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評論家・屋山太郎 公約通り公務員給与2割削減を

2011.6.1 02:49 MSNニュース

財源なしでもやれる公約実現

菅直人首相は福島第1原発の事故に紛れて、いたずらに政権を長引かせている。菅政権の使命は、2009年衆院選で打ち出したマニフェスト(政権公約)を実行することだった。国民も、民主党の「天下り根絶」と社会政策を充実させるための諸公約に期待した。ところが、現実には天下りは野放し状態である。社会政策は、子ども手当にしろ高速道路の無料化にしろ財源の裏打ちが全くないことが判明した。東日本大震災の復興費調達の大義名分の下、公約取り下げが相次いでいるが、財源なしでもやれる大きな政策がある。

それは、「公務員給与の2割削減」である。片山善博総務相は、「11年から13年まで公務員給与を1割削減する方針」を国家公務員の2つの組合に申し入れ、連合系組合の了承を引き出した。1割削減の次にもう1割削減が続けば、公約実現ということになるが、公務員給与の問題は実は給与削減だけで終わる話ではない。公務員制度の抜本改革に結び付けなければ、官僚の宿弊は解消できない。

東京電力への経済産業省官僚の天下りが奇っ怪な監督官庁と業界の癒着を生み出し、国家の信用を失墜させた。原子力ムラの癒着体質は他の天下り問題と同根だと知るべきだ。給与削減も公務員制度の改革も天下りと同一線上の問題として捉えなければならない。

民主党は、給与削減を盛り込んだ給与法改正とともに、(1)人事院に代わる公務員庁の設置(2)労働協約締結権の付与(3)内閣人事局の設置−など国家公務員法にかかわる一連の改正案を国会に提出する予定である。しかし、これらの改正はいずれも、抜本的な公務員制度改正に結び付くものではない。


制度の抜本改正につなげよ

公務員賃金は1948年以来、「スト権、労働協約締結権を禁止する代わりに、人事院が賃金を決定する」方式で定められてきた。人事院は、従業員50人以上の民間企業7千事業所の賃金を調査し、その平均額を「人事院勧告」(人勧)として発表、政府はそれを受けて毎年、国家公務員の賃金を決める。俗に"民間準拠"といわれるやり方だ。優良企業を賃金の基礎とするから、国家公務員の給与が全民間労働者の平均よりはるかに高く設定されるのは当然だ。

一方、地方公務員は、県も市町村も自治体ごとに設けられた人事委員会が、地場企業を調査して平均賃金を出す仕組みになっているが、これを実施している自治体はほとんどない。国家公務員の人勧に準じて横並びで給与を決めている。東京と鳥取では生活費や賃金に差が出るのは当たり前で、片山総務相は鳥取県知事時代、県の給与を切り下げたことがあるが、こんなケースはごくまれである。

むしろ、裏で特殊手当などを付けるから、地方公務員の方が国家公務員よりも高額給与になっているのが実態だ。給与に準じて年金も上がるから、年金額は地方公務員が最高で、国家公務員よりも月に2万円ほど多い。民間は常にその下だから、日本はまさに公務員天国なのである。その天国を担保しているのが人勧制度なのだ。

したがって、1割削減とともに人勧制度を廃止し、国は省ごと、地方は自治体ごとに当事者と賃金交渉をして決めるべきなのだ。現に全先進国が当事者と組合との交渉で賃金を決めている。かつて総評(後の連合)はスト権を寄こせという「スト権スト」を打ち、全国の列車を8日間も止めたことがある。いま連合はなぜスト権を寄こせと言わないのか。人勧制度により高賃金、公務員天国が保障されているからにほかならない。


名前変えた「人勧」はペテン

給与の1割削減には応じるが、人勧制度をいじってほしくない。この連合の思惑に応じ、民主党は人事院を廃止し、「公務員庁を設置」する詐術を編み出した。公務員庁が民間準拠の賃金を発表すれば、従来の人勧制度が名前を変えて、そのまま存続するわけだ。

世間の常識では、こういうのをペテンという。1割削減で浮くカネは3千億円弱にすぎない。未曽有の国難だから、この3千億円を寄付はするものの、改革には全く手を付けない、ということだ。

自民党政権の末期、公務員制度改革は、(イ)年金をもらうまで定年を延長する(ロ)その代わり、幹部に限って、人事評価を行う「内閣人事局」を設置し、昇給、降格、給与の査定を行う−ことになっていた。この改革を主導したのは、安倍晋三首相と渡辺喜美行革担当相(現「みんなの党」代表)である。関連法案は次の福田康夫首相の時に成立したが、後継の麻生太郎政権にかけて骨抜きにされた。怒った渡辺氏は党を出た。

脱官僚、天下り根絶を叫ぶ民主党政権になれば、改革は進むと期待した。が、公務員制度の改革を嫌う連合と人事院制度の存続を願う官僚が結託、実質は全く変えず3千億円の目くらましで国民を騙そうという。これが民主党政治の実態か。党内にはなお天下り根絶や人勧制度の廃止を叫ぶ勢力が残っているが、民主党ではもはや改革を実現する力はないだろう。(ややま たろう)

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