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日米安保条約なぜ再改定か(中) 安全と利益のため相互協力強める

2011.9.23 15:33 MSN 大阪大学大学院教授・坂元一哉

安保条約が結ばれてから今年で60年になる。この間、この条約とそれを骨格とする日米同盟は、日本の安全と繁栄に多大の貢献をなしてきた。戦後政治は長らくこの条約をめぐる国論の分裂に苦しんだが、いまはそれも不思議に思えるくらい、「日米同盟基軸」が国民のコンセンサスになっている。

安保条約は、先の大戦を処理したサンフランシスコ平和条約の草案作成過程で、日本が米国に提案したものである。日本政府は平和条約の中に安全保障の取り決めが盛り込まれることを嫌い、日米間で安保条約のような別個の取り決めを結ぶよう、独自の草案を作って米国政府に要請した。

米国はその要請に応じたけれども、日本が草案で希望した条約の形は拒絶する。日本の安全は地域(太平洋)の安全。地域の安全は米国の安全。だから日米が協力して日本を守ることが互いの安全のためになる、という形である。米国は、防衛力のない日本とはそういう相互的な条約は結べない、として厳しく拒絶した。

以後、安保条約と日米同盟の歴史は、その相互性の獲得と発展の歴史だったと言ってもよい。1960年の改定で条約は、日本政府が望んだように、地域(極東)の安全のために日米が互いに協力する相互条約になった。当初は同盟の相互性は形式的だった。だが、日本の国力と防衛力が成長するにつれ、78年と97年の「日米防衛協力のための指針(ガイドライン)」策定などに見られるように、実質的な相互性を高める努力がなされてきた。


「2つの危機」が象徴

21世紀最初の10年間に日米両国は、それぞれ「9・11」、「3・11」という危機に直面する。この2つの危機への対応に日米両国が安保条約の権利義務関係を超えて協力しあったことは、まさに同盟における相互性の発展を象徴するものだった。

今回の安保条約再改定案も、その相互性のさらなる発展を狙ったものである。ポイントの一つは、条約と同盟の目的が両国相互の利益になることをより明確にすること。もう一つは、相互防衛の対象地域を広げ、基地の貸借を双方向にして同盟協力の相互性をより明確にすることである。

前者に関して再改定案は、条約の対象地域を「極東」から「アジア太平洋」地域に拡大している。これは、米国が近年「太平洋国家」を自任し、ますます「アジア太平洋」への関心を強めていることにも対応するものである。日米の地理的関係から見て、より相互性のある対象地域を設定することになる。

日米はこの地域の平和と安全の維持という目的のために協力しあう。それとともに、この地域が両国の国益にあう形で発展することを期待し、この地域の「自由と繁栄の諸条件を助長する」(前文)ことも同盟の目的にしている。

後者に関して再改定案は、「アジア太平洋」地域での相互防衛を打ち出す。いまの安保条約が、条約の対象地域である「極東」よりさらに狭い「日本国の施政の下にある領域」のみの相互防衛になっている点を、大きく改めるものである。

同時に再改定案は、基地の貸借についても条約の相互性を高める工夫をしている。米国だけが日本から基地を借りることができるのではなく、日本も米国から訓練基地などを借りることができるようにする。


実質強化は漸進的に

両国の一方だけが他方から基地を借り、相互防衛は一方が支配する領域に限られる。そうした安保条約の形は「互いの安全と利益のために互いに協力する」という相互性の基本を見えにくくする。同盟の相互性強化のために安保条約の再改定が望ましいと考えるのはそのためである。

もちろん、「アジア太平洋」地域における相互防衛、相互の基地貸借と言っても、実際の同盟協力は地域の戦略環境と日米双方の実力を考慮したものでなければならない。その意味では、条約を再改定しても、相互性の実質的強化は漸進的なものになるだろう。

また、再改定案に規定するような同盟協力を実現するには、集団的自衛権の行使が必要になる。この点で再改定案は、日本はいかなる場合でも集団的自衛権の行使ができない、とする従来の政府憲法解釈の変更を前提にしている。

そのこともあって、この再改定案はすぐに実現できるものではないかもしれない。だが提案者の一人としては、この案が安保条約と日米同盟が今後進む方向についての議論を活性化させるきっかけになることを心から期待している。

【プロフィル】坂元一哉

さかもと・かずや 本紙「正論」執筆メンバー。1956年、福岡県出身。京都大学大学院修士課程修了、三重大学助教授などを経て大阪大学大学院法学研究科教授。「戦後日本外交史」で吉田茂賞、「日米同盟の絆」でサントリー学芸賞、正論新風賞(2008年)など日米関係に関する活発な評論活動で知られる。

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