2014/8/4 日本経済新聞
【北京=中沢克二】日中両政府が11月に北京で開くアジア太平洋経済協力会議(APEC)の際に首脳会談を実現する方向で調整に入ることが3日、分かった。日中関係筋が明らかにした。中国の習近平国家主席が7月末に訪中した福田康夫元首相と北京で秘密裏に会談し、対日関係の改善に意欲を示した。既に中南米を歴訪していた安倍晋三首相に伝わっており、今後、外交当局者間で条件を詰める。
福田氏は7月27日に訪中した。数日間の滞在中に習主席と会談し、中国に対話に応じるよう呼びかける安倍首相のメッセージを伝えた。習主席は冷え込んだ対日関係に懸念を示したうえで、現状打開に前向きな考えを表明した。
習主席は福田氏との会談で打開の条件にも触れたもようだ。中国側は沖縄県の尖閣諸島や靖国神社参拝の問題で安倍首相の対応が変化しなければ首脳会談に応じないとしてきた経緯がある。
日中関係は2012年の尖閣諸島の国有化を巡って悪化した。安倍政権の発足後、習主席との本格的な首脳会談は実現していない。
中国は南シナ海問題でベトナム、フィリピンとも対立しているほか、北朝鮮やミャンマーとの関係もギクシャクしている。最も重視する対米関係も習主席が提起した「新しい形の大国関係」づくりが滞ったままだ。
11月にAPECという大きな外交舞台を控える中国指導部としては、周辺国外交を立て直す必要がある。習主席は最近、「安定した国際情勢の下で国内の改革に全力を挙げたい」との意向を周囲に漏らしているとされる。
福田氏は中国が主催する国際会議である博鰲(ボーアオ)アジアフォーラムの理事長を務めており、中国指導部とのパイプが太い。4月に海南省で開かれたフォーラムに出席し、その後も北京を訪問。一連の訪中の際に習主席に近い関係者と協議したうえで、今回の習主席との秘密会談を調整した。
これまで日本の要人との単独会談を避けてきた習主席が福田氏との会談に応じたのは大きな変化だ。
習主席が関係改善に前向きな意向を示したことを受け、今後の焦点は日中の外交当局間での具体的な条件の詰めに移る。ただ、中国指導部内や軍には尖閣問題などを巡って日本に厳しい意見も多い。簡単に妥協できない事情もあり、実務的な調整は難航が予想される。