オーディオクリニック”というキーワードで検索をかけた時に、”RYO オーディオ美音倶楽部”というブログに出会いました。
何?、松山!、俺の故郷ではないか!。
どれどれ、どんな内容かちょっと拝見。
オーディオは勿論の事、映画、車、グルメ等、ごっちゃ煮のようで中々楽しいブログです。オーディオ関連のブログというと、大体はB&WとかJBLとかお気に入りのスピーカーを中心とした繋がりが多いのですが、こちらは地元密着で好感が持てます。
「近々松山に里帰りするので、そのついでにお邪魔してみたい」とブログの主であるRYOさんに打診しますと、『楽しみにお待ちしております』との返事が返ってきました。
私の故郷松山でのクリニック第1号
訪問したのは4月11日(日)、ナビが正確に案内してくれないので途中まで迎えに出て貰いました。RYOさんのお宅は道後温泉から奥の方へ2〜3キロ上った自然がいっぱいの空気のきれいなところです。
オーディオの話は後回しにして、私の生い立ちを中心に小一時間おしゃべりしました。今松山は司馬遼太郎の「坂の上の雲」でスポットライトを浴びています。そしてその主人公の一人である秋山好古陸軍大将については、父が旧制中学に通っていた時の校長だったんだと自慢話によく聞かされていました。そんな影響もあって私も同じ学校(現松山北高)に行きました。
さて松山といえばオーディオの老舗”須之内テレビ研究所”を抜きに語ることは出来ません。実はその須之内社長は私の小学校時代の先生だったのです。私が6年生になった時に今で言う脱サラ開業されましたから、かれこれ50年になるはずです。何度か当社の製品を売って頂いたこともあり、お店に尋ねる機会もありました。立派な体格は当時のイメージのままでした。
「須之内さんも松山の地に後継者が現れる事を望んでおられるようですし、カイザーさんが帰って来てくれると松山のオーディオファンも嬉しいんですが・・・」とRYOさんは冗談交じりに言ってくれます。瀬戸内の食べ物は美味しいし、ついついその気になりそうです。
セプター5001をマルチで鳴らす
RYOさんのオーディオ部屋にはオンキョーのスピーカー5001が鎮座しています。ブログの写真ではウィルソン5だったのでちょっと戸惑いました。今はそれをマルチで鳴らしているとの事。
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「それはどうしてですか?」。『ウイルソン5は簡単に良い音が出てしまったので、次なる楽しみを求めたのがこのセプター5001でした』。『2年ほど前に中古で買ったんですが、鳴らしてみたらそれはそれは悲惨な音だったんです』。ネットワークがおかしいのではないかとの疑問を持ち、点検して見ようとするもブラックボックスになっていて手がつけられず已む無くマルチで挑戦しているのだそうです。
「では、そのマルチドライブするオンキョーの音を聴かせて下さい」。
「おお!いいじゃない!」。
私の頭の中ではこうつぶやいています。それにしても、寄せ集めにしか見えない機材からこれだけバランスの取れた音が聞こえてこようとは・・・。特にケーブル類は安価な物ばかり。スピーカーの足場には建築用のブロック・・・。まるで30年前にタイムスリップしたかのような光景・・・。
ここ20年オーディオ界で一番発達したのがオーディオアクセサリーなのにそれらしき物はほとんど目に入りません。ここはオーディオのガラパゴス島か?。本来ならその影響を一番受けていてもおかしくないはずの40前のRYOさんのそれは、普段私がやっている内容とはまるっきり違う構築法です。
ハッキリ言って、私がクリニックする必要の無いほどのレベルでした。特に左右のスピーカーの位置出しは申し分ありません。今日は私からの押しかけ訪問という事もあって、何かを買って貰う話をする訳にもいきません。しかし、それなくして音質向上させるのもちょっと難しい作業です。
自分なりに追い込んである形跡があるので、下手に動かして気に入らない音にしてしまうとプロとしての格好がつきません。でも厳密に言えば、音のバランスは取れていますが、部屋とスピーカーが織り成す倍音はさすがにありません。それともう一つの問題点は楽器本来が持っている音色の魅力です。RYOさんのシステムで一番欲しいのはその部分です。
スピーカーの位置調整
「何とか頑張ってみましょう」。スピーカースタンドの下にはキャスターが付いていて動かすには楽で都合の良いように思えますが、くるっと回るので微調整は却って難しいのです。
スピーカーを前後に揺するように動かしながらの調整によって、直接音と間接音の波動周期を合わせ込んだ音を聴いて貰います。「如何ですか?」。するとRYOさん開口一番に『ボーカルの位置が左上方向に移動してしまいました』とのコメント。
私が導き出した音色の魅力には気づいて貰えず、彼には定位がずれた事の方がプライオリティーが高かったのです。私は55対45の右脳寄りですが、彼の場合は若干左脳寄りなのでしょう。
彼が自分なりの音の完成形を持っていると察した私はある作戦に出ます。<足らない部分を80%方用意し微調整は本人にやって貰う>。なるほど、では前後は合わせましたので、左右の振り角のみ自分で合わせてみて下さい。左右のスピーカーの角度を調整しては試聴位置に戻りチェックを繰り返します。そしておもむろに『これで良いです』とい言われた音は定位は良いものの倍音が無くなっていまし
た。
じゃあ、もう一度私が前後を合わせます。次は前後が動かないよう気をつけながら、もう一度ご自分でフォーカスを合わせてみて下さい。そのRYOさんの手際の良さには唖然!。どっちがクリニックしているのかと思うほどです。すると先ほどに比べて前後の狂いが少なく良い感じになりました。充分ではありませんが両者納得のいく音が得られたようです。
チャンネルディバイダーの設定
次のテーマはチャンネルディバイダーとパワーアンプのゲイン調整に入ります。「今現在クロスオーバーはどのように繋いでいますか?」。『下が380で、上が3.8kです』。「なるほど、スロープはどうですか?」。『全部12dBです』。
デバイダーが横向きになっていてフロントパネルの数字が見えないので尋ねるしかなかったのです。では、クロスポイントのLow、と Highの可変数値を教えて下さい。RYOさんが読み上げる数字をメモし、その数字と睨みっこしながらイメージを計ります。
本当は下を300Hzにしたかったのですが、それに見合うHigh側に合う数字が無かったので、下は元の380Hzのままにして上を少し引き上げ4.5kに変更。すなわちミッドユニットをもう少し上まで受け持ちを広げた形になります。それともう1ヶ所ミッドの下のスロープだけを18dB/octに変更しました。本日の設計の肝はここにあります。
パワーアンプのゲイン設定
次はパワーアンプのゲイン設定です。ウーハー受け持ちのヤマハのアンプに始まり、オンキョー、EARと決めて行きます。後はデバイダーのレベル合わせをして完了です。しかしここで問題発生。オンキョーのアンプのボリュームからガリガリとノイズが出る事が判明。
三つそれぞれのアンプの魅力を引き出せるレベルポイントを決めたのも無駄に終わりました。仕方なくオンキョーだけは可変を諦め固定に切り替え再度レベルを取り直します。私の伺う前だって元々良い音で鳴っていた訳ですが、更に楽器の持つ音色の魅力が付与され人の声も感情がより一層豊かになりました。
気流と振動の波動(時間軸)合わせ込み
目の前のガラスのテーブルにはパソコンを中心としたソース系とプリアンプまでのセクションがあります。スピーカーが揺らす床振動周期の辻褄合わせを、このラックの前後の位置調整によって行うのです。
それはスピーカーによる部屋の気流の動きにも少なからず変化をもたらし、ドラムのタイミングやベースの音色の描き分けまでもが鮮明に現れてきます。リズムセクションがノリノリになると当然メロディー担当のフロントラインもそれに釣られるように魅力度が増します。
タップからの電力配分
機材類においては大半が直重ねの為振動調整が出来ませんので、あと手を入れられるところといえばタップから各機器への電力配分を決める作業です。沢山の機材の電力の奪い合いによって起こるタイミングのずれが主たる弊害として挙げられますが、電源の取り方を各々の折り合いがつくように取り直すと、楽器の立ち上がり時と消え際が目に見えるように良くなり、ダイナミックレンジも拡大し
リアリズムが出てきます。
しかし、これだけの機材があればその組み合わせのパターンは膨大な数に上り、適材適所を確信持って決める事は一朝一夕に出来るものではありません。クリニックを始めた10年ほど前は正解率も低く、訪問先で深夜に及んでも結果が出せず迷惑を掛けたり恥をかく事もありました。
そんな苦労や努力もあって、今では全体を眺め渡すだけでイメージが展開され、フォーメーションが目に見えるが如く決められるのです。これは長年ステレオ漬けの中で生活して来た事と、数え切れないシステムのクリニック経験から生み出される職人技であります。
RYOさんには”オーディオいじりたい病”が出て来てもグッと我慢して貰い、しばらくはこのままで手持ちのミュージックライブラリーを聴き直して欲しいと思います。
さすれば、また新たな発見があるでしょう。
RYOさん帰省の際には又お会いしましょう。
追記:
RYOさんのブログでも、当日のレビューが掲載されておりました。
カイザーサウンド VS 美音倶楽部 / RYO オーディオ美音倶楽部
カイザーサウンド VS AMIE邸 / RYO オーディオ美音倶楽部