トップカイザーサウンドオーディオクリニックの旅>2002年3月31日 福岡県 T.O様

2002年3月31日 福岡県 T.O様


 <絵の具のチューブが固まって、なかなか出てこない!そんな音です!>。

 これは何か大きな抵抗勢力が立ちはだかっているときの音です。システムの裏に廻って眺めてみるとワイヤーワールドのエクリプスVのバイワイヤーリング結線です。3年程前に東京のあるお客さんのところへ訪問した時に、こういう話を聞かされたことを今思い出しています。それはどうやってもいい音で鳴らないので、ある日ひょっとして?という思いが起こり、バイワイヤリングケーブルを逆さまにつないでみたら一気に音が抜けるようになったというのです。

X-50W、C-8、M-8と802ノーチラス

 この場合アンプ側につなぐ片方は2本を1本にまとめてY端子を端末処理してあります。そんな状態のものをよっぽどでない限り、誰も反対につなぎ直してみようなんてことは思わないものです。アンプはA社のものでしたので、それもどちらかというと抜けのいいタイプのアンプではありませんから、本人としては悶々としていて半ばヤケクソだったのでしょう。そこで外してもらい、私が手にとって調べて見ますと言われる通りやはり反対でした。

 今日の訪問先である北九州のOさん宅には、アートクルーの松岡さんに同行です。本日の目的は「B&Wノーチラス802専用インシュレーター『RK-BW』」を持ち込み、実際に装着して試聴して頂くことですが、聴けばあまりにも音のコンディションが良くないので粗方鳴るようにしておかないと、RK-BWの評価が悪いものになってしまいます。それでは困りますので急きょクリニックとなったわけです。

 Oさんは最近では珍しく、自然な笑い顔が素敵な好青年です。ですからその場の雰囲気が大変和やかで、また爽やかな空気の中で仕事が進んでいきます。先ず最初は先ほどの話の続きになりますが、ワイヤーワールドのスピーカーケーブルを外してもらい、手にとって方向チェックです。すると、今回もやはり反対です。それでは、「今までとは、逆に結線してみていただけますか」、といって松岡さんとご本人に片方づつつなぎ直してもらい、先ほど聴いたホリー・コールをもう一度聴いて見ます。

こうしてバイワイヤリングケーブルを逆さまにしてつなぎました。

 全員顔を見合わせてニッコリ!かなり音楽が気持ちよく流れるようになりました。しかしこれはワイヤーワールド自身の問題なのか、日本で組んでいるのか分りませんが、二度の経験で二度とも反対ですから全部反対ではないのか疑わしくなってきます。あるいは線材の方向は合っているのかもしれませんが、もしそうだとすれば、外を取り巻く厚い透明のシースが強力に反対の抵抗勢力になっているとしか考えられません。いずれにしても明らかに反対につないだ方が音がいいのは間違いありません。そしてそれが普通のケーブルならなんてことはありませんが、わざわざバイワイヤリングに加工している物ですから特に始末におえないのです。

 CD、プリ間のケーブルはXLRタイプですが、これは合っていました。あとプリ、パワー間のケーブルもチェックしますが、これは外したときにどちらにつないでいたか確認せずでしたので、念の為に真剣に調べて、向きをきちんと揃えてつないでまた同じ曲を聴き直しです。更に音の流れが良くなっているのが確認できます。

 つぎは、CDプレーヤーの下に敷いてある薄い大理石のボードを上下、前後と響きの方向を調べた上でまた聴きなおします。またもう一段階音が向上したのが分かります。ひとつづつやって行かないと、どこの部分でどのように音の邪魔をしていたのか分からなくなります。

X-50Wの下に敷いてある大理石も方向をチェックしました。

 今度は私も初めての試みですが、石英ガラスの1センチぐらいの小さなインシュレーターの響きの方向チェックです。黒いマジックで印をつけ、上下と水平方向を決めて置き換えると、これまた相当方向性があるのが分ります。音が大分澄んできました。ここまでやって初めて最初の悶々としたものが無くなった事に気づきます。

黒のマジックの上下水平方向を示す印が見えます。

 最後に気になっていたのは、ミッドレンジユニットのセンターに交換して取り付けてある金属製のディフューザーが、こちらに突き刺すような感じを抱かすのでどうしても落ち着きません。これを元の樹脂製の純正に戻してみますと、音を聴くまでもなくホッとするように気持ちが落ち着くのが分ります。当然音もバランスが良くなったことは言うまでもありません。加工形状が鋭利過ぎたのです。そして外してみて分ったことは、それだけの重さのものを最初から取り付けることを想定したタップを埋め込んでいませんので、機構的にも相当無理があるようです。安易なアクセサリーの開発はどうしたものか?自分も含めて考えさせられました。

 どこのメーカーの物か知りませんが先の尖った金属製の物と右がオリジナル。視覚的に左の物は突き刺してくるような感じを持ちます。さすがに純正物は形状、色質感ともに見事なバランスです。

 さて、これからが今日の本題の作業です。二人がかりで802を毛布を下にして寝かせ、白手袋をはめて、Oさん自ら純正のアルミで出来たスパイクを外しては、ピカピカのRK-BWを取り付けていきます。本人は、まるで「ピッキングをしているみたい」とジョークを飛ばすや否や、残り後1個というところで、「アッ!」という嫌な予感のする声を彼が発しました。

RK-BWの取り付けはいたって簡単です。Aマークが後方に来る様に取り付けます。

 あまりにも強く6角レンチで締めていたためレンチの先が折れて穴に残ったままになってしまいました。これは一大事です。急きょ松岡さんが電動ドライバー等買いに走り、悪戦苦闘すること2時間ぐらい、やっと壊して外すことが出来ました。松岡さんの顔はもう汗だくです。しかし、大したもんです。トラブルが発生したときの問題解決能力の高さは、かなり現場経験を積んでいるみたいです。松岡さん見直しましたよ。

私の工具バッグの中の物だけでは解決出来ませんでした。

 私はこの後、まだ佐賀のMさん宅へ行って仕事をすることになっています。約束の時間に大幅に遅れそうですから、もうゆっくりしている時間はほとんどありません。フロント側の4ヶ所にRK-BWが付いたところで802を起こして、あとは後ろにPB-BIGで受ければ完了です。

RK-BWを装着後の802ノーチラス。

 まだまだ細かいことでやりたいことはあるのですが、時間がないので仕方ありません。でも、出来るだけの事は一応やりましたので、これから出てくる音は最初のときのものとは全く別物となるはずです。全員緊張の一瞬です!音楽が鳴り始めると、「Oさんの顔が大福さん」のようになりました。あとは何もいわず、その時点の音を確認して私は急いで失礼しました。

 よっぽど嬉しかったのでしょう、半月ほどしてOさんから明太子が届きました。美味しかったです。


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