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「ボクのローゼンクランツ体験記」


 僕の仕事場に置いてあるオーディオは、けっして高価なセットではない。まずアンプは39,800円で、スピーカーはペアで35,000円、ぐらぐらした3,500円のラックにCDプレーヤーは業務用でテンポを変えられるやつだから、お世辞にも音が良いとはいえない。ケーブルはXTC-P100、オープンデッキはTASCAM/BR-20、僕はこのシステムで舞台の音をつくっている。2001年1月、仕事の事で行き詰まっていた僕はその仕事場で気分転換に音楽を聴いていました。いつもと変わらない何のハプニングも起こらない音。何気なく購入したままにしていたローゼンクランツのPB-BABYを引出しの中から取り出してみた。

 ローゼンクランツは今まで一度も使ったことがなかったが、雑誌で見たカイザーサウンドの格言は僕にとって座右の銘になっていた。物事の核心を突いていてそこに真実を感じたからだ。コピーして5年くらい持ち歩いている。ローゼンクランツを購入する気になったのは逸品館の清原さんの驚きと感動に満ちた記事を読んだからで、その文章からはひとりでも多くの人々に自分の感動を伝え、分かち合おうとする誠実さが感じられた。清原さんのことは芸術家も顔負けの情熱、センス、哲学を持った人だと思っていたから、きっとすごいものなんだろうなと購入する事にしました。PB-BABYを置いて、音が出た瞬間の驚きは忘れる事が当出来ません。音楽がまるで生命を吹き込まれた生き物のように動き出して止まらない。

 はじめてのことだったけれど、不思議に思ったのはこの音をずっと以前に聴いたことがあるように感じた事でした。とてもなつかしく思えたのです。オーディオフェアーなんかに行くとまったく手の届かないような高額な商品が並んでいて、聴いてみるとそれらの音はどれもがすごく綺麗な音で鳴っている。僕のような素人なんかが今まで一度も聴いたことないすごい音で鳴っています。でもそのすごい音は、自分にではなく別の方向を向いて音が出ているような感じでした。だから一度も心を打つ演奏を聴いたことがなかった。

 それは生のコンサートに行ってもよくあることでした。でもローゼンクランツは初めて自分の方を向いて語りかけてくれた。そんな感じでした。聴きはじめると涙が出てとまらなかった。オーディオを聴いていてこんな経験ははじめてでした。そこには音楽を演奏している人たちのスピリットだけでなくこのインシュレーターを造った作者の人柄や思いも感じる事が出来ました。それは色付け、デフォルメされるようなものではなく音楽の一番大切な心をぼくたちに届けてくれる目に見えない力・・・。

 たとえようのないやわらかさと、そこから一気に打って出るアグレッシブなエネルギー、そして包みこむような優しさとなぐさめてくれるような明るさ、なんて力強い勇気づけられる音なんだろう。ローゼンクランツの音楽を聴いているとなぜか人に対してやさしくなれる気がする。争いや批判のない、思いやりと信頼のある世界を予感させてくれる。人間にとってとても大切な、人間のあるべき姿を僕はローゼンクランツに感じた。

T/H


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