2011.10.1 18:00 MSN
戦後日本外交「最大の敗北」は、やはり「憲政史上最低の首相と官房長官」コンビにより、起こるべくして起きていた。しかも、実際には自分たちの政権が司法に介入しておきながら「地検独自の判断を了とする」などと言い繕った嘘によって。
昨年9月の尖閣諸島沖・中国漁船衝突事件から1年余。事件で逮捕された中国人船長を処分保留のまま釈放したのは、菅直人首相と仙谷由人官房長官(いずれも当時)の政治判断によるものだったことが明らかになったのだ。菅政権で内閣官房参与を務めた松本健一氏が産経新聞のインタビューで証言した。
仙谷氏のブレーンとして知られる松本氏が参与に就任したのは事件後の昨年10月15日だが、事件の最中も仙谷氏から「こういう電話が菅首相からあった」とか「中国とのホットラインはあるか」、「なぜ中国側はああも強固なのか」といった相談をたびたび受けていたという。
松本氏は、政府内にも事件発生当初は、「国内法にのっとり断固として裁くべきだ」という菅氏らの考えと、「釈放すべきだ」という仙谷氏らの考えの両方があったことを認めたうえで、那覇地検のミスで「証拠のビデオテープに重大な瑕疵(かし)があり、有罪にもならないと官邸側が判断した」と説明する。
その結果、菅氏も「仙谷氏の方に正当性があり、裁判が維持できないと納得した。菅さんは自分に責任がかかってくる問題は避けたがっていた」と答えた。こうした経緯から、検察当局に釈放を命じたのは「仙谷氏の可能性が高い」と指摘している。
当時から、さまざまな状況証拠によって「濃厚」とされた疑惑が、ほぼ真実に近かったことが裏付けられた証言だと言えるだろう。
つまりはこうだ。当初は法治国家としての体面と国内世論の反発を恐れながらも、対中外交を無難に進めたい思惑に駆られ、事件解決をヒステリックなまでに急いだ菅氏。一方の仙谷氏は中国に対する過度の思い入れから、法律知識を悪用して半ば強引に釈放劇を演出したという構図だ。
事件の最中は「なぜ中国側はああも強固なのか」と素朴すぎる疑問を抱き、後になって中国の態度硬化を「20年前ならいざ知らず、政治・行政と司法の関係が近代化され、随分変わってきていると認識していたが、あまりお変わりになっていなかった」などと釈明する。仙谷氏の中国や共産党政権に対する偏愛ぶりが事件によってあぶり出されたと言えるだろう。
政治指導者の恐るべき外交感覚の欠如が、いかに国益を損ねるかを示す好例でもある。
焦点となるビデオテープの瑕疵について松本氏は、「明かしてはまずい」と言及を避けており、依然ベールに包まれたままだ。だが、「ビデオテープの証拠能力に問題はなかった」(検察幹部)、「検察は中身を慎重に見て判断しており、瑕疵は全くの言いがかり」(元検事の郷原信郎弁護士)との指摘もある。実は、瑕疵というのも虚偽で、単に法と正義をねじ曲げていただけだとすれば、民主党政権はいずれ歴史によって断罪されることを知るべきだろう。(森山昌秀)