トップ情報寺島靖国スペシャル>その6 「トランペットは打楽器」

その6 「トランペットは打楽器」


 3年前の寺島邸訪問の時を思い出しながら、その時一番印象に残っていたディスクを取り出し今聴いています。

Wynton Marsalis
Standard Time Vol.3
The Resolution Of Romance

Wynton Marsalis-Trumpet&Vocal
Ellis Marsalis-Piano
Reginald Veal-Bass
Herlin Riley-Drums

 1曲目は軽快なナンバー、「InThe Court Of King Oliver」 ウィントン自身の作曲ですから、プレイに非の打ち所がありません。E.J.ジョーダンの9センチミッドユニットから出て来る音とは信じられない、まったく生そのもののサウンドです。ホーン型スピーカーから感じる凄みのある音とは違いますが、トランペットの音なんかすごく自然です。それもそのはず丸いコーンから発する音はペットの開口部の形状とそっくりですから。

 ある時、日野照正がトランペットはパーカッション、打楽器と同じなんです。と言っていたのが印象に残っています。息を「吹き込む」と言うより、「叩き込む」と言うイメージの方が強いそうです。そんな感じがウィントンの演奏からもハッキリと分ります。

 シンバルの音に至っては、初めて聞こえてくる「シュワァ〜ン!」という、走るようなスナップの効いた音は、これまたぞくぞくしてきます。リズムを取るハイハットの音等はややもすると他の音に埋もれがちですが、シッカリと芯のある音として決して派手ではないが己の存在を訴えてきます。こうした下支えを受け持つリズム陣がシッカリと鳴ってくれると音楽を味わい深いものにしてくれます。

 ジャズはある一定のルールの下に、各人が自由に演じるというところにその魅力があるわけですから、その自己主張というものがハッキリと聞き取れるモノでなければ面白くありません。その為にはいつも言っていますが、人間の耳の一番感覚の鋭い音の帯域において生き生きと鳴ってくれなければなりません。鋭く立ち上がり、思い切り吹き上がるエネルギーです。

 寺島さんが盛んに聴いていたのは7曲目の「A Sleepin' Bee」です。ブラシによるドラミングから始まる曲です。この録音は「バスドラの音」と「ベースの音」の区別が大変つきにくいものです。この曲を何とかうまく鳴らそうとしていたのですから、彼にとって至難の業ではなかったわけです。今もって聴いても、私の音離れのいいシステムでそう感じるのですから。


backnext