朝日新聞デジタル【赤田康和】2012年12月11日
「日本には若者を草食系にさせておく余裕はないはず。若者は強くなり、筋肉を鍛えてもらわないといけない」。少子化に悩む国ニッポンの若者たちへのメッセージを米国の元国務長官であるコリン・パウエルさんに求めたところ、こんな熱い言葉が返ってきた。
朝日新聞の新年企画では、フェイスブックに特設ページをつくり、新しい日本のかたちを議論中だ。まず少子化の解決策を語り合っている。「リーダーを目指す人の心得」(飛鳥新社)という著書の刊行を記念して来日したパウエル氏に東京都内で会見する機会があった。国際報道部記者との共同取材。私は最後に一つだけ、あえて少し複雑な質問をした。
「経済成長を続ける強い国をめざすべきか、低成長の弱き国でも幸せな社会を目指すべきなのか、日本人はいま難しい選択を迫られている。若者の中には、実在の人間との恋愛よりもゲームや漫画などを楽しむ『草食系』といわれる人たちもいる。そういう若者たちにあなたは、どんな言葉をかけますか」
すでに予定されていた取材の時間は終了しつつあったが、パウエル氏は長い時間をとって答えてくれた。
パウエル氏はまず、日本が進むべき道について「弱くてもささやかな幸せで満足する、つまり低いレベルの成功で満足することを望んではならない」と指摘。「若い人たちは、国が抱えている問題がなんであるかということを認識した上で、前進しないといけない。漫画を読んでメールばかり、そんなことだけしていてはならない」と言い切った。
日本の政治や地方自治体のリーダーたちに対しても「日本の若者にメッセージを発信したほうがいい」と提言。「『あなたたち若者は日本の将来にとって非常に重要で必要な存在。だらだらしないで、たんぱく質をとり、もっと強くなりなさい』と」
若者へのこうした強い激励の言葉の背景には、日本の少子高齢化が危険水域に達しているという思いがあるようだ。「日本の人口動態は深刻な問題を抱えています。少数の若者たちで多数のお年寄りを支えないといけない」
「米国も高齢化は進んでいるが、移民を多数受け入れており、(彼らのおかげで)子どもが生まれています。日本はそうではない。日本の高齢化の方が深刻です。将来、そのつけがまわってくるのは、今の若い人たちなんです」
「若者の価値というのは日本の方が米国より貴重なんです。若者を草食系にさせておく余裕は日本にはないはず。日本の若者には強くなってもらわないといけない。筋肉をきたえてもらわないといけない。たんぱく質をとり、訓練して力をつけてほしい。若い人たちが明日に向かって最善を尽くし、(少子高齢化という)問題を解決していくことが大事です。日本の将来を決めるのは若者たちなんです」
では、「強い若者」とはどんなイメージなのか。パウエル氏は具体例として、何年か前に「とても行儀のよい日本のエリート高校」で講演した機会に出会った15歳くらいの女の子のエピソードを披露した。
講演後、子どもたちが列をつくり、先生に事前にチェックしてもらったであろう、準備したメモを読み上げるように質問をしていた。「優秀そうだった。でも、自分でも質問内容を理解していないようにも見えた」というパウエル氏が「他に誰かいませんか」というと、部屋の一番後ろにいた女の子が手を挙げた。
「あなたは怖いと思ったことはありますか」。パウエル氏は答えた。「毎日怖いと思っています。失敗するのが怖いんです」と。
パウエル氏はいう。「彼女は勇気があった。メモなしに質問したわけですから、きっと草食系ではないと思います」
パウエル氏は、日本の歴史について「日本人は過去にも草食系だったことはなかった。ぜひ鏡をみて、自問自答していただきたい。日本は数々の困難から立ち直ってきた。戦後、ものすごい経済成長を果たした。どんな困難があっても、復活してきました」と述べた。その上で「そういう日本を私はすごく尊敬しているし、米国の同盟国であったことを誇りに思っています」と強調した。
締めくくりにパウエル氏は、日本には日本にあったやり方があるということも付け加えた。「日本には、日本の文化や伝統にあったやり方も必要かもしれない。中国との交渉も、まずお茶を飲んで、会話をし、一緒に野菜を食べて、その上で話し合う。それが適切なやり方かもしれません」