーカーケーブルを変えるつもりだったのですが、スピーカーケーブルよりもCDからアンプへのピンケーブルの欠点が顕わになったため、まだ未発表だったMusicSpiritのピンケーブルを急遽、導入することになりました。

 スピーカーの足回りの強化により、今まで解らずに残されていた問題点が最後に浮き彫りにされたのです。これにより音の流れはさらに格段に良くなり、システムの基礎体力の大幅な向上が成し遂げられました。

 仕上げの加速度調整

 こうした過程を経て最終的なスピーカーの適正な設置場所が決められ、高度なスピーカーの調律である加速度調整が仕上げとして施されました。

 今回のメインテーマである「最も少ない予算で最大の効果と手に入れること」がついに達成されたのです。Special25はもはや優れた音楽を奏でる楽器同然です。どんな音源であっても即座に反応し、澄んだ音色を出しています。

 それもこれもまず何処に・何を・どの程度施すのか、という明確で適切な判断が必要とされるポイントに無駄なく処置が施されてために、当たり前のように現れた成果なのです。 す。

 流れてきた音楽の姿

 今回のクリニックによって生み出された音を端的に著わすために、妻の感想を引用します。まず、ひとつひとつの音が明確で芯がはっきりしているにも関わらず、きつい音ではないこと。響きに調和がとれていてスピード感があること。そして何より楽器の表現がよりリアルになったことです。

 私はアコースティックギターの演奏家ですが、妻が言うにはギターの弦の並びがそのまま音場表現されていることに一番驚いたと言うのです。ご存知のように演奏中のギター弦の並びは低音弦が上側で高音弦が下側です。一般的にステレオでは左右の定位はPanで、奥行きを含めた遠近感は残響成分の加減で表現されますが、高、中、低の定位は高い音は上から、低い音は下から出て来るのが普通です。

 しかしそこで表現されている音場はギター本来の姿のまま低音弦が上側から、高音弦は下側から聴こえてきたのです。今回のセッティングではギターという楽器の、オーディオで最も表現しにくい部分をあっさりと浮かび上がらせてしまったのです。

 クリニックを終えて

 今回のクリニックによって生み出された音楽は、自分の耳にある程度の自信を持っていた私に対して、身体全体で音楽を受け止めるという感動の原点を改めて気付かせてくれました。

 正直、今まで自分は一体何を聴いてきたのかと思わされる程、音楽の聴き方も変わりました。最後になってしまいましたが、今回のクリニックの機会を与えてくださったカイザーサウンドの貝崎静雄社長と、実際のクリニックとセッティングをして下さった貝崎浄氏に心から感謝致します。本当にありがとうございました。

 栃木県足利市  K.O

■ おことわり

 K.O様より実際に頂いた体験レポートは8,000字を越える大作でした。でも与えられた紙面は2ページですから無理をお願いして上のように要約して頂きました。このままではあまりにももったいないので、ローゼンクランツのお客様訪問のところには原文のままを掲載させて頂きましたので是非ご一読下さいませ。

 お客様訪問記 プロの音楽家のシステムをクリニック

 カイザーサウンド 貝崎静雄


A&Vvillage 11月号 第76号に掲載されています。

どんなご質問でもお気軽にお尋ねください。

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