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Marantz #7.#8でAltec A-5を鳴らす (動画)

三日目の午後の訪問予定となっているアルテック好きのOさんとは、上海オーディオフェアー見学後、会場のすぐ隣の広東料理のレストランで落ち合いました。初日、二日目と用意して頂いた上海料理が口に合わず食傷気味だったので、重い気持ちを引きずりながら席につきました。

ところが出て来る料理はどれも美味しくて、空っぽ状態となっていた胃袋はここぞとばかりに食欲旺盛モードへと様変わりしたのです。旅先では何が起こるか分かりません。すっかり息を吹き返した私は、この後のクリニックに大いなる期待が持てる予感がしました。


文化レベルの高い生活ぶりに驚嘆

街の中心部から車で40分ほど走った住宅街の一角に、これからクリニックを予定しているOさんの住まいがあります。アパートの外観は古びてはいますが、ゲートには警備員がいて安全確保には力が入っています。

Oさんの部屋はエレベーター無しの6階と聞かされ、20キロを超える重たい鞄を運び込むのには大変です。この調子だとトイレも水洗ではないのでは? と思いましたが、部屋に通されてビックリ! バス・シャワールームと共に水洗トイレがとても綺麗な状態で備わっていました。掃除は行き届いているし、清潔で文化レベルの高い暮らしぶりに驚きました。

中国は社会主義の国ですから、不動産は国の物であるとの考え方に則っています。基本的には賃貸という制度はなく、権利の買い上げが一般的だそうです。数十年でその権利は消滅するのだそうです。

夜の宴席での会話で知った事ですが、Oさんは4つのマンションを持っているとの事。今回クリニックのご縁が急用発生で立ち消えとなったJBL66000のMさんに至っては、10軒のマンションを持つリッチマンと聞かされビックリしました。上海では今マンション投機ブームなのだそうです。日本の80年代とそっくりです。


磨き抜かれたビンテージの数々

Oさんの趣味はアンティークオーディオで、5、60年前の真空管ラジオに始まり、手入れの行き届いたテープレコーダー、Reel to Reel Tape Deckが何台もあります。30年前の私のシステムと似ていますが、Oさんの方が当時の私よりずっとレベルが高いです。

また、ソフト棚にはLPレコード、Reel to Reel Tape、CD、DVDと幅広く揃っており、これだけの良識派マニアは日本でもそう居るものではありません。オーディオマニアのお手本と言えます。中国は人口が多いだけに、こんなにも素晴らしい人からそうでない人までの層や幅が広いのに驚きます。

昨日の午後に伺ったWさんと今日のOさんは、ハイエンドとビンテージという全く違うシステムでありながらも、共に高い文化レベルを持っておられる事に中国の底力と勢いを感じずにはいれません。

Oさんのお宅はマンションにも係らず、室内に階段がある2フロアーとなった珍しい構造をしています。下の階にアルテックA7があり、上の階にも同じくA5が鎮座しているのにはビックリしました。


機器も然る事ながら、使いこなしが素晴らしい

また、その音はとても素晴らしく文句無しのバランスで鳴っています。しかしほんの僅かだけ、ウーハーとホーンの間に位相ずれがあるのを発見しました。その差僅か10ミリですが、ホーン部を前に出しました。

すると低音と高音部の位相がピタリと揃い、10ミリの効果の大きさに皆さん驚いています。私は聴きながら合わすのではありません。集中力によって一発で決めるのです。

次はスピーカーと部屋の気流の反射パターンをカイザーウェーブに合わせます。先程とは反対にスピーカー全体を後方へ僅かに10ミリ動かしただけです。部屋の中には6人居ましたが、全員の目が点になるほど音楽のエネルギーが部屋中に充満しました。

ホーン部だけは元の位置に戻った事になり、Oさんは音楽のエッセンスの多くが集まっている中音部では完璧に合わせていたのです。その点からして素晴らしい耳の持ち主である事が改めて判明した訳であります。

とにかく欠点が見当たらないほど、入念なセッティングが施されているのです。それでも私の腕前を見せる為には問題点を探さなくてはなりません。タップに挿されているアンプの電源ケーブルの場所の変更を提案しました。

そんな事で音が変わるのか? 

一同あっけに取られたような顔をしています。

その結果はというと、

力強い音と共にバランスまでもが良くなった事に、

O氏は『どうしてこんな事が分かるのか?』 

と私に質問して来ました。

「私にも分からない。多分、第六感、否、第七感で決めているのだと思う!」

と答えるしか術がありません。

一生懸命にやっている内に出来るようになっただけです。


自分にとっての明確な価値基準を持っているO氏

「”気流の問題”と”電気的な面”で気になるところは調整したので、次は”振動の問題”に入ろうと思います」。スピーカーの間にあるアンプラックは良いのですが、その前にスチューダーのオープンリールデッキ2台の置かれている場所が気になったので、これも10ミリ動かしました。

『ダイアナ・クラールの声が遠くなったから前の方が良い』とO氏は自分の好みをハッキリと私に告げます。

「では、動かした台のテープデッキ自体を後ろに15ミリ下げて下さい」

『更に後ろに行った! 私の目の前に立って歌ってくれるのが自分の理想なんだ! しかし、バイオリンは丁度良くなった!』とO氏。

私がそこで、「貴方のライブラリーを見るとクラシックが多いから、クラシックの良さが出るように合わせた方が良いのでは?」

「もう一つだけやりたい事があるので、先にそちらをやってから色々話し合いましょう」

「それは、パワーアンプを3ミリ前に動す事です」

先程から、微調整はOさん自身でやって貰っています。

結果は上々! 定位も完全に決まり、音も気持ちよくスカッと抜けたのでした。

https://vimeo.com/42749718
高画質でご覧になるにはこちらからどうぞ


真の意味の「日中オーディオ文化交流」

満足した様子のO氏は自分のシステムの点数を私に求めて来ました。「貴方のシステムに点数をつける事など、私にはおこがましくて出来ない」と答えました。日本では道具や物を活かして生きる事を”生活”と言いますが、ステレオを活かし慈しむ姿が随所に伺えるOさんは、正に本物中の本物の趣味人です。

ステレオを操る腕では私の方が上ですが、愛情面では明らかに私は敗北したのです。こんな気持ちになったのは久し振りです。真の意味で「日中オーディオ文化交流」が出来たと嬉しく思いました。

O氏も次は家族を東京のディズニーランドへ連れて行きたいので、次回は『東京で再会しましょう!』と言って、固い握手を交わしたのでした。

その後、Dynaudio C2をお持ちのBさんが車で下まで迎えに来て既に待っているといいう連絡が入りました。Bさんのクリニック後には、今回のオーディオ仲間が集まって、私達二人の歓迎会と慰労会を開いてくれる事になっているそうです。

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