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アバンギャルド:トリオ+バスホーン4台 (3度目の訪問)

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鳴らし切るのが難しいアバンギャルド

ドイツのハイエンドスピーカー、アヴァンギャルドはここ数年脚光を浴びている存在です。その最大の理由は21世紀のこの時代にドーム型のドライバーとは言え、大口径ホーンを採用している事とその存在感溢れる個性的なデザインでありましょう。

パワードウーハーを基調としたその個性的なデザイン同様、音も個性的。調教に苦労されている方は少なくありません。Tさんもこの個性的なスピーカーに魅せられたひとりで、オーディオルームも新設されたくらいです。

しかし、高価なオーディオ機器と立派なオーディオルームを手に入れても満足に至るケースは稀です。オーディオルームの完成から半年が経過、思惑通りの音にならない事から今回のクリニック依頼となりました。

機器にも部屋にも多額の投資をしたが、

思い通りに鳴ってくれない。

思いあぐねた結果、

『カイザーサウンドならやってくれるのではないか!』

そう期待され、私に白羽の矢が立った訳です。 


私に相談が来る時には、既に皆さんかなりの出費をしています。

それまでは世の主流の情報に沿ってお金を使います。

財布の底が見えるようになって始めて何かに気づき始め、

今までと全く違う事に意識が向くようになります。

人間は怪我をしないと気が付かないものです。私などもその典型です。しかし、怪我をして掴んだものは忘れないのがこれまでの人生で培って来た教訓であり、身体に染み込んだ感覚であります。

Tさんのシステムはすでにこの欄で報告しているとおり、マニアも羨むハイエンド機で構成されています。長年この商売を続けて来た私でも、これほどのシステムに遭遇する事は滅多にありません。


ローゼンクランツの手法を存分にぶつけてみる

このような現代ハイエンドの最高峰ともいえるシステムにローゼンクランツの手法を正面からぶつけたらどうなるのか!?

これまで培ったありったけの経験と知見を活かして、機器に対しては出来る限りの事を行いました。中高域トリオの足場へのサウンドステーションとGiant Baseの導入で生ぬるい音と別れる事が出来たのは狙い通りでした。

アタックの強さと音が走るようになった事で、ボトルネック部の問題が解決し、大型スピーカーとしての面目が保てるまでになりました。しかし、この程度で喜ぶわけには行きません。


機器以上に部屋の影響力は大きい

何故ならば建物まで含めれば何億ものお金が掛かっているからです。モノだけ提供して感動を届けられていないともなれば、音楽鑑賞という目的から大きく逸脱していると言わざるを得ません。何事にも限度があります。

その結果、T氏邸はコンポーネントのセッティングよりも、部屋の問題の方が大きかったとの最終結論に至りました。そこで、T氏にとって費用対効果の大きい物をと考えた結果、両者の中に部屋の壁のリフォームというプランが浮上したのです。

ケーブルやインシュレーター等のアクセサリーだとそれぞれの部分で音が向上しますが、壁面をカイザー流に改善すれば、ステレオから発する音の全てに効いて来るので何倍も大きな効果が期待出来ます。


新築オーディオルームを1年経たずにリフォームする事に!

設計も建築も一流どころに発注し、多額を投入して完成させたオーディオルームを一年も経たない内にリフォームするのは辛い決断だったでしょう。その分だけ大きなプレッシャーが私に覆いかぶさります。ここは心を無にしてやるしかありません。

これまでの幾多のクリニックの経験をこの難しい現場で発揮出来るのか、正に本番での実力が試される時です。ハイエンドシステムという強敵にアウェーで対峙するような、真剣勝負で臨んだのです。


問題点を列挙

本クリニックとリフォームにあたって、
私が音の設計の基準としたものは次のとおりです。

@生きた音と萎えた音
・音の立ち上がりが速い
・音飛びが良い
・音に張りやしなりがある
・音の強弱がよく分かる

A走る音と止まる音(方向性がモノを言う)
○繋がった物の振動はライブ(天然木・繊維質が有利)
 収縮と膨張を繰り返し増大するエネルギー

▼粒子状の物の振動はデッド(圧縮ボード、石膏ボード)
 音が弾まず、暗く重く沈んだ音

Bパワーのある音とキレのある音
・量的迫力と速さは反比例
 量は充分なので、速さの内容にメスを入れる

Cリズムやテンポ、ハーモニーに優れた音楽性
・材料の長さの組み合わせによる音の調和
・素材の振動・振幅係数を考慮する
・幾つかの周期性を組み合わせる


何を、どういう理由で、何の為に、どのような方法で行うか!

練りに練って導き出した答えはやはり「加速度組み立て」でした。

志賀高原の原木杉による「戸籍簿管理」も考えましたが、

T氏邸で一番不足しているのは、「音の走りと粘り」です。

それを解決する為に、「フランスの松」を選びました。

「松脂の粘り」と「節の力」を利用するのです。


T氏邸の致命的な欠点は人工内装材がもたらす無味乾燥な音による音楽的・芸術的魅力の欠如に尽きます。それはオーディオ業界全体の総意定説として定着している吸音・反射を基本とした手法に根本の原因があります。全く異なる両者の素材の割合によって調和を計ろうとする方法です。響き過ぎたら吸音する。響きが足りないようだと吸音材の量を減らす。

これでは1ベクトル軸における「Yes! or No!」式のデジタル的調整だけなので、深みのない浅く単調な音しか作る事は出来ません。日本では古来より音楽を演奏する為のホールに対する文化深度が浅い故、その分野に於いてノウハウが乏しいのは当たり前と言えば当たり前です。


カイザー流オーディオ壁 施工工事

現在のそっけない音にアクセントと抑揚を付与するべく、表面にザグリを施したワイルドな素材を選びました。表面加工の違う3種類の材料を適材配置する為の設計図が次のパターン図です。殆どの材料は予め裁断した状態で持ち込みました。

更にオプション料金になりますが、現場の材料を見てその場のアドリブで戸籍簿管理に近いイメージで加速度組み立てを行います。

全ては材料任せとなります。

どうして欲しいのか?

答えは物の中に存在しています。

それを如何に汲み取り活かした用い方をしてやるかに尽きます。高度な面で言うと、答えはその時の材料によって変わります。正に一期一会であります。優れたリーダーは傭兵に優れています。兵の命を粗末にしません。そんな気持ちで材料と向き合いました。


厚さ50ミリのグラスウールが壁四面の殆どを覆うほどに張り巡らされています。今日は背面壁の一面だけにカイザー流オーディオ壁を施工する事になっています。先ずはグラスウールを剥がし、残ったボンド跡をスクレーバーで剥ぎ取ります。その後、凹んだ部分をパテ処理して準備作業が完了です。

次は下地に合板を打ち付けます。この時の釘を打つポイントが音の強弱やテンポの足並みと関係して来るので決して気を緩めてはなりません。見えないところほど重要なのです。

年輪の詰まり具合や節の太さやパターンを見極めながら適材配置を決めて行くのですが、この部分こそが余人を持って代える事の出来ないカイザー流の真骨頂であります。今までもこの部分を磨きながらお客様に価値を訴え続けています。

通常の世間の価値観からすると目に見えない部分なので、加速度組み立てというその価値に対価を支払うのはハードルが高いのは間違いありません。従ってローゼンクランツ製品やカイザーセッティングを手に入れる事が出来る人は自ずと限られて来ます。

その分それを乗り越える勇気や先読み力、そして決断力のある方達によってカイザーサウンドは支えられています。その付託に応える為にはどんな努力も出来ます。そして、全身全霊を傾けてカイザー流オーディオ壁を完成させました。

結果として、悪戦苦闘、呻吟しながらもこのモンスター級のハイエンド装置から生きた音楽を得る事が出来ました。

『今までで最高の音になった!』 

『この世のものとは思えないほどだ!』 


1/10に受け止めたとしても、

嬉しいお言葉に責任を果たせたと安堵しました。

又、私自身も得難い仕事をさせて頂きました。

今後ご縁のある人達に更なる素晴らしい音をお届け出来ると思います。

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