悲痛にも似た以下の一通のメールを頂戴しました。
電話による問診
詳細をお尋ねしたいので電話を頂戴しました。スピーカーユニットや他の機器、即ちハード側の不具合に起因するものなのか、あるいは単なる調整やセッティングの拙さによるものなのかの判断は、電話による問診では判別不能と判断し直接クリニックにお伺いする事になりました。今回のクリニック及びセッティングにつきましては42,000円にて見積り申し上げました。
更に事の流れを順番に整理してみますと以下のようになります。
@購入した地域の量販店に相談すると、ドライバーのダイヤフラム交換を勧められ4本全部交換すれども改善はしなかった。
AアンプとCDプレーヤーをメーカーに点検に出しても異常無しとして戻る。
B地域の専門店に相談の結果、ネットワークのパーツ交換に始まり、内部配線の交換、アッテネーターのバイパス化、ユニットの止めネジをステンレスに交換、コーンのエッジをセーム革に交換するといった大改造を敢行。
悩みに悩まされたその原因とは!?
こうした経過を辿った後に今回のクリニックに挑む事になったのですが、私の診断の結果は、4344の4つのユニットの繋がりの悪さから来る、ピークとディップによる単なるハーモニーの欠落でした。早い段階から当社に相談を頂いていれば、アッテネーター調整とスピーカーと部屋の織り成す響きの調整だけで簡単に解決出来た事です。
今件はそんな誤った判断や対応、そしてプロとしてのセッティング技術のお粗末さとオーディオ診断能力の低さが招いた正に人災であります。また、類似した不作為による不幸な出来事が如何に多い事か知って頂きたいと思います。
芸術性が問われる判断の岐路
音の鮮度を追求し過ぎるが余り、肝心な音楽をスポイルしてしまうのは今日のオーディオ業界にはよくある事ですが、それは本末転倒と言うもので、そこが芸術性が問われる判断の岐路となるところです。私がかながね言っている事ですが、「オーディオというサイエンスが音楽というアートを押しのけてしまっては駄目だ!」という典型例です。
アッテネーターさえ使えれば各ユニット間の音の繋がりを自然に持って行く事が出来たのですが、それ無しで4344のメガホン形状で鋭利な音のするミッドドライバーをコーン型ユニットとスムーズに繋ぐのは至難の業です。
こうなるとローゼンクランツの秘蔵っ子であるスピーカーアタッチメントの力を借りるしか他に良い方法はありません。6種類の線径の違うケーブルをブレンドしてあるグラフィックイコライザーの役割を持つアイテムです。
住宅で例えるなら、段差を極力無くしたりスロープを設けたりするバリアフリーのような効果をもたらすものです。4つのユニットから音がバラバラに出ていたのが一気に解消されました。ギンギンした音がなくなり、「あ〜楽になった!」という感じです。
次にはスピーカーから出る音と壁や家材道具等によって反射する間接音との音を合わせるべくスピーカーの位置を調整しました。この作業によって更に心地の良い音に変化しました。
鉄は磁性体だから音が良くないと言うのは真っ赤な嘘
『これが交換した際に外されたオリジナルの部品の数々です』。と言って、目の前に出された配線類や部品達を見ると、最早4344の原型はどこにも無いと言えるほどで、ある種の残虐ささえ感じてしまいました。
"磁性体である鉄ネジは音に良くない"との理由でステンレス製に換えられたそうですが、幸いにもネジ類もきちんと残っていましたので、元のオリジナルの鉄製の物に戻すと同時に、ネジを適正に配置する簡易加速度組み立てを施しました。元の鉄製ネジに戻してハッキリした事ですが、ステンレスネジがそれはそれは酷い音だったという証明がなされました。
厳密な言い方をすると、ステンレス製のネジの音が悪いというのではなく、アルミ製のスピーカーユニットフレームとステンレスネジの間に生じる振動のピークやディップが不協和音を生じさせていたのです。もっと正確にはMDFのバッフルボードに取り付けた際のという条件下での事です。
過去のある時のテストでは良い結果をもたらした事があったのかもしれませんが、検証の数や例も充分でないままそれが一人歩きし、ステンレス製のネジの音が良いと信じて疑わず、ありとあらゆる時に用いた事がこうした結果を生んだのでしょう。
一例を持ってして、百のように断じてしまうのはいけません。
次に目を向けたところは各機器の電源の取り方です。フィルター回路の入った電源タップから無造作に取っていたのを、使用電力量等を考えながら最適な配置に組み替えました。これもギクシャクした感じが取れて音にスムーズさが出て来ました。
かくして耳をつんざくようだった4344も、見違えるように滑らかな音になりました。