ソナス・ファベルの創設者フランコ・セルブリンが立ち上げた第2のブランドは自らの名を冠した、スタジオ・フランコ・セルブリン。デビュー作”Ktema”の美しいシルエットとその構造からは、ハイエンドとビンテージの両立であり、更に楽器との融合も狙ったのであろうと私自身は読み解きました。
練りに練られた設計と造形美は、イタリア人にしか出来ない芸術表現として誇らしげです。果たしてこの構造を理解し活かしたオーディオ再生を、心に沁み入るレベルにまで実現出来る人がどれだけ居るのだろうかと気をもみます。
今回のオーディオクリニック相談を頂いたJ.Iさんが、その”Ktema”をお持ちだと聞かされただけでワクワクして来ました。二年ほど前に一度だけ”Ktema”に接した事がありましたが、その時は深いところまでのクリニックには至りませんでした。
ですから、”Ktema”が持つ本当の実力と魅力は知らず仕舞いなのです。電話相談の内容が進むに連れて、本格的に取り組んでみたいとの様子がJ.Iさんから窺えたので、ついつい夢中になって喋ってしまい、気がついたら二時間を超える長電話になっていました。
良い仕事をするには事前準備が欠かせません。今の状況が解るように、構成するシステムの概要と、色々な角度から写真を撮って送って貰いました。
このように詳細かつ丁寧な情報を頂きましたので、事前にじっくりと戦略を練ることが出来ました。何があっても困らないように、ケーブル類やインシュレーター一式を車に積み込んでいざ訪問です。
雄大な浅間山が見える自然に囲まれた羨ましい住環境です。朝の九時半ごろに到着しました。オーディオルームに入った瞬間に感じたのは部屋の寸法比の良さです。好結果が得られそうな予感がします。さりとて、QRDが多過ぎて視覚的にも音楽鑑賞にも馴染まない様子は否めません。大小合わせて12本はさすがに多過ぎです。
とにかく、何も触らず現状の音を聴かせて貰う事にします。バイオリンコンチェルトと声楽をメインに試聴しました。J.I邸の音はセンター定位こそ正確ですが、スピーカーの前にも上にも外にも全く響きがありません。
粘土で固めたような独特な固着感です。この表現は私のオーディオクリニック訪問記で初めて使う言葉です。オーディオ誌の影響なのでしようか、知的レベルの高い人にありがちな傾向の音です。
オーディオ・オーディオした音は、
あまりにも人工的で不自然。
頑張るほどに上手く行かない様子が、
手に取るように分ります。
これが私の第一印象でした。
どういう理由でこうした鳴り方になるのか?
脳内で分析解明作業に入ります。
QRDの影響も大きいですが、もっと他に理由が無い事にはこうした鳴り方にはならない筈です。スピーカーは無垢合板で覆われている上に、内に外に湾曲成型してあるので、熱成型時に木目の持つ響きの方向性がより顕著に出たのだろうと思います。
特に内アールはパラボラアンテナの如く音を集めるので、大きく内振りした事で更に顕著になったのでしょう。それにしても外側は拡散しても良い筈なのに、両外の音は全くゼロに近いのです。
部屋の側壁との波動位相が良くない事を差し引いたとしても酷すぎるのです。そこらあたりまで絞り込むと、スピーカーユニットのエネルギーの方向性と側板の響きの方向性が左右共に内向きになっていると結論付けました。
方針決定! 準備万端!
さあ! これからクリニックの開始です。
左右のスピーカーを入れ替えてみる。
「そこで提案です」
「スピーカーの位置は何一つ触らず、
左右のスピーカーを入れ替えてみませんか?」
スパイクの下に雑誌を入れて滑らしながら移動します。
養生テープでマーキングした位置にセットし、
再試聴します。
すると如何でしょう・・・。
音が一気に広がり、
ステレオとして展開するようになりました。
J.Iさんの大きな目が更に大きくなって、
驚きの表情に変わりました。
僅か一球投じただけで、プロの技を感じ取って貰えたようです。
QRDの使いこなし
@正面の反射・拡散用の3枚を1枚に減らします
センターに使うのに都合の良い均質な1枚を残し、左右の偏りの大きい物を2枚外しました。こうした選別は方向性を診る達人ですからお手の物です。更に正面両隅の吸音用の2枚を吸音効率を上げるべく30度ほど角度を付けて置き直します。
A次は左壁の反射・拡散用2枚を右の1枚に合うように1枚減らします
次に最適な位置に移動させます。その状態で改めて試聴します。どんどん音が広がりエネルギーも増して来ます。QRDによって覆われていた部分が減り壁の反射による間接音が増えたからです。
QRDは良くも悪くも劇薬です。胃腸薬の宣伝ではありませんが、用法容量の使いこなしがとても重要です。そんな訳ですから、私が処置する度に瞬時に良し悪しの判断がJ.Iさんにもつくのです。気流の動きとその法則性を掴んでいるから出来る事、全ては音を計る物差し(カイザーゲージ)の周期性に則しています。
B証明の為に、わざと音の悪い位置に動かします
次に使いこなしの違いによるQRDの功罪を知って頂く為に、左壁の1枚をわざと音の悪くなる位置に3センチほど動かして聴いて頂きました。その結果どんな事が起こったでしょう・・・。
『うわッ! 音が崩れました!』
「では、QRDの効果が得られる位置に戻しますよ!」
『たった、3センチでどうしてこうなるんですか!?』
「音は波なので、良くなったり悪くなったりを繰り返すんです」
「これが、カイザーサウンドの辻褄合わせセッティングです」
C最後は背面の3枚の使いこなし
背面には1.8メーターの吸音用Abffusor(アブフューザー)が3枚おりますが、左壁から先ほど外した反射拡散用のDiffusor(ディフューザー)を真ん中の1枚と交換して、吸音・拡散・吸音と交互に並べます。その際お互いの位置取りも指定しました。
尚且つ後ろに10ミリ程隙間を持たせると同時に、3枚のQRDにも15ミリほどの間隔をとりました。これら全ては気流の流れを見切り塩梅を計った結果です。音の答えは全て物との関係の中にあります。真剣勝負で物と向き合えば自ずと答えは導き出せます。
D気流対策のQRDだけでも、これだけノウハウが要ります
大小合わせて全部で12本ありました。金額にして200万ほどです。4枚減りましたから80万円分ほど節約出来た事になります。オーディオの難しさを物語る一例です。J.Iさんは(電線病)に陥らなかっただけ未だ怪我は少なく運が良い方です。
早い段階でカイザークリニックを受けると、相性とか好みとかの曖昧で答えの無い呪縛から解けると同時に、どれだけお金をどぶに捨てなくて済むか、良くお考え頂きたいと思います。
この段階で一旦お昼に入りました。サンドイッチをご馳走になりながら、奥さんも交えて軽くオーディオ診断。奥さんはバイオリンをたしなむそうで、J.Iさんの部屋の音は以前から『良くない!』と駄目出しされていたのが判明しました。
「現状の音では、8割引で売って貰ったとしても元が取れていません」
(私独特の優しさの裏返しの表現です)
「と言う事は、今日この先どんどん音が良くなるという事です」
『そんなに伸びしろがあるのは楽しみです』
「お任せください」
スピーカーの位置決め
何もかも私流儀の押し売りになってはいけないので、元々あったセッティングを大幅に変える事はしないで取り組むつもりです。従って、大きく内に振ったセッティングも踏襲しながら調整しました。
後ろに10センチほど下げ、両スピーカーの間隔を十数センチほど狭めただけです。この部屋にとって二番目に良い場所で決めました。一番良い場所に置けば現時点では問題が露呈するのが目に見えているからです。
これらのクリニックにて信頼関係が構築出来たので、次回はオーディオフロア工事をする事になりました。その時まで一番のポジションはお預けです。
これにて、腕による下ごしらえが完了です。
後半戦は脇役陣(ローゼンクランツ製品)の助けを借りて、スピーカーと機器が持っている本来の能力・実力を引き出す戦法です。
ローゼンクランツ製品の実力が問われます。
イタリアのスピーカーとスイスのアンプ。
芸術性 VS 精工技術
両者全くの正反対
どう有機的な働きに持って行くか!
これが、今日の最大のテーマです!
スピーカーとパワーアンプ間の問題点
スピーカーのインピーダンスが如何に低くなろうとも、もろともしない電流供給力によって押し切る。絶対的パワー崇拝が今のオーディオ界の主流的考えです。アンプとスピーカーは餅つきの杵と臼に例える事が出来ます。その間を取り持つのが餅をこねる人です。
その役割はアンプの電源ケーブルとスピーカーケーブルが担うのです。こねる人の合いの手と掛け声ひとつで、無駄な力が抜けてリズムカルに杵が搗けるようになるのです。この捌きの技を如何に得るかをカイザーサウンドでは二十年近く研究し続けております。
”スピーカー・アタッチメント” と ”パワーアンプ・アタッチメント”
これらアタッチメントは、アンプの電源部とスピーカーの発電回路の間で起こるインピーダンス変動を如何に安定させるかを狙って開発したものです。線の撚り方によって電流の流れ方や磁界の出来方が変わります。動かす側が動かされる側にもなり、動かされる側が動かす側にもなるのです。
そういう点から考えると、巨大アンプのように片方が強過ぎるのは良くないという結論になります。力でねじ伏せるのではなく、どんな動きにも対応出来る敏捷性であり融通性、対応力の方が大事なのです。サッカーで言うなら攻めも守りも出来るミッドフィルダーでありボランチであるべきなのです。
一般家庭で楽しむオーディオレベルでは大出力アンプは何の意味もありません。押す力ばかり強くてはスピーカーは戻るに戻れず却って迷惑なのです。インピーダンス変動の少ない平滑状態さえ実現出来れば、小出力アンプでおつりが返って来るのです。
現代オーディオを難しくしているのは以下の点です。
・低能率スピーカー
・低インピーダンススピーカー
・位相ずれを起こし易い大出力アンプ
・電源環境の劣化
そのアタッチメントの効果を一つずつ体験頂きました。埋もれて聞えなかった音が聞えて来るにようになり、リズムも軽快で、ハーモニーも美しくなります。バイオリンの音の走りが目に見えるように生き生きとしています。
そのパワーアンプアタッチメントは「四番の一振り」というニックネームを付けました。それほど決定力があります。方やスピカーアタッチメントは、絶対的ストッパーとして名を馳せた「大魔神」と言ったところでしょうか。
電源対策@
三種の神器のひとつである、電源対策@を壁の空きコンセントに差し込みます。インバーター家電機器の周波数変調による足並みの乱れが音楽の微妙なニュアンスを壊します。「音が濁っていて、何故かしっくり来ない・・・」これが現代の交流電源です。
外的ノイズの影響を受け難い、バッテリー駆動のポータブルオーディオのイヤホン・ヘッドホンは、インピーダンスも20オーム以上と高くリアリティーに富んだ音楽再現にとても有利です。
プラス100Vとマイナス100Vを忙しく往来する交流電源の0Vのクロスポイントにタイミングを収斂させるように、あらゆる周波数に変調されたテンポのずれを微弱電流の注入によって同期を促すのが電源対策@の役割です。
原理はUSB充電器をその元に使い、ケーブルの方向性と配列パターンと撚りピッチにて磁界をコントロールしながら変化球を自在に操るが如くとなるのです。他の電源ノイズ対策機器と違って、ローゼンクランツの電源対策はケーブルのみでパッシブ的に行いますから副作用はほぼ皆無です。
電源対策は以下の3グレード
電源対策@ 130,000円
電源対策B 390,000円
電源対策D 780,000円
音質改善に於いて費用対効果の高い三種の神器の力はさすがで、打つ手打つ手が見事に決まりました。これはどこのどんなシステムに於いても期待を裏切られた事がありません。カイザーサウンドのクリニックの王道となりつつあります。
スピーカー=Ktemaの持てる本来の魅力の片鱗が覗き始めました。もつれてた糸が解け始め、可能性が開けた瞬間です。
最後のおまけ
20年以上前の何の変哲もないスピーカーケーブルを使っているそうです。その理由は、今の鳴り方の中にどんな高価なケーブルを導入したとしても良くなる気がしないから・・・、ケーブルの買い物には躊躇していたと打ち明けてくれました。そういった点ではJ.Iさんは勘の良い方です。
ケーブル類も車に一杯積んで来てはいましたが、いきなり何でもかんでも披露すれば良いというものではありません。ご本人が興味を示された時であり私自身もこのタイミングならと思える時に体験頂こうと考えました。
かくなれば、腕でもう少しバランスを取ると共にパフォーマンスを上げておきたいと考えた時に、何をするのが一番効果的かを先ほど来ずっと考えていました。良いアイディが浮かびました。今繋げてあるスピーカーケーブルを塩梅の良い長さに切って調整する方法です。
これもあらゆるところで実行済みにつき何の心配もありません。写真に有るように低・中・高のバランスの良いところに狙いを定めて、20センチ〜30センチほどカットしました。