しかし、困った。
実に、困った。
これほどローン生活で汲々としていると言うのに、
「NIAGARA Jr Uのバージョンアップをする事になったんですよ。」
などと貝崎さんが仰って来られたのである。
悩ましい。
実に悩ましい御提案である。
元々、
NIAGARA Jr Uと言えば、拙宅においては、最早、なくてはならないキーアイテムの一つである。
我が家の音楽を全て司っていると言っても,、決して過言ではあるまい。
それが、更にパワーアップすると言う。
そう聞いては、
マニアであれば、大いに気にならないはずはない。
そこで、私は、一先ず、試聴させて頂く事にした。
何て無謀な!
なんて思ってしまう方も多いだろう。
そう。
確かに、
一度聴いて、気に入ってしまえば、
この私の事だから、
後先考えずに、即座に注文してしまうかもしれない。
金欠バッファローズの身上としては、この上もないアサハカな試みである。
だが―。
私としては、一つ、どうにも腑に落ちない点があったる。
と言うのも―。
「今回は、中身の線材は変えずに、技術のみのバージョンアップなんですよ。」
と言うのである。
つまり、
例えば、エソテリックのように、
線材を高級なものに挿げ替えるとか、
回路をリファインしたものに付け替えるとか、
素材や部品自体をグレードアップさせると言った形のものではなくて、
あくまで、
配線の手直し、部品の取り付け方の変更等々、
ローゼンクランツにおけるスキルの向上だけで勝負しようと言うシロモノであるらしい。
ホンマかいな?
と思うのが正直な所。
中身の部品は一緒で、
チョコチョコ弄るだけの事に、大事なお金を投資すると言うのも、結構、バカらしい話に思える。
眉唾。
半信半疑。
なので、
私は、一応、試聴するだけさせて頂いて、
手持ち不如意を理由に直ぐに送り返そうと言う魂胆でいたのである。
ところが―。
実際、試聴機が到着し、
(バージョンアップの品は、NIAGARA Jr Vとなるらしい。)
いざ我が家の、NIAGARA Jr Uと取り替えてみると、
ギャフン!
弱った事に、これがもう、非常に素晴らしいのである。
まるで―。
客席が更にグッとステージに近付いたかのよう。
存在感。
肉付き。
音楽の余韻。
イママデキイテタオトハナンンダッタノ?
私は、ふと、以前、NIAGARA Jr Uを自宅試聴させて頂いた時を思い出す。
その時も、今回と同じように、
生々しく迫る実在感に、ガツンと頭を打ん殴られ、
速攻、注文してしまう羽目に陥ってしまった。
だが―。
そんな実力器であるNIAGARA Jr Uをしても、
悲しい事に、思わず小兵に思えてしまう程の、NIAGARA Jr Vの出色の出来。
圧倒的な性能差。
そして―。
ダメだ・・・。
こんなん聴いてしまうと・・・。
案の定、外せなくなってしまった。
眉唾な話に、どっぷりと浸かってしまったのである。
従って―。
仕方がない。
私は、勇気を振り絞って、貝崎さんに電話をする事になる。
悔しいかな、
今回もまた、まんまと貝崎さんの掌で踊らされてしまったのである。
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