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制動の効かない低音に苦労(Infinity Kappa 90)

T.Hさん宅へは一度伺っていますので、ご本人が苦労されている内容であり問題点は私もしっかりと把握しています。また、彼のブログの中でも音質改善に向けて取り組んで来た様子をこまめに綴られているので、クリニックの要望がいつあってもこちらの体制は万全です。

特にインフィニティーについては沢山扱って来た経験上、どんな特徴や個性を持っているのかは隅から隅まで知り抜いています。そのKappa 90を鳴らすに当たって、ルームチューニングパネルの使用量が過度になろうとしていたので、ある時T.Hさんに電話を入れました。

パネルによる目的成果は既に達成しているので、「最も大切である音楽性をスポイルしている真の原因部に目を向けるべき!」とお話しました。即ち、「分厚いGTラックがスピーカーの音圧を目の前で遮っている事が一番大きな問題である!」と・・・。

その助言に添って、ローゼンクランツの3段タイプのオーディオラック2台が導入される事になりました。当然その設置時には諸々の問題点を実演証明する予定です。「”悪い中でのベター”という対症療法的アプローチ」ではなく、音楽を心から楽しめるようなセッティング技術をお見せしたいと思っています。

岐阜へ向かう途中八ヶ岳付近では、我がカイザーオペル号のディスプレイには、外気温が1.5℃と真冬並みの数字を表示していました。

 

 

配線を外し、機器は隣の部屋に片付けてあった

途中で道を間違えたので、T.Hさんのお宅には予定より少し遅れて10時半ごろ着きました。『朝早く東京からの運転は大変でしょう』と気遣って頂き、ラックや機材等を外し、全て撤去してありました。ラックも現場で組み立てるとなると、かなりの時間を奪われるので、私の方も組んだ状態で持ち込みました。それらの事前準備によって4時間ほどの時間が浮きました。

 

T.Hさんの音作りを難しくしている原因は、ピュアオーディオと5.1chビジュアルを2システム組んでいる点にあります。この両方を上手く鳴らすのは正直言って一般の方には困難極まります。私の過去の経験上では、業界人でもこなせる人に出会った事が無いほどです。以下はT.Hさんのシステムラインナップです。


コントロールアンプ 
パワーアンプ
CDプレーヤー
マスタークロック
スピーカー
波動ツィーター
ケーブル類

Luxman C-70f
Accuphase P-800
ESOTERIC SA-50
Antelope OCX
Infinity Kappa 90
AIRBOW CLT-3
AET SCR/EVO
 

 

今件には大きく分けて3つの問題点があります。

@スピーカーの音を遮る分厚い箱型オーディオラック

Aスピーカーの前のビジュアル用スーパーウーハー

B狭い部屋に必要以上のルームチューニングパネル

 

カイザーオーディオラックの効果

スピーカーからの波動気流を遮っている分厚い箱型オーディオラックは今回納めるカイザーラックで解決出来ます。このラックは振動の問題だけではなく、絶妙な角度で曲げられたスチールアングルの柱が、スピーカーの発する音楽波動を四方に拡散するように、ルームチューニング機能を設計の中に盛り込んでいます。

 

音楽のエキスの源カイザー寸法

又、それは金属楽器の力強い音の再現の一助にもなっています。棚板には響きの美しいハードメイプル無垢寄木材を使用すると共に、三和音を醸し出す縦、横、厚みの寸法比を採用しています。

棚板は52.5ミリのカイザーピッチで高さ調整可という優れた機能美を誇ります。その支柱に開けた穴とお互いの棚板の間隔に於いても、和音を紡ぎ出す構造が施されている恐ろしいほど音楽性の高いラックなのです。

 

方向性と戸籍簿管理で音の調和を計る

ローゼンクランツのお家芸である方向性の管理は勿論の事ですが、棚板に限っては縦方向継ぎ目無しの1本通しの戸籍簿管理(兄弟板)を採用していますので、各機材間の響きの調和は見事なものです。

 

このラックには単体で販売しているエコブラス製高級スパイクが付属しています。しかし、スパイク受けについては沢山の種類があるので、音のグレードに合わせて購入出来るよう別売となっています。本日は1個4,935円のベストセラーモデル/Point Basieを使用。

 

音色よりもリズムを優先すべし

各機器に考え方や個性の違いがあっても、カイザーラックに載せた時から息の合ったメンバーの様に足並みが揃い、音楽性が一気に向上します。3段タイプで189,000円ですが、費用対効果を考えるとこれほど安い買い物は他に無いと思います。カイザーラックは絶対の自信作です。

「音は良いのだけど、聴いていて音楽を楽しめない」といった方に一押しのオーディオラックです。オーディオのイロハとして知っておいて欲しいのは、「音色の追求よりも、ファーストテーマは音楽のテンポとリズムにある」という事を。

 

スーパーウーハーのセッティング

スーパーウーハーの置いてある位置が良くありません。今の場所は左右のスピーカーのウーハーから発せられた気流が最初に合流する一番大切な場所です。その波形を最初の第1波から壊してしまっているので、ただでさえ難しい低音再生をより困難にしてしまいます。

ここはあらゆる観点から見て、V字形パネルの位置までスーパーウーハーを下げてやるのがベストです。スペースの関係上、その時はV字形パネルを撤去するしかないのですが、その今までプラスに働いていたと思うパネルを外しても、邪魔をしていたスーパーウーハーの音が取り除かれた事によるメリットの方が如何に大きいか・・・。

早速これから実験てみましょう。

「スーパーウーハーの位置を思い切って後ろに下げます」

『うわぁ!全然違う!』

「じゃ、スーパーウーハーを元あった場所に戻して聴いてみましょう」

『いやぁ〜驚いた!、こんなに悪さしていたんですか!?』

スーパーウーハーは音を出していないにも拘らず、その置き場所による気流の反射のパターンの違いや、床振動の周期のずれによって鬱屈した音にもなり、生き生きした音にもなり、この様な差となって現れるのです。

 

スピーカーボードの方向性チェック

部屋の幅が狭い関係上音の広がりが感じられません。それを実現するにはスピーカーベースの響きの方向性を利用して、両外に広がる方向に向きを変更してやります。こうする事によって広がりのある音を作り出す事が出来るのです。

 

 

スピーカーの加速度組み立て

T.Hさん所有のKappa 90の固体としての問題点ですが、右のミッドユニットのエネルギーの方向が下を向き、ツイーターが上向いている関係で左のスピーカーに比べて音圧が僅かに小さいのです。

その処置としては、ミッドユニットを180°向きを変えて取り付け直すだけで済むのですが、強く密着していて外すのは無理なようです。問題を解決出来ないとなると不安を煽るだけで、何一つプラスはありません。

初めての試みですが次善策としてツイーターの向きを反転させて、両方とも下を向いた形でハーモニーを得る事にします。かなり難しい試みではありますが、方向性云々よりも力率を統一する事の方がこの際重要です。

 

ルームチューニングパネルの使いこなし

スピーカーの間にあったV字形パネルはスーパーウーハーにその場所を譲った理由により撤去しました。次にメインスピーカーの真ん前に置いてある床置きパネルの使いこなしについて、実験しながら検証してみる事にしましょう。

元々制動の効かないウーハーの直前にパネルを置けば、確かにタイトな低音になるようですが、音の伸びやかさも一緒に無くなるトレードオフ状態になります。ある時と無い時の音の違いはそれぞれに良い所がありましたが、短所の部分もあり一長一短といった感じです。

 

短期即効タイプと伸びしろのある将来性タイプ

床からの反射を防ぐ効果があると言うよりも、直前に置く事によって床振動の周期を短く出来るので、制動の効かなかったルーズな低音(暴走する床振動)が一気に押さえ込まれるのです。

ローゼンクランツの音作りでは、止むを得ない場合以外は最後の最後までこうした荒技を使う事はしません。短所に視点を向ける手っ取り早い方法もありますが、私は伸びしろのある将来性に託し、より長所を伸ばすセッティング方針に則り、精一杯愛情を注いでやります。

 

個々の環境を見越した上での適材適所

これらスピーカーの前に使っていたコンパクトな床置きパネルは、側壁にあるパネルのすぐ横に置き変えて使う事にしました。その目的と狙いはこうです。オーディオラックの後ろのラインと並ぶ位置に置くと、横一列に壁を設けたのと同じ理屈になるのです。

 

従って、その仮想の壁を起点にしてスピーカーの背後の壁との間で、振動の周期を作り出す「カイザーウェーブセッティング」に持ち込むのです。これで部屋とスピーカーとラックに収まった機器達がリズミカルに音楽を奏で始めるのです。

今日のパネルセッティングの順番は通常とは違って、スピーカーの後ろに使う面積の大きいパネルが最後になってしまいました。中央にあったV字形パネルが無くなったのをカバーする意味もあって、角度は浅く中央に寄せ気味にしてバランスを取りました。

 

自作の石パネルの利用法

力のある高音を出すのが狙いで側壁部分にあるチューニングパネルの上に自作の石パネルを載せてあります。狙いは分りますが使い方が駄目です。石に直接反射させるのはあまりにも短絡的で、この使い方だと音が乱暴になってしまいます。

 

スーパーウーハーの後ろに隠すように置いてやると、味わい深い縁の下の力持ち的な効き方になります。倒れないように2枚ある物を上下に連結して使うよう提案しました。

 

色々なソフトを聴いて最終調整

石パネルの使いこなしによって、インフィニティーの弱点の一つでもある中高音のひ弱な部分にエネルギーがみなぎるようになりました。ジャズのディスクを聴いた時に顕著に分りましたが、これはカイザーラックに負う所が大です。

力みなぎるシンバルの高音、はたまたバイオリンの音色に代表されるデリケートな高音の同時再生は不可能に近い二律背反するものです。それがどうでしょう、見事なコントラストを描き、楽器の持つ音色の魅力に陶酔出来るほど素晴らしい音に変身しています。

リスニングチェアーに座ったまま、クリニックによって音が変化向上して行く様子をじっくりと確認出来るT.Hさんは、その都度頭を上下に頷きながら納得満足のようです。特に女性ボーカルを沢山聴きましたが、アーティスト個々の声質の違いと魅力が思いっきり出ます。

”Kappa 90の魅力満開です”

 

隠れインフィニティーファンの私

インフィニテシマルを毎日聴いている私にはよく分りますが、一度耳にすると忘れられない麻薬のようなEMITフィルムツイーター特有の魅力が出てきました。オリジナルインフィニティーの血統が残っているのは、Renaissance 90とこのKappa 90までです。

その魅力が凝縮されたI.R.S直系のひ孫であるInfinity Infinitesimalのオリジナル0.1と0.2と0.3の全てを私はコレクションとして持っています。

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