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第4回 素材の持つ響きの方向性による音の違い
A&Vvillage 9月号 第57号 P86〜P87

貝崎静雄(カイザーサウンド)

 インシュレーターの方向性のデモンストレーション

 '97秋のオーディオエキスポに、A&Vヴィレッジが中心となって始めた、「A&Vヴィレッジとその仲間達」と言う、数件の寄り合い所帯的な形のイベントにカイザーサウンドは初参加しました。その時に、「インシュレーターの方向性による音の違い」というデモンストレーションを、多くのオーディオファンの前で実演しました。最初は、私のうさんくさい話に少し戸惑いを見せていましたが、正面の一等席にいた人には違いがよく判ったのでしょう。私に向かって驚きの表情と、息を吐き出すように「・・・オォォー」と言う、小さな感嘆の声が届いてきました。それに引きずられるように、「分った!」と大きくうなずく方も何人か出てきました。

 その時にお聞かせした方法は、スピーカーの下に入れてあるインシュレーターの上下の向きを、片チャンネル分だけ反対にして聴いていただくものでした。どういったところに気をつけて聴いたらいいのか、最初は要領が掴めにくかったのでしょう。それを悟った私は、すぐさま、「それでは!」、「いいですか〜?」、「よ〜く聴いてくださいよ!」、「片方のスピーカーからは、音がほとんど聞こえてこなくなりますから・・・」と、聴くポイントをお知らせしてすぐに、「今度は、さらに前後の向きを反対にしますよ!」と言って、クルリと180度まわして音出しをしたら、今度こそ全員分ったみたいで、会場には驚きとも、何ともいえないようなどよめきが起こりました。今では常識のようになりましたが、これが多くの方の前でお披露目した初めてのデモンストレーションでした。

 多くの非難中傷も聞こえて来る中で

 オーディオケーブルの方向性については、ずいぶん前から言われてきておりましたので、そのことには誰も疑うことはありませんが、電気信号の通らないインシュレーターに方向性があると言うことにおいては、誰もが体験するまでは信じ難い事だったでしょう。ステレオというもの自体、電機メーカーが生産を担って来たものですから、とにかく、電気に頼るところが多く、どなたも多かれ少なかれそうした影響があって、それ以外の要因で音が変わると言う話には理解するのに時間がかかるみたいです。

 オーディオ界において、「地動説」を唱えるようなものですから、何かと苦労がありました。あの男は「口が上手いから気をつけろ!」とか、「そんな話はまゆつばだ!」とか、「オカルトに決まっている!」とか、色々なことが耳に入ってきました。しかし、何を言われようと強い信念の元に、「素材の持つ響きの方向による音の違い」を、くり返し地道に広める活動をしてきたことによって、今では、「そんな事は常識だ!」と言うまでになってきました。何事も根気よく続けることが大切だと、しみじみ噛みしめております。

 色々な素材の持つ響きの方向性

 つぎに、オーディオ製品によく使われる、いくつかの代表的な素材を取り上げ、それらの持っている音の特徴と、響きの方向性が生まれてくる原因や理由みたいなものを、私の体験を中心に説明してみたいと思います。

 <木が持つ響きの方向性>

 カンナを掛けるときに、逆目で掛けると木がささくれる事はどなたもご存知のことでしょう。実はこの事と音の流れる方向の関係が同じなのです。このように目に見えることについては理解しやすいですね。スムーズに削れる方向に向かって音は流れようとします。すなわち、成長した方向=(時間軸の方向)に音の響きの方向があるのです。つまり枝先の方に向かいます。そして年輪方向(水平方向)についても同じで、成長の方向=すなわち内側から外側に向かいます。それともう一つは、木の成長は南側に大きく年輪が偏心して育ちます、それだけ太陽から強いエネルギーを貰っているということになります。幹のままの場合は、太陽のエネルギーの方向=南から北に向かいます。

 <圧縮ボードにおける方向性>

 圧縮ボードの響きの方向性は、年輪のある木ほどの強いエネルギーはもっていませんが、しかし、これとて侮れないものです。練り固めたこれらの材料が固まっていく(成長の時間軸)方向に響きの方向があります。すなわち早く固まった方から最後に固まる方へということになります。この圧縮ボードの音の特徴としては繊維が粉々になった物ですから、木というより紙を固めた物との中間ということでしょう、その為、断続波ですから振動の伝達性おいて遅く、ムチのようにしなりのある音は苦手です。すなわち、生き生きとした音は出しにくいのです。

 <塗装による響きの方向性>

 ほとんどのスピーカーボックスは圧縮ボードで作られますが、音の抜けが悪いのはその材質の関係だけではありません。実はそれ以上に音抜けを悪くさせている原因は、エンクロージャーの外側にだけ厚い塗装を施し、内部はそのままにしてあるところにあります。表面は固く目をつぶされていますので音楽のエネルギーは弱い箱の内部へと向かい、聴き手の方には一向に訴えかけてくるものが生まれないのはその為なのです。見かけだけではなく本質的に音を良くする為には、むしろ内部の方を同等もしくは少し固めにするべきなのです。

 <金属の持つ響きの方向性(伸銅品)>

 ローゼンクランツのインシュレーターは真鍮の丸棒から加工していくのですが、それらの材料の響きの方向性についても理屈は全く同じです。伸銅の材料は、実際に作るサイズの物より少し太い「ビット」といわれる熱された状態の物を、型の中を通して押し出したり、引き抜いたりして出来上がっていくのですが、先に引き出された(先に生まれた)方から最後に引き出された方に向かいます。水平方向については、それが冷え固まるときに置かれていた時の状態=下から上の方向になります。ケーブルの出来る工程も同じで、ただそれが太いか細いかの違いだけです。

 <金属の持つ響きの方向性(鋳物製品)>

 溶かした金属を砂型に流し込んで作る物で、冷え固まった時の状態=下から上に、南から北になります。ですからローゼンクランツのACパワーディストリビューター=「ナイアガラ」は南北に置いて、なおかつ北側から湯を流し込んで作るのです。また一般によく見かける鉛のインゴットはネームが書かれてある方が下にして出来ていますので、そのままの状態という事はネームを下にして置くのが正解になります。実際に騙されたと思って試してみてください、押さえつけられたような鳴り方だったのが、気持ちよく音が上に立ち上るようになります。

 電気も振動も実は表裏一体のもの 

 アンプやCDにローゼンクランツのインシュレーター使うと、うんと聴き易くなって音楽に命の息ぶきを感じるようになるのです。それも不思議な事に、アナログ部のDAコンバーターばかりでなく、「0」と「1」のデジタル信号しか扱わないはずのCDトランスポートであっても同じ現象が起こるのです。という事は、電気が流れれば振動が発生し、振動が発生すれば電気も発生する。表裏一体のもので、「電気」と「振動」とを別けて考えないで、同じモノ=(エネルギー)と考えるのが妥当のようです。

 そのエネルギーがぶつかり合ったり、流れにくかったりする事が音楽の良し悪しに大きく影響しているようです。その点、「歯と歯茎の構造」のローゼンクランツのインシュレーターは、振動の逆流を許しませんので、音にストレスが掛からないのです。また、その物性の特徴というものを知り尽くした上で、響きの方向を「垂直」、「水平」共に管理して製造していますので、流れるような音楽性が生まれて来るのは容易にうなずけますね。

 「音楽情報電気振動エネルギー」

 どうやら、「電気」も「振動」も別けて考えないで、音楽を伝送するエネルギーとして考えると色々と楽になってきます。「音楽情報電気振動エネルギー」、略して”音楽電振エネルギー”と名付けたいと思います。「『電気の時間軸』と『振動の時間軸』を揃える事が大切である」。と随分前からローゼンクランツでは言って来ましたけど、それは、直感的に私の心と肉体が感じ取っていたのかもしれません。スポーツの世界でよく使われる言葉として、「心、技、体」というのがあります。すなわち心と肉体が一つになった時にいい結果が出るといいます。そうした時のエネルギーをイメージして頂くといいと思います。

 アンプ等について、「行き」と「帰り」という言い方をよく耳にしますが、私の場合はこう考えています。人間の身体で例えると心臓から送り出される血液からエネルギーとして姿を変えて外へ出て初めて心臓に戻ってくる。その血液の流れの方向は動脈と静脈で確かに行きと帰りになっていますが、そのバランスは常にゼロを保っていると感じています。勿論アンプについても同じように思っています。そして空気を揺るがし、人間の耳に音楽として感じるモノがエネルギーであり、その”音楽電振エネルギー”そのものにはプラスもマイナスも存在せず、「行きっ放しの一方通行」と考えております。それを証明するのに、スピーカーケーブルも、アンプの内部配線も、全て、プラスもマイナスもエネルギーの流れる方向に揃えた方がスムーズに音楽が流れる様になります。

 歌い手や演奏者は、聴き手に向かって感情(音楽情報)を伝えようとしますが、上記のような理屈によって作られていないオーディオシステムで聴いても、一向に心に感じるものが伝わって来ないのはその為なのです。音楽が流れやすいようにしてやらずして、機器の性能だけにそれを追い求めても、素晴らしい音楽性を手に入れることは出来ません。ハードが十分でなくても、それらを受ける環境を良くしていってやれば見違えるような音楽を奏でてくれるようになります。

 エージングについて

 「この製品は音楽性が高い!」とか言われているのは、抵抗勢力が少なく、使われている素材や部品の方向性がよく揃っていることを指しています。また逆に、この製品は「エージングに時間がかかります」と言っているのは、それらの方向性の不揃い部分が多いということを言っていることであって、何の自慢にもなりません。良く出来ている製品は、新品の時から嫌な音はほとんど出しません。もちろん、こなれて来るに従って、さらに良くなることは言うまでもありません。

 ロ−ゼンクランツ哲学の集大成パーフェクトモデル

 ローゼンクランツには、芯線の素材からすべての被覆材、さらに端子の素材など全13項目にわたって音の方向性を徹底して管理した、パーフェクトモデルと呼ばれる夢のようなケーブルがあります。 基本的な考え方としては、先ほどらい力説している信号の流れと響きの方向性。この両方の要素を、ケ−ブルのどの構成パ−ツひとつとっても「完璧に揃えきる」という姿勢を貫いたのです。

 そのパ−ツ数は何と13項目!完成までにまるまる8〜10時間を要し、製作しては試聴、また製作………を繰り返し、まさに血と汗の結晶ともいうべき完全ハンドメイドの逸品。ピンプラグやスピ−カ端子といった、端子部(接触部)にまで徹底してこだわりト−タルの方向管理を実現しているのは、世界に例がありません。この思想のもと、完成したパ−フェクトモデルの音を、ぜひ一度あなたの耳でお試し下さい。一聴してまるで世界が違うといった印象。際立つ分解能とS/N。何よりも、音楽そのものが淀みなく流れ出て、感動がふつふつと湧き出すはずですね。

 ローゼンクランツのオーディオラック

 棚板にはローゼンクランツ自慢のハードメイプル集成材=(縦方向継ぎ目無しの1本通し)を採用、もちろん、その都度、節の無い1枚の板を作り、響きの揃った兄弟の材料で組み立てます。そうした拘りを持って作っていますので、他のラックとは完全に一線を画した物になっております。もちろん、ローゼンクランツのお家芸である「信号の流れ」と「振動の流れ」をリンクさせた上で、下から組み上げていきますので、その音は天空高く立ち上っていきます。

 当然、脚のステンレスのパイプも、方向管理された上で同じ材料から切り出されます。また、棚受けの手法に至っては、手間がかかっても、強度のある「方杖式」で縦方向に溶接してありますので、「剛」と「柔」が巧みに織り成す、力強くも美しい絶妙のバランスの音に仕上がっていくのです。その特徴としては音がムチのようにしなり、まるで、音楽が生きているかのように「緩急」と「強弱」を抑揚豊かに描き分けることです。

 スピーカーユニットのエネルギーの方向性

 スピーカーは丸い形をしていますので、一般的な意識としては「同心円状」あるいは「放射パターン」のイメージしか湧いてきません。実はそこが落とし穴なのです。元はと言えば、鉄の丸棒を輪切りにしてそれに着磁をしたものですから、その金属の結晶の方向は「前後」・「左右」・「上下」の3方向の「直線パターン」を持っているのです。この方向性が左右揃っていないと、エネルギーバランスも狂い、音像がスピーカーの真ん中にピタッと来ないのです。

 勿論定位についても、もう一つ気持ちよく決まりません。最悪のパターンは、高音ユニットを上下のウーハ−で挟み込む形の仮想同軸のモデルにおいて、上のウーハ−ユニットのエネルギーの方向が下に向いている時です。これは押さえつけられたような鳴り方で、バスドラムの音が高い位置から下に向いて聞こえてきますから不自然きわまりありません。この場合の解決方法は、各ユニットの響きの方向を調べた後、角度を変えて組み直すと解決致します。今のところ、まだ世界のスピーカーメーカーはどこも気が付いておりませんが、いずれ世界の常識になってくるのは間違いありません。

 可能な限り、ノウハウの公開に努めます

 体験して頂かなければ納得のいかないことばかりですから、カイザーサウンドでは出来るだけ多くの方にこれらの研究の成果を聴いて頂く為に、年内に東京に試聴室を開設する予定でいます。是非楽しみにしていて下さい。また、疑問やご質問のある方はカイザーサウンドの貝崎までご遠慮なくお問い合わせください。

A&Vvillage 9月号 第57号 P86〜P87に掲載されています。

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