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放射能汚染状況を正しく知る方法 田村秀男

2011.6.1 08:33 MSNニュース

久方振りにワシントン、ニューヨークなど米国東部を回ってきた。ニューヨーク・マンハッタンの限られた喫煙場所でタバコを取り出すと、中年の白人男が震える手を差し出してきた。ブルームバーグ市長の禁煙政策で、タバコ一箱が1,500円もする。男の顔は生気がない。まさしくニコチン中毒なのだが、タバコを買うカネがないのだろう。
 「おれは東京からやってきたばかりだし、このタバコは日本製だがいいか」といたずら半分で言ってみると、この男はぶつぶつ言いながら手を引っ込めた。断られたと思ったのか、それともメイド・イン・ジャパンの「放射能汚染」の幻影に怯えたのか。(SANKEI EXPRESS)

ワシントンでは元米政府高官の旧友主催の集まりに招かれた。旧友が他のゲストを紹介してくれるが、握手にさっと応じる者は5、6人中3人程度で、2人は1、2秒かかり、しかも指先を軽く握るだけ。
 「ひょっとして放射能汚染を心配してためらったのだろうか」と旧友に聞くと、「そうだよな、お前の白髪頭には後光(halo)が射しているよ」と笑うが、ビヨンセの同名のヒット曲じゃあるまい、悪い冗談だ。彼は真剣な顔つきで、「実は日本政府が発表する放射能データはだれも信用しないんだよ」と打ち明けた。

ホテルに戻って早速、インターネットで文部科学省の「緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI:スピーディ)にアクセスしてみた。「原子力発電所などから大量の放射性物質が放出されたり、そのおそれがあるという緊急事態に、周辺環境における放射性物質の大気中濃度および被(ひ)曝(ばく)線量など環境への影響を、放出源情報、気象条件および地形データを基に迅速に予測するシステムです」との説明書きがあるが、何と福島県と宮城県についての放射線量観測データは「調整中」のままで何も出てこない。
 では英文版はどうかというと、「Under servey」とある。読者の方々もお気づきだろが、"servey"という英語は存在せず、明らかに「Under survey」(調整中)の間違いだ。

「教育行政の総本山の文科省が」、などとケチな理由で揚げ足をとるつもりはないが、こんな単純なミスを原発事故発生以来80日以上経っても、単純なスペル間違いを放置しているのは、政府内部でだれもチェックしていない、つまりやる気がないからだとしか思えない。そんなサイトなら、外国人に信用されるはずもなく、だれもアクセスして来ないのも無理はない。

それでも、ネットをさらにサーフィンしてみると、「仮想的な条件を設定しSPEEDIによる試行的計算」というページに行き着いた。「具体的設定条件は日本原子力研究開発機構が、原子力安全委員会から得て計算」という但し書きがある。
 実測データはないが、文科省はよそに試算を依頼しただけ、という意味らしい。責任逃れの意図は見え見えなのだが、3月25日時点の福島第一原発を中心とする放射線量分布図がやっと出てきた。ところが、この図には英文の説明が貧弱で、専門家にしかわからない。

そこでネット検索をかけて日本語、英語を問わず探してみた。福島第一原発事故に伴う放射能汚染分布状況をもっともわかりやすく、一目でわかるように分布図で丁寧に説明しているのは米エネルギー省のサイトhttp://blog.energy.gov/content/situation-japan/である。

米国は定期的に観測機を飛ばし、福島上空一体の大気の放射線量を計測しているのだ。ホワイトハウスが3月16日、福島原発から80キロ圏内にいる米国人は避難するよう勧告した根拠は、こうした綿密な測定データに基づくのに、当事者の日本政府はいまだに「地震の影響により、情報の更新が停止しています」と言い放しで、全世界はもとより日本国内向けにもきわめて貧弱でわかりにくいデータしか提供していない。恐るべき官僚、政府の無神経、怠慢である。

菅直人首相をはじめ、関係閣僚はおそらく原発関連情報公開のお粗末さに気づいていないのだろう。でなければ、「最大限の透明性をもってすべての情報を国際社会に提供します」と5月26日の仏ドーヴィル主要国(G8)首脳会議(サミット)で国際公約すれば世界からの不信を解消できると能天気に思うはずがない。
 サミット前の中国、韓国との3カ国首脳会談で原発情報提供を約束すれば、それと引き換えに日本産品輸入規制撤廃を引き出せるとでも考えているのだろうか。サミットが終わって何日を経ても上記の政府系放射能情報公開サイトは何一つ欠陥を改めた形跡がない。

繰り返す、日本発の放射能情報の欠如が国際的な対日不信の源であり、政府の情報無視・無策が風評被害という第二次の大災害を招いている。(特別記者・編集委員)

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