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安倍首相を動かす中国政局の「ある情報」

2014/8/1 日本経済新聞

首相、安倍晋三が11月に北京で開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議をにらみ、中国国家主席、習近平との会談を本格的に探り始めた。きっかけは、安倍の周辺にもたらされた中国の国内政局に関する「ある情報」だった。

7月14日、衆院予算委員会の集団的自衛権をめぐる集中審議。「戦略的互恵関係の原点に立ち戻って日中関係を改善させていきたい。そのなかで、11月の北京APECの際に首脳会談を行いたい」。安倍は日中関係の見通しを尋ねた自民党副総裁の高村正彦に、こう明言した。

安倍が時期と場所を特定して習との会談に意欲を示したのは、これが初めてである。中国側に繰り返し「対話のドアは常にオープン」と呼びかけてきた安倍だが、習が応じる当てがあったわけではない。「今回はちょっと違う」。安倍の周辺はこう漏らす。


習近平派の勝利、との情報

6月末、中国から衝撃的なニュースが飛び込んできた。収賄の容疑をかけられていた人民解放軍の元制服組トップ、徐才厚に対し、中国共産党が党籍剥奪の処分を下したのだ。

徐には元国家主席の江沢民が目をかけていた。江は徐への厳しい処分に激怒したという。「権力闘争はこれから激しさを増し、中国の内政は不安定になる」。中国専門家の間で、こんな見方が広がったのも無理はない。

実は、首相官邸には様々なルートを通じて異なる解釈が伝わっていた。それは「中国の権力闘争は収束しつつある」というものだ。

徐才厚の失脚で、江沢民派の残る大物は胡錦濤政権で党内序列9位だった周永康だけとなった。汚職の疑惑で周にも捜査の手は伸びており、近く立件される可能性が高い。そうなれば習近平派の勝利は確実になる――。官邸に入ったのは、おおむねそんな情報だったようだ。

安倍が「11月の北京APEC」での首脳会談に言及するのを決めたのは、この情報に接したあとだったとみられる。中国の権力闘争が終われば習の政治基盤が固まり、日本への強硬姿勢を弱める余裕が出てくるという判断があったようだ。


福田元首相も動く

安倍が北京APECでの首脳会談を言い出したのと歩調を合わせるように、元首相の福田康夫は水面下で習近平との接触を試みるようになった。中国政府が主催する「博鰲(ボーアオ)アジアフォーラム」の理事長を務める福田は、2013年4月にも習と会っている。福田の動きの背後に、安倍からの働きかけがあったとの見方は少なくない。

中国共産党は29日、周永康の立件を進めていると発表した。官邸は情報の「精度」に自信を深めているようにみえる。対日強硬策を訴えてきた江沢民に近い勢力が政権内から一掃されれば、日本にとっては首脳会談を実現するまたとないチャンスが来る。

もちろん、中国の権力闘争は一筋縄ではいかない。周永康の失脚をもって、中国の国内政治が安定に向かうと判断するのはまだ早い。安倍自身、それはよくわかっている。「残念ながら(北京APECでの首脳会談の)可能性が高いと言うことはできない」。7月15日の参院予算委員会では、慎重なもの言いに終始した。
(敬称略)

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