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その34 「メグにおける試聴会は店内に入れないほどの大盛況」


 スピーカーの置き場所が店内の奥に変わったという事は伺っていたのですが、何とエレクトロボイス・ジョージアンのスピーカーの上にあの40キロほどあるJDFのパワーアンプが乗っかっているのです。

  「Oh! No! アンビリーバブル・・・」。

 ナイアガラも聞いて頂こうと持ってきていましたが、何せACケーブルは延長コードでつないでいたので規格が違い他のACケーブルとは互換性無しです。スピーカーはというとセメントブロックらしき物に布でカバーをした物の上に乗せてありますから動かしようがありません。

 ”カイザーゲージ”を使って何とか部屋とスピーカーとの空間の時間軸の関係を実演しようと思ったのですが、これまた断念せざるを得ません。山ほどあるネタの中でも、今日はインシュレーターによる音の違いを聞いて頂くぐらいの事しか出来ません。

 店内は30人入ったら満席なのに

 身動きが取れないほどの大盛況です。

 スタッフの方に聞くと、

 始って以来の記録でしょうという。

 本来なら俄然ヒートアップするはずなのに、

 スピーカーの後ろのワイヤリング状態を見ただけで、

 私の気分はのっけからクライオ状態です。

 「6時から10時までの4時間持つのかな〜・・・?」。


 そこへ定刻丁度に、寺島御大がやって来ました。

 遠慮しないでやってくれとの事です。

 ディスクの選定を寺島さんにお任せし、

 私は、半ばヤケクソ気味に、

 「もうどうでもいいや!」。

 「筋書き無しでやってやれ!」。

 と心の中でつぶやきながら・・・。

 「とりあえず、現状の音をお聞き頂きましょう・・・」。

 この言葉からスタートです。

 アンプで押さえつけられ鬱屈した鳴り方の音に、

 私の体は悲鳴を上げているのが分かります。

 幸いにほんの20秒ほどで止めてくれたので助かりました。

 私はたまらず、自分の都合のいいように、

 「それでは今度は、アンプをスピーカーから下ろして、

 このボードを敷いた状態で聞いて頂くことに致しましょう」。

 スピーカーが『楽になった・・・!』と喜んでいるのが私には分かります。


 「いかがですか?・・・」。

 「スピーカーが楽々と気持ちよく鳴るようになったでしょう?」。

 大半の人達の顔は本当に気持ちのいい鳴り方になった、

 と顔がほころんでいるのが雰囲気で分かるのです。

 すると、そこへ待ったと言わんばかりに、
応じ切れないほどの注文と伝票の山
 メグの常連客と思われる50前の男がいきなり喧嘩を売ってくるように、

 『アンプを載せてあった時の方が良かった』と言い放った。

 その理由は箱が鳴きすぎるというのです。

 また仲間内の方が助け舟を出すようにこう付け加えた。

 鳴くのはユニットだけで、箱は振動しない為にも重石を載せたほうが良いというのです。

 そうしてもユニットの動きを妨げるものではないとも言う。

 私の考え方とはまったく相反するものです。

 その両者の音の違いが判別出来ないようでは

 何を言っても始まりません。

 「アンプは重石ではない!・・・」。

 と心の中でそうつぶやく私の口からは

 次のような言葉が出ていました。
 
 「自由に鳴りたいと思っているスピーカーに、

 動くなと命令しているようなものです!」。

 そこへ待ってましたと言わんばかりに、

 第2波の攻撃が寺島氏自身から飛んで来た。

 『俺は人のやらない事をやるんだ!』。

 「それは、何をしようと自由ですからとがめる事はしません」。

 うぅぅ・・・またもや二人のバトル勃発か?と思わせる気まずい空気になってきました。

 『そう!そう!、結局は好みの問題なんだ!』と言い切る寺島さん。

 しかし、私にとっては余りにも早く低い点数の段階で、

 好みの問題とは言って欲しくないのです。

 どうやら被った振動とスイングする音楽振動の区別がつかないようです。

 次にアンプを床のカーペットに直置きで

 聞いていただきましたが、

 音がボケて楽器の音がほとんどイメージ

 出来なくなってしまいました。

 この音には大半の人が受け付けなかったみたいです。

 この時点で初めて敷物による

 音の違いの大きさに関心が寄せられたみたいでした。

 私としては床にハードメイプルボードを置き、その上にアンプを載せた状態でインシュレーターの効果を体験して頂こうとしたのですが、寺島さんの要望でスピーカーの上にアンプを載せた状態で実験して欲しいという事になったのです。

 もう先ほどから私のスイッチは切り替わっていますので、私のやりたい事ではなく会場の雰囲気であり希望する事に照準を当てます。もう一度アンプをスピーカーの上に載せインシュレーターのBIGとBIG JAZZの聞き比べです。

 何よりも皆さんが驚かれたのはインシュレーターの前後の向きによる音の違いでした。Aマークを正面から見えるようにしたら音楽のエネルギーが聞き手に伝わりにくくなります。ここらあたりの段階で、先ほどまで反抗的な態度をとっていた方達の態度が変わって来始めました。


 何でこうなっているのかは別にして、

 確かにこの効果は明らかに認めざるを得ないといった風です。

 普段自宅ではAマークをそろえると綺麗になりすぎるからと言って、

 わざとずらしている寺島さんまでもセオリー通りが今日は良いと言う。

 これまた私には理解不能です。

 『BIGとBIG JAZZのどちらが好きか、手を挙げてもらったら?』と寺島さんが提案。

 「皆さんそれではお願い致します」。

 結果は1:2の割合でBIG JAZZが人気がありました。

 私がニンマリしていると、

 『カイザーさん!、勝ち誇ったような顔をしているけど、

 どっちが良いかじゃなくやっぱり好みの問題なんだよ』。

 『家で聞いたのと同じようにBIG JAZZになると音が少し腰高になるから、

 やっぱり僕はBIGが好きだなぁ!』。


 またその後寺島さんがとんでもない事を言い出したのです。

 『BABYとBIGを聞き比べてみようじゃないか?』。

 「分かりました!、分かりました!、やりましょう!」。

 普段ならゴム足の下にインシュレーターを敷くなんて絶対にしないですが、

 今日の私はまな板の鯉状態ですから言いなりです。

 もう低音と高音がバラバラになって、

 私の聴覚センサーのヒューズが切れて呆然としているところへ。

 
 『村井さん如何ですか?』と寺島さんが同じライターの村井裕弥さんに意見を求めた。

 『BABYになるとさすがに、解像度、情報量、立ち上がり等、

 全てがBIGに比べるとルーズになった感じがします』。

 その後、ディスクSHOWAの松崎さんが自ら手を挙げてBABY(E)の鳴り方が好きだと言い出した。

 この音の違いの中でBABY支持派の方が3人ほどいたのには信じ難い出来事でした。

 そして、寺島さんまでもがBABY(E)をそのまま使いたいという事になったのです。

 今日の件でやっぱり、寺島さんと私は音の好みが合わないと確信がもてました。


 ここで一息コーヒーブレイクです。

 その間色々な方と雑談を交えましたが、中でも特に印象に残ったのは高校生くらいの息子さんを連れて来られた方のエピソードでした。先日BABY(E)とCOUSINを買ってその音に息子さんが感激して、是非ローゼンクランツのイベントに連れて行って欲しいというのでやって来ましたという話です。その彼の目は吸い込まれるように澄んで輝いていました。

 また、メグでも演奏する事があるというミュージシャンの方が、インシュレーターによって音楽の表現が素晴らしく向上したのには驚いたといって握手を求められた事も私には大きなインパクトでした。


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