『近所なのですが、これからそちらへ相談に伺ってもいいですか?』
その内容とは?
現在、ダイヤトーンのDS-8000で音楽を楽しんでいて、これといって不満はない状態。最近、憧れだった2S-3003を運よく手に入れる事が出来た。しかし、繋いで音を出した瞬間! 遠くで鳴っているような、その寂しい音に愕然となった。
こんな筈はない! と思いつつも、どうしたら実力通りの音で鳴ってくれるのかが分からないで困っている・・・。先ずはカイザー試聴室の音を体験したいのと、クリニックやセッティングについての考え方を伺いたい。
カイザー試聴室は予約制を採っているので、今日の今日というケースには対応出来ない場合が多いのですが、その日は仕事が一段落したところだったのでお受けしました。より確実な助言が出来るよう、オーディオシステムと部屋の状況が分かる写真をお願いしました。
トランスポート: | WADIA WT-2000S |
---|---|
DAコンバーター: | WADIA 2000VU '96 |
セレクター: | WADIA デジリンク40 |
アナログプレーヤー: | VICTOR QL-A75 |
フォノイコライザー: | LUXMAN E-200 |
パワーアンプ: | PASS X-350 |
スピーカー: | DIATONE DS-8000 |
スピーカー: | DIATONE 2S-3003 |
お客さんとの出会いの形が昔とは変わった
かつては、お客様とのご縁は雑誌の広告や紹介記事を通して生まれていたのですが、変われば変わるもので、今ではインターネットが八割以上を占めるまでになりました。
オーディオについてネットで調べものをすると、どんなキーワードで検索しても、”ローゼンクランツのウェブに辿り着く!” と言われる事が多く、セッティングやノウハウ満載のコンテンツとして認知されています。
日本全国に跨るオーディオクリニックで大抵の機器は経験済みです。そのお客様訪問記に機種名が記載されている関係上、それらのブランドや機種名検索でヒットするみたいです。
たゆまぬ研究と数え切れないオーディオ機器を調整して来た事で、音を自在に操れるようになりました。勿論その裏には幾多の失敗や恥もありますが、それらを乗り越えて来た事で目に見えない自信という財産を手にする事が出来ました。
カイザー試聴室のサイズを超えた広大な音場に驚き!
K.Sさんが私を訪ねて来られたのは、愛情を持って2S-3003をクリニックした私の経験と腕を見込んでの事だと受け止めています。そこらあたりをお話しした後に、カイザーサウンドの音を聴いて頂く事にしました。
カイザー試聴室では、このところRK-AL12/Gen2をメインスピーカーとして鳴らしています。最初にかけた曲は、カーネギーホールのライブ録音であるベラフォンテのフイナーレ曲マティルダです。
舞台上を動きながら楽団や聴衆を引き込み、盛り上げて行く様子がリアルに再現されればしめたものです。最後の拍手の嵐は圧巻です。'57ベラフォンテが37歳の時の公演ですが、最高のエンターテイメント振りを発揮しています。55年前とは思えない優秀録音盤で、世界中のオーディオ・イベント・ブースで耳にしない事はありません。
その他、色々なジャンルの曲や録音年代による音の違いを一通り聴いて頂いた事で、カイザーサウンドのオーディオ・セッティング技術の高さをK.Sさんにはしっかり納得して貰えたようです。
それを決定付けたのは、
「スピーカーを2センチほど動かすと酷い音になりますよ!」
と予言する形で、空間の広がりを意図的に崩してお見せした事です。
「では、元通りにしましょう!」 と言って、
スピーカーをすっと動かすと、
部屋を埋め尽くす音楽の響きが蘇ります。
気流の波動パターンが、”どうなった時に、
どんな音になるか”の法則性を身体に叩き込んでいるから、
どこへ行ってもその響きを紡ぎ出す事が出来るのです。
クリニックの内容と費用の説明
クリニックには、”腕の部分”と”製品の性能”に頼る二つがある事をお話し、可能な限り腕だけでどこまでの音が作れるのかを、最大のテーマとして頑張ってみたいとお約束しました。
当日はインシュレーターやケーブル類を豊富に用意して、興味次第で試聴して頂く事としました。スピーカーの大きさやシステムのグレード等を考え、当日のクリニック&セッティング費用は63,000円でお受けしました。
『当日友人のクリニック見学は問題ないでしょうか?』
と尋ねられましたが、歓迎こそすれ、何の問題もありません。
K.S邸のクリニック
ユニット配置がJBL4343と似ているDS-5000は印象にありましたが、更にその上の機種と思えるDS-8000というスピーカーの事は知りませんでした。ネットワークを外付けにするほどの拘りモデルですが、当時の価格がペアーで70万と伺いました。
晩年のダイヤトーンには珍しくウーハーにはパルプコーンを採用。ミッドは独自のアラミド繊維コーン、ツイーターはピュアボロンコーンと各々の素材が違えどもオールコーンタイプです。
パルプのウーハーを使っているからか、世間で言われるタイトなダイヤトーンサウンドではなく、一般的なスピーカーの音といった印象を受けました。セッティングに於いては良くも悪くもありません。強いて言えば、中音と低音との音の繋がりの悪さが私の耳には感じ取れました。
言っては悪いですが、価格が5倍ほどする2S-3003と比べるには余りにもレベルが違い過ぎるので、迷う事無く2S-3003を鳴らす事に力を注いで欲しいとお伝えしました。
K.Sさんはその一言で吹っ切れたようです。
私は自分のチェック用ディスクを持ち込まない
クリニックの段取りは先程の試聴の中で掴めました。私は自分のチェック用ディスクを持ち込む事はしません。お客さんの聴き慣れたディスクで確認して頂くのがリラックス出来ると共に理に適っているからです。
私にとって都合が良いのでは何の意味もありません。その為にはどんなディスクでも調整出来なくてはなりません。これが簡単なようで難しいのです。しかし、ここまで出来て初めて一人前です。プロとはそうあるべきだと思います。
スピーカーの足場の調整は大事
2S-3003をセッティングするに於いて、最初に足場のスタンドとベースの響きの方向を是正したいので、スピーカーベースを左右共前後を180度反対の向きにします。スタンドは今までの向きのままで問題ありません。
スピーカーの位置調整は、ベース毎動かしてセッティングするのがカイザー流なので、常にスピーカーとベースの位置関係が変わる事はありません。ベースとスタンドとスピーカーの振動エネルギーが最大・最速にて収れんする為なのです。この基本が出来ていない事が最初のボタンの掛け違いとなります。
何事も初めが肝心です。それに先立ち、スタンド上部のコルク部分だけを残し、ガタツキ防止の為に付いていたベース下のマットやスタンド脚底部のフェルト系スペーサーを取り除く事にしました。
靄のかかったような音の原因となるからです。
これで初めてスピーカーをスタンドに乗せる作業に入れます。
2S-3003から音を出して聴きますと、私には圧倒的なポテンシャルの差が判るのですが、ご本人はこれから伸びるであろうその先の音まで分からないので、むしろDS-8000の方が低音が豊かで良いと感じたようです。もっとも一般の方で音の先読みが出来てしまったらプロの出番が消失してしまいます。
オーディオラックの調整
スピーカーとの振動の足並みを揃える意味で、ラックの位置を10ミリほど前に出す事にしました。この数字の判断は、どうやって決めるのか? と問われると、音を聴いた上での判断としか説明は出来ません。正確に合わせるには、写真にあるように目安になる物を置いてから動かすのが一番確かです。
微妙にずれていたリズムやタイミングが良くなったのが分かります。
振動とは正直なもので、タイミングが合うほどに音楽のノリが良くなります。
オーディオラックを整えたあとは、棚板に置かれた機器全ての位置合わせを音を聴きつつ調整します。ひとつひとつ試みる度に音のフォーカスが徐々に上がります。
本日のクリニックの決定打 ”ケーブルの裁断”
カイザーゲージ発売時はイベントで何度か実演しましたが、それ以来10年程封印していた”伝家の宝刀”を抜く事にしました。繋がれているスピーカーケーブルは2S-3003の為に三菱が開発したその名のままの3003という代物です。
”長さによる音の違い”を知って頂く為に、
音の良い場所で切って聴いて貰おうという算段です。
外したケーブルを計ると丁度5mありました。それを目の前に置き、指先に神経を集中させ念力で音の良い場所を探り出すのです。50センチ程のところで先ず音の良いポイントを見つけました。次はそこから15〜16センチの所です。更にそこから60センチ程の所にも反応する所がありました。
皮膚には脳の機能が備わっている
この皮膚の感覚を私は静電気のようなものを感じていると自分では思っていました。最近、”皮膚”は「第三の脳」であり、未知の思考回路である! という傳田光洋(でんだみつひろ)氏の本を読んだところ、皮膚は”光”も”電気”も”色”にも反応するという事が、医学者によって解明されていると記しています。だから決してオカルトだと断ずる事は出来ないのです。
全ての物体は原子レベルで振動しており、その波動と人がどう共鳴するかであります。今、正にオーディオクリニックという名目で音の調整をしていますが、その波動の変化を身体が心地良いかどうかを感じ取り、受け入れたり拒絶したりしているだけの事です。だから日頃から自分の身体に取り込んでいる、食べ物やステレオが奏でる音も全ては波動なのです。
ちなみに「第二の脳」はと言うと、”臓器”であります。モルモットの口から腸までの臓器部分だけを取り出し、その口に物を入れてやると、もぞもぞと胃や腸へ向けて運ぶのだそうです。ゴカイやミミズが良い例です。一般的には脳神経を通して筋肉を動かしていると考えられていますが、そうとばかりではないという事が近年分かって来たのです。
生き物は本当に神秘です。
音の先読み技術と”カイザー指標値”
何度も繰り返し音をイメージすると、”カイザー指標値”が出ました。
一番良い所を100点として出した数字です。
1.オリジナルの長さが40点
2.50センチ程短いところが85点
3.更に15〜16センチ短い場所が70点
4.更に60センチ短い場所が100点です
同じケーブルでも長さの違いだけで、40点 → 85点 → 70点 → 100点と、”良くなったり悪くなったりを繰り返す”と予言した訳ですが、それを信用して頂けるかどうかは施主さん次第です。
一回目のトライアルはさほどの勇気は要らないでしょうが、二回目の悪くなる方に向けてはちょっと勇気がいると思います。しかし、一回目の方が良かったと言っても元には戻れません。でも更にその先の三回目に、最高の100点が待っているのですから・・・
「どうなさいますか?」
K.Sさんはしばらく考えた後に決断しました。
『最後の100点目指して行きます!』
ケーブルの端末処理についてはK.Sさんが器用にやってくれました。
「では、長さの違いによる3種類の音を聴いてみましょう!」
一回目の85点と予言した音です。
笑ってしまうほど音が良くなりました!。
オブザーバーのKさんも含めて一同異議なし。
次は85点から70点へと悪くなる音です。この時の音源はヴィバルディーの四季を鳴らしていましたが、音が出るや、ほんの10秒ほどで躊躇無く先程より明らかに音のバランスが悪くなったと判断出来たようです。
残るは70点から100点の音へと向上するはずですが、
どんな違いの音を聴かせてくれるのでしょうか・・・?
その音を聴いて、二人の顔が笑顔に変わりました。
納得が行くと共にほっとしたようです。この音の違いをK.Sさんに尋ねると、『オリジナルの音や70点の音より明らかに良いのは分かるけど、85点と比べた時にはどちらが良かったかの判断はつきません』というのが正直な感想でした。
100点と見込んだ長さの音は、解像度と切れが良く、とても反応が速いです。音の豊かさに於いては85点の長さの方が僅かに上回っていたというのが私の分析です。それは後の諸々のセッティングで解決出来るので何の心配もしていません。
現時点ではセッティングも詰めていないので、K.Sさんの言われる通りかもしれません。しかし、私にはここから先、音がどのように推移変化して行くのかまで読めるので、あるのは楽しみだけです。
この音はどこまで伸びるのだろう!?
と大きな期待が膨らむ音なのです。
電源タップの給電状態の是正
何がどう繋がっているかは分からないけど8ヶ所全部埋まっています。何とも劣悪な雑魚寝のような給電状態です。100点満点でいうとこれは10点がいいとこです。ひとつひとつ確認すると、2プラグタイプのケーブルは4本中半分の極性が間違っていました。ここは一番の改善テーマなので、次の機会の音のグレードアップ時に強化して欲しいものです。
右の写真が是正後の給電パターンです。
この効果は、スピーカーの当たりが良くなった変化です。ダイレクト感の向上に伴い闇も取れました。具体的には、中低域の繋がりが良くなり低音の量感が増して来たので、段々と理想のバランスに近づきつつあります。
スピーカーの加速度組み立て
K.Sさん曰く、
『カイザー試聴室と似た響きがし始めました』
確かにそうではありますが、やはり根本的なところで、決定的な不具合なる音が露呈しました。私の耳はテーマ毎、ステージ毎に段々厳しくなります。音像は低いところにあるし、何より楽器の音色に調和や美しさがありません。
スピーカーのエネルギーの方向に耳を集中させると、ツイーターは綺麗に上に伸びているけど、肝心なメインユニットが左右とも真反対の下に向いていました。要するに、高音と全帯域を受け持つメインユニットがお互いに背中を向け合っている訳だから、完璧な調和は本固体の2S-3003からは望む事は出来ません。
偶然とは言え、良くないながらも左右が相似形であった事が救いでもあり、落とし穴でもあったのです。スピーカーのエネルギーの方向を揃え、ネジの適正配置とトルクコントロールを施すスピーカーの”加速度組み立て技術”は有料です。
しかし、ここは何が何でも施主さんに頑張って貰いたい! という気持ちを強く強くお伝えしました。63,000円の見積りに躊躇いつつ、ご本人もユニットのエッジ部の裏に塗る軟化剤まで購入していたので、半ば渡りに船の部分はあったのでしょう・・・。
『お願いします!』
思い切りの良い声を頂戴しました。
SPユニットと箱とネジに対する私の考え方
ネジのゴムキャップと言い、ユニットに貼られたフェルト等の鳴き止めを見るにつけ、真面目で几帳面な日本人ならではの仕事ぶりが伺えます。世界中でここまでやるのは日本人だけでしょう。
一般的にはネジ締めの強弱の違い等、不揃いから来る鳴きに対してそれらはプラスに働きます。しかし、私が望むような音のハイ ステージを基にした厳正な見方からすると、ネジのゴムキャップは外した方が断然都合が良いのです。
振動板 → フレーム → ネジ
このように伝わる振動経路を循環利用するオーディオ・スキルを駆使すれば、金属系楽器の更に生々しい音としての、物性自身が発するエネルギーを伴った音色を生み出せるのです。只この方法は完璧なエネルギー管理が出来る、”カイザー流加速度組み立て”に限ってのケースであるので誤解をしないで欲しいと思います。
不要振動ではなく、音楽的有益共鳴現象を作り出すメカニズムです。
従って、ゴムのキャップは響きを殺す事になるので敢えて使いません。その技術の裏打ちは、左右のネジ8本X2=16をひとまとめにしてから左右に振り分け、ダブルワッシャの前後順とネジとのマッチドペアーを組み、ネジの適材配置をして念入りにトルクコントロールを施します。
そのネジ締めは7回〜8回に渡って、あちらこちらと締めて行く順番を変えながら平滑化させるのです。最終的には音楽エネルギー振動が全方向性=無指向性となります。だからピントはピタリと合い、広大な音場が生まれるのです。この究極の加速度組み立てが生み出す夢のようなサウンドは、カイザークリニックを受けた方だけの特権であります。
このネジの役割をカイザー流に説明しますと、SPユニットを通して音楽振動エネルギーをエンクロージャーに正しく伝える黄金のパーツなのです。箱の波動エネルギーを最大に持って行く感覚でトルクコントロールします。
”箱は振動してはいけない”という机上の空論を真っ向否定する考え方なので、箱をリズミカルに最大且つ最速に振動させ収束させる事を目的としています。
午前10時から始めたクリニックも夜の9時まで掛かってしまったので、沢山用意していたケーブルやインシュレーターを使った試聴クリニックは、また次の機会の楽しみとなりました。
本クリニックは、2S-3003に込められた三菱技術陣の魂との戦いでした。今日の8月15日お盆はお祈りの日です。ダイヤトーンを神と崇めた今は亡き私の郷土の先輩島田貴光さんの良き供養にもなりました。また、私の父の誕生日でもあります。
昨年の8月15日も、「オールマイティー型自動制御ケーブル」という長い論文を書き上げましたので、二年続けて思い出の仕事が出来ました。
感慨深いご縁を頂戴出来た事に感謝申し上げます。
カイザーサウンド
貝崎静雄