マッチング ・・・ 相対の世界の中の相性
様々なケーブルをテストする機会を与えていただき、それらすべては周りの機器や環境に大きく影響を受け、絶対的な良い悪いという評価を下すことはできない相対的なものであることを強く感じます。
けれどその中にも各製品の持つ音の個性というものはあり、また相性(マッチング)も歴然と存在します。音の好みは人様々で絶対ということは言えませんが、明らかにマッチングの悪い音は、たぶん100人中99人までが好ましいと感じないでしょう。
そしてそのマッチングもただ偶然に存在するのではなく、理論を突き詰めて開発されたローゼンクランツの製品の中に於いては、マッチングの善し悪しも理論として明確に解き明かすことができるのです。
製品に対して正しい評価をするためには、まずオーディオとしての最初の状態が良くなければならないと貝崎さんは言われます。具体的にはスピーカーのセッティングが良くなければ、後々音の迷路に迷い込んでしまう可能性があるとのことです。
幸い我家のステレオは貝崎さんにセッティングしていただき、その後各種ケーブル類の音をそのステレオで聴くことができたので、それぞれの音の個性やマッチングをしっかりと感じ取ることができました。
けれど我流でセッティングをし、雑誌の評価のみを参考にして製品を買い揃えている人の中には、自分の好みとはまったく違う音になってしまっている方が少なからずおられるのではないかと思います。
一昔前のオーディオ界では、セッティングはさほど重要視されず、アンプ、CDプレーヤー、スピーカーといった主要機器に少しでも高価で評価の高いものを揃えれば、それでいい音が必ず鳴ると考えられていました。
そして今はその反省を踏まえ、大切なのはセッティングであり、使いこなし方であり、各種アクセサリーを含めたそれぞれの製品の持つ個性を活かし、いかにマッチングのいい状態にするかという対極の考え方が主流となってきています。
絶対から相対へ、それぞれの製品が持つ力量とともに、その力量を活かすマッチングが大切なのです。
SL-PS840(CDプレーヤー) ・・・ すべてがグレードアップ
2月に伊万里を訪ねた際、同行した鹿児島のT.TさんからPanasonicのCDプレーヤーをいただきました。私が2,980円の多用途プレーヤーを使っていることをオーディオレポートを読んでご存じだったようで、家で使わないものを持ってきてくださったのです。
おもちゃのようなものからキチンとしたCDプレーヤーに取り換えて、音のすべての要素が変わりました。音は緻密で滑らかになり、音楽としての風格が出てきました。
特に変わったのは低音域で、これまでどうしてもアップライトだった音に低音の力が加わり、全体のバランスがとてもよくなりました。やはり低音をよくするためにはお金や物量が必要です。
それと操作性がよくなったことも助かります。これまでは電源を入れて安定状態にならなければボタン操作ができず、また連続した操作には対応していなかったので、スムーズな操作感はとても有り難いものです。
CDプレーヤーを換えたことでケーブルによる音の違いもより明瞭に表れるようになり、音を聴いていて楽しく、テストをする上でも大助かりです。T.Tさんのご厚情に感謝いたします。
PIN-RGB/0.5(0.9kaiser) ・・・ 驚くべき音楽表現力
スピーカーケーブルと揃いで使っているピンケーブルPin-Reference1を38%の価格(19,950円)のPin-RGB/0.5に換えました。Pin-Reference1のシース(外皮)は美しい薄紫の樹脂系素材、Pin-RGB/0.5はRGB(赤・緑・黒)三色で編み込まれた繊維素材で、どちらかというとPin-RGB/0.5の方が高級感があります。
音が出た瞬間、音空間が狭まり、少しこもったような音に感じました。価格差が相当あるのですからこれは当然の結果でしょう。オーディオ的にはPin-Reference1の方が性能が上のようです。
けれどしばらく音を聴き続けていると、ひとつひとつの音の風合いが実に滑らかであることを感じます。しなやかな天然素材の布地に触れた時のような、そんな心地よさがこの音にはあります。
さらには音に深い情感がこもっていることも分かりました。演奏者の内面の思いがこちらに伝わってくるようで、何枚もディスクを換えて聴いてみたのですが、どんな音楽を聴いても、今眼前にいる演奏者と精神的に深い繋がりをもって対峙しているかのような感覚が湧き、いつまでも聴き続けたくなります。
華麗な女性ボーカルも、口先ではなく心からメッセージを伝えているようで、スピーカーから出る音が体の中に浸透し、胸の奥に自然と熱いものがこみ上げてきます。
これは音の実在感ではなく、音楽的実在感が極めて優れています。よくある表現で言うならば、 "暖かみのある音" ということですが、さらに正確に言うならば、これはまさに "暖かみのある音楽" です。
再びPin-Reference1に換えて音を聴くと、スカッと抜けるようなオーディオ的快感があり、これはこれで心地いいものですが、音の響きはきれいでも音楽表現は平板であり、音楽としての感動がほとんど伝わってきません。
試聴レポートを頼まれ、廉価な製品を絶賛するのは気が引けるのですが、音楽的表現力に於いてPin-RGB/0.5は圧倒的に優れています。
Pin-Reference1とPin-RGB/0.5、どちらを評価するかは個人の好みだと思います。けれどもし本当に心から音楽を愛するのであれば、必然的にPin-RGB/0.5を選ばざる得ないのではないでしょうか。もちろん他の機器との相性はあるとは思いますが・・・。
このPin-RGB/0.5はシリーズ最廉価モデルですが、この上級製品はどんな音がするのでしょう。この音にオーディオ的表現力が加わり、さらに音楽的にも優れた音を奏でるのでしょうか。これまで各種製品を試聴させていただいて、初めてその上級製品を聴いてみたいという願望を持ちました。この音楽的表現力は麻薬的魅力です。
※ この評価には続きがあります。必ず次のレポート6もお読みください。
Swing(2.7kaiser) ・・・ 元気いっぱい、シンプルで躍動する音
ローゼンクランツとその兄弟ブランドであるMusic Spirit、すべてのスピーカーケーブルの中で最も安価なSwingを聴きました。それまで取り付けていたSP-Reference1とは同じMusic Spiritの仲間ではあっても価格は20分の1以下です。(14,000円/mと650円/m)
これによる音の変化は、先のPin-Reference1からPin-RGB/0.5に取り替えた時とまったく同じで、さらにその傾向が強まりました。音はより内側にこもるようになり、周波数レンジも制限されてしまいますが、その分音楽的な情感は増してきます。
これはオーディオ的には満足できないものですが、音としてのバランスはよく、音楽を聴く上で大きな魅力を感じさせます。そしてこの音を聴くとふたつのことが頭に思い浮かびます。
ひとつは、往年のオーディオマニアならよくご存じであろうデンオン(現デノン)DL-103です。普及価格帯にあったカートリッジDL-103は、その安定した音質と高い信頼性で多くの放送局で採用されていました。上級機と比べてオーディオ的性能は劣っているものの、低音を中心とした芯の太い土台のしっかりとした音質は、音色といった面で捨てがたい魅力を持っています。
SwingとPin-RGB/0.5の組み合わせは、そのDL-103の音を彷彿させます。少ない情報量と引き替えに、最も大切な情報をより際立たせて表現してくれるように感じます。またSwingのシースがなく二本の線が裸のままの状態であることも、シンプルで伸びやかな表現をする上で役立っているのでしょう。
もうひとつは、これで音楽を聴くと、祭りの夜、ほのかに灯る夜店の灯りが思い浮かぶのです。Reference1を中心としたシステムは抜けるような明るさを持ち、まるで立派なコンサートホールのステージ全体に光が燦々と当たっているようなイメージですが、SwingとPin-RGB/0.5の組み合わせは、舞台全体の照明を落し、マイクを持っている歌手にだけピンスポットが当たっているような雰囲気を持っています。そしてそれがとても情緒的なので、お祭りの時に灯る懐かしい夜店の灯りが思い浮かぶのです。
夜、部屋の明かりを消し、オレンジ色に灯る真空管アンプを眺めながら昭和のムード歌謡を聴いていると、その当時にタイムスリップした気分になります。特に小編成の楽曲にこの組み合わせはマッチします。
Pin-Reference1とSP-Reference1、Pin-RGB/0.5とSwing、圧倒的な価格差はあっても、ただひとつの物差しの上での優劣ではなく、まったく別の世界での価値観を構築しているということは実に楽しく、痛快であり、また救われることです。
Pin-RGB/0.5とSwingの組み合わせには本当に魅了されました。一通りいろんなディスクで音のチェックをした後も、しばらくこの組み合わせを換えることはできませんでした。情感あふれる音楽は心を癒してくれます。
Blood Stream1(1.8kaiser) ・・・ たぎる血潮のエネルギー
オレンジ色のシースを持つ電源ケーブルBlood Stream1は、血流というネーミングと太い外形からイメージする通りのエネルギッシュなサウンドで、透明感がありストレートで、これまで取り付けていたAC-RG1よりも突き抜けたオーディオ的快感をもたらしてくれます。
ただPin-RGB/0.5とSwingとの組み合わせでは互いの長所がスポイルされ、せっかくの魅力ある情緒的雰囲気が薄れてしまいます。Blood Stream1は、Pin-Reference1とSP-Reference1との組み合わせでバランスが取れ、よりレンジの広い透明感ある音を響かせます。
組み合わせの妙 ・・・ 線材、シースの種類によるバランス
こうして各組み合わせで音を聴いてみて、
1.Pin-Reference1、SP-Reference1、Blood Stream1
2.Pin-RGB/0.5、Swing、AC-RG1
これらの組み合わせがバランスが取れ、優れているということが分かりました。そしてこの音のバランスのいい組み合わせには、シース(外皮)にも線材にも共通点があります。
1の三つのケーブルは、すべてシースはツルツルした樹脂系の素材です。そしてPin-Reference1とSP-Reference1は同じ線材が使われています。
対して2の三つのケーブルは、Swingは二本の線が裸の状態ですが、Pin-RGB/0.5とAC-RG1は、シースがPin-RGB/0.5がRGB(赤・緑・黒)の三色、AC-RG1はRG(赤・緑)の二色の繊維素材で編み込まれています。
さらにウェブには載っていない情報を貝崎さんから教えていただきました。Pin-RGB/0.5は0.5という中途半端な型番ですが、これはリーマンショックで高額な製品が売れなくなった時、なんとか2万円以下のピンケーブルを発売しようと考え、他のローゼンクランツのピンケーブルとは流れを変え、Music SpiritのSwingやSteadyと同じ銅(OFC、無酸素銅)にスズメッキした線材を使うことによりコストを下げたのだそうです。
だからSwingと相性がいいのですね。貝崎さんからこのことを聞き、Swing、Pin-RGB/0.5の組み合わせに聴き惚れた原因がよく分かりました。
足並みを揃える ・・・ バランスの根本
すべてのものの調和を取る、足並みを揃える、ここにバランスが取れたいい音を引き出す最大のポイントがあるのだと思います。
けれどこれは言うは易く行うは難しで、今回はケーブルの種類によるバランスを強く感じましたが、そのケーブルの長さのバランスも問題となってくるでしょう。ケーブルだけではなく、当然インシュレーターもバランスを取ることが必要です。またスピーカーのセッティングも、部屋とスピーカーとの位置関係のバランスと考えることができます。これがさらにいろんなメーカーの製品が入り乱れるようになったなら、より一層混迷を深めることは間違いありません。
バランスを取るためには、自分の中に確かな基準を持つことが必要です。けれどやはりそれが難しいのですね。オーディオも人生も、深みがあって難しいから面白いのでしょう。
N.S(ヨガナンダ) http://yogananda.cc