自作オーディオマニアを中心とした”オメガの会”というサークルが広島にあります。その発起人である坂口さんは小児科医です。アトピーや花粉症等のアレルギー分野において独自の治療法を開発している有名な方です。歳は私と同じです。私も広島に帰る度にお世話になっています。
10年ほど前の事です。彼から『オーディオのサークルを作ろうと思う』と聞かされた際に、ちょっとした助言をさせて頂きました。はっきりとは憶えていませんが、「オーディオの集いで過去に長続きした例がないから、力を入れ過ぎない事ですよ」といった内容だったと思います。
その時は3年続けば良い方だろうとみていましたが、立派なもので、今では遠くからも参加希望者が現れるほど名の通ったサークルに成長しました。坂谷さんの研究熱心さと人柄があってのものだとつくづく感心しています。
つい先だって、いつものアレルギーの薬を貰いに行った際、『オーディオルームを一新したから聞きに来て貰えませんか』と誘われました。
院内の使っていなかった部屋の間仕切りや天井を取り払い、オーディオルームとして使えるように広くしたその部屋は、まだ完成途中かと思わせるような雰囲気でした。
コンクリート天井の地肌に障子紙を貼って良い感触を得たので、更にその上に和紙を重ね貼りすると一気に良くなったそうです。壁のヒノキ材との響きのマッチングが取れていて大変素晴らしい音がします。それも今まで聴いたことのない独特な魅力があります。
特に弦楽器の音の消え際が素晴らしいです。大工さんの手を借りながら出来るところは自分でやったそうですが、これだけ良い音が出れば苦労の甲斐もあったでしょう。
『音に厳しいカイザーさんだから、散々言われるんじゃないかと覚悟を決めていたのに、誉められたから拍子抜けした』。「良くないと思えば良くないと言いますが、良い時は良いと言いますよ」。今日は私も本当に勉強になりました。和紙はやはりオーディオには持って来いの素材です。
自作のスピーカーも良く出来ていて感心しました。一つ気になったのは物凄く良い音とそうでない音との落差が大きい点です。特に打楽器のアタック音のぬるさが緊張感の欠如を感じさせます。
「手を入れるところは色々あるでしょうけど、今日は特別に屋内電源配線の長さの調整で音のバランスが取れるように処置しましょう。信頼して頂けますか?」。どれ位切ったら長い波長と短い波長のテンポが揃うのか、今日の鳴り方を頭に描きながら慎重に切り落とす長さを決めます。その長さは僅か2ミリと診断。たった2ミリでどう変わるか?、ブレーカーを元に戻し聴いてみます。
読み通り芯喰った音になりました。信じられないでしょうが僅2ミリ切っただけでこの変わりようですから、音と長さの関係とは本当に奥が深いのです。これには坂谷さんも納得、満足なさったようです。
いつも公民館で開くオメガの会も、今回だけは2班に分けて新しくなったこのオーディオルームで開かれるそうですが、坂谷さんにとっては会員の皆さん方の反応が楽しみな事でしょう。