オーディオベーシック取材絡みのクリニック
カイザークリニックの様子をオーディオベーシック誌が取材してくれる事になり、それを”メグ”ジャズ愛好会々長の中塚さんに相談したところ、Mさんを取り次いで下さいました。その中塚さんは、9月に”オスカーサウンド”というオーディオアクセサリー・ブランドを立ち上げ精力的に活動されています。
今回クリニックにお伺いするそのM(斑目秀雄)さんは、自転車競技のオリンピック総監督を勤められ、その世界では名の馳せた方であります。オーディオショウの会場では何度かお話させて頂いた事もありましたが、そこまでのお方とは存じ上げませんでした。
中塚さんが経営していた”ジャズ喫茶オスカー”と、斑目さんのスピーカーが同じアバンギャルドDUOだった事からお付き合いが始まったそうです。
想像を超える音のレベルにビックリ!
早速、ライターの長濱さん、編集長、そして中塚さんと私の四人で福島県白河市の斑目さん宅を訪ねました。斑目さんはジャズがお好きだという事なので、ジャズボーカルを聴かせて頂きました。
大変まとまりよく魅力的な鳴り方をしているので、下手に手をつけたら却って悪くなる恐れがある! との思いが頭の中を過ぎりました。はたと考え込んでしまう難題でした。こなして来た数え切れないクリニックの中で、このような体験は過去に数えるほどしかありません。
クリニック技術の何を駆使するかに苦心
特に今日はその道のプロの方々の検証の目が光っている中なので、下手を打つ訳にはいいきません。編集長からは『取材はさせて頂きますが、記事として必ず掲載するという確約は出来ません』という条件付でもあったからです。
『カイザークリニックに対しても、肯定的な立場ではなく、むしろオカルト的だとの印象を持っていた』と編集長から聞かされていたので、それなりのプレッシャーがあった訳です。
やりよう次第では、却って印象が悪くなりかねません。音を改善して行くには色々な方法と順番があるのですが、どうすれば新鮮かつ驚きの効果を披露出来るのかを、音楽を聴きながら30分近くは考えたでしょう・・・。
一番理解され難い加速度組み立てを敢行
やがてその結論も姿を現わして来ました。カイザー独自の匠の技術を見て頂くのが一番との思いに至ったのです。そうです! オカルトと思われているスピーカーの「加速度組み立て」を敢行する事に決めたのです。
「スピーカーを一旦バラバラにした上で、
ネジの適材配置を中心とするゼロからの組み替えを、
試みたいと思うのですが宜しいでしょうか?」
修羅場をくぐって来られた勝負師の斑目さんにとっては、大した事ではなかったのでしょう。何ためらう事無く、『どうぞお任せします』と言われた時には私も拍子抜けするほどで、人間としての器の違いを見せつけられた思いでした。
アバンギャルドDUOの急所は何処に?
今回の音で一番気になったのは、ミッドホーンとウーハーユニットとのハーモニーの不具合による中低音域の陥没でした。繋がりが今一歩良くありません。幸いにもアバンギャルドDUOは鉄柱に5センチほどの間隔で中高音ユニットの取り付け位置の調整が出来るようになっています。
部屋とスピーカーの位置関係の調整によってもかなりの改善は図れますが、何と言ってもスピーカーの出音の段階で完成度を上げておくに越した事はありません。音のセオリーとなる部分が長けているほど最後の最後に効いて来るのです。
集中力を高めながらミッドホーンとウーハーとの波動共鳴ポイントをイメージしていると、今の位置よりOne Span離れた所が正解の位置だと見えて来ました。その急所が見つけられた時点で、今日のクリニックの勝負は決まったも同然です。
アバンギャルドDUOのキーポイントはここにあります。
ボタンの掛け違え状態のDUOからは本当の実力を引き出せません。
皆さんが固唾を呑む中で奥義を披露
この確信を持てたら、あとは淡々といつも通りにこなして行くのみです。大小4本のホーンに始り、6本の柱、ホーンを止めるネジやスペーサー等を一旦ひとまとめにした後に左右に振り分けて行きます。更に方向性と適材配置を決めるのです。あとは塩梅良くトルクコントロールを施してやれば完了です。
これはストレスなく音楽エネルギーがスムーズに流れる為の作業です。野球やサッカーの監督が選手のコンディションを見極め、オーダー表を組むのと同じであります。
私の目に映る処置後のDUOは凛々しく別物となりました。生まれ変わったようにエネルギー・オーラを放っています。これらの立ち姿から見えるものが感覚として分からないと超一流の開発者には成り得ません。
オーディオとはコンポーネント式となっていて、プレーヤー、アンプ、スピーカーは勿論の事、ラック、ケーブル、インシュレーター等々を各人がバラバラに買って組み上げて行くので、戦略・戦術的な考え方や眼力・嗅覚が要求されます。
オーディオの核心と真理
オーディオは何をどうやっても音は変わります。
答えの無い禅問答の世界なので自分が試されます。
見えるを見ず、見えざるを見る。
虚と実の狭間をどう生きるかが問われます。
正に人生ゲームそのものであります。
優柔不断こそ大敵です。
「科学という再現性」と「再現不可能な一期一会」の世界です。
大変高度な人生学問と言って差し支えありません。
オーディオを一言で表すならば、理と気です。