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スピーカー試聴に於ける問題点


 ある日のA&Vvillage編集長との話の中での事です。

 「カイザーゲージを使ってセットした状態で、スピーカーの試聴レポートが出来ると良いのですが・・・」。

 何気なく話した私の一言に、すぐさま反応した編集長は、

 『じゃぁ、次の号がそのスピーカーの試聴になっているからやってみたら』と言うのです。

 < うぅ・・・、何たる決断力の早さ! >。


 『1月24日の10時半からパイオニアの試聴室でやるから、その少し前に来て準備しましょう』。

 その時点で、日にちは数日しかありません。
 
 とにかく!、電光石火のごとく!、話はトントン拍子です!。
 
 それは、A&Vvillageのメイン企画の一つであります【商品試聴】、これは評論家三氏(藤岡誠、高橋和正、神崎一雄)によるもので、毎号話題の商品を取り上げての試聴レポートであります。

 当日、目黒のパイオニアに出向きますと、10分もしないうちに神崎さんが姿を現しました。藤岡さんと高橋さんとは何度も面識はあるのですが、神崎さんとは初対面ですから名刺交換を済ませ、今日の私の仕事の内容を披露させていただきました。

 そのうち、高橋さん、藤岡さんも姿を現し、

 『どうして、カイザーさんがここに居るの?・・・』と、ご両人とも不思議そうな顔・・・。

 ちょうど、そこへ編集長が現れ、今日の趣旨を説明してくれました。

 スピーカーの前後位置に於ける音の違いを研究している、「カイザー理論」を元に今日のスピーカー試聴をやってみようという事です。

 『よっしゃ!、分かった!、じゃぁ、カイザー方式で行こう!』と、勢いのある掛け声。


 試聴室とはいえ、それにしても部屋の6面ほとんどが吸音状態ですから、全く一般の部屋とはかけ離れたものです。自分の発する声も日頃聞いたことのない声質です。こんな反射のない部屋で、前後軸の音の反射の違いが果たして出るのだろうか?、と少し心配はしましたが、調整するうちに同じような結果が出るのでひとまず安心です。

 しかし、出てくる音に響きというものが全くありませんので、音楽の魅力はかけらも感じる事は出来ません。こうした現実ではあり得ないような部屋で試聴する事そのものに意味があるのかどうか考えさせられてしまいました。

 機材と部屋を提供してくれているパイオニアの方曰く、『粗探しの部屋ですから、この部屋で鳴ったらどんな部屋に持って行っても良い音で鳴りますよ』。と言って部屋を出て行かれた。

 音の良し悪しをハートで受け止め感じるものなのに、その肝心なハートに訴えかけるものが無い状態でそれをしなければならないとなると、完全に頭のスイッチを切り替えなければなりません。「心そこにあらず」状態にしなければならない訳ですから、これには辛いものがあります。

 この環境で長時間仕事をしろといわれれば、私の場合なら精神がおかしくなるであろう事は間違いありません。とにかく、自然環境とかけ離れた、閉じ込められたような閉塞感を憶える、非日常の空間です。

 部屋の感想はここらあたりまでにして、実際に13機種のスピーカーをテストしたわけですが、結果から言ってまた新たな問題点がある事に気づかされるのでした。それは初めに聴くスピーカーでその部屋のベストポイントを探って置いたのですが、同じスピーカースタンドにサイズの違うスピーカーを次々とセットして聴く訳ですから、当然音の谷間に入る物があったりでコンディションの良し悪しが出てしまいます。



 その中でも図抜けた性能の音を聴かせてくれたのは、値段どおりでもありますが、B&W805シグネチュアー(1本280,000円)とディナウディオのスペシャル25(1本290,000円)でした。また、特に印象に残ったのはジンガリOCM106(1本90,000円)、これはコンプレッションドライバーにポプラのくり抜きホーンという本格的な作り、熱い歌心を朗々と聴かせてくれるのはイタリア製ならではのもの。


 そもそも、ベストのコンディションで試聴出来たらと願って始めた今回の試みでしたが、あまり意味のない事になってしまいました。これを徹底してやるとなれば、各社理想のスピーカースタンドまで併せて用意をしてもらい、なおかつ、それぞれのスピーカーの音源軸をその部屋の理想のポイントに置いてテストするべきでしょう。実は今回の私の思いはそこにあったのですが、準備不足で思い通りには行きませんでした。

 大変でしょうけれども、ここまで出来たら本当に各機種がベストのコンディションでコンペに参加出来ることになるのです。そうなった時に、なんとか平等で正確な評論が出来るように思いました。ですから、聴いていて「このスピーカーの本当の実力は、こんなもんじゃないだろうなぁ・・・!?」と感じる事が沢山ありました。

 しかし、それだけの事をやるとなると大変な手間とコストが掛かります。1冊580円のA&Vvillageにやれと言うのはあまりにも酷な気がしてなりません。さりとて、他に気骨のあるところも見当たらないのが現状です。

 他の専門誌にも色々な事を提案させて頂くのですが、一向に改善しようとする動きは見えません。そうした事を考えると、今回このようなチャンスを与えてくださった編集長の英断には恐れ入るものです。これでまた一歩前進、次なる時にさらに理想に近づけられるようになればと思います。


 この様に同じフロアーに大小の試聴室が何ヶ所もありました。


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