その38 「”生より生らしい音”」
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音力(おんりょく)
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「分りました、解りましたよ!、決定的な違いが!」。
「結局はドラムなんですよ!」。
「このドラムの衝撃音のリアルさは他のどんなスピーカーからも出ないでしょう」。
「これぞ、寺島さんの言いたかった音力(おとぢから)ではないのですか?」。
『そう、音力(おんりょく)なんだよ!!』。
『大きいだけでは駄目なんだ!、音には力が無ければ・・・』。
このアバンギャルドの音を何と言えばいいでしょう・・・。
古くて一番新しい音とでも言いましょうか・・・、
すなわち良いとこ取りの音なんです。
”生より生らしい音”が寺島邸のアバンギャルド・トリオの音です。
何もしていないこの時点で、カイザー指標値がいきなり400と出ました。
これは凄い事です。
このニュアンスを私の場合は「生命感のある音」と呼んでいます。でも、私の好む音と全く瓜二つではありません。私の欲しいのは、この音力と同時に豊かな感情表現力が伴う必要があるんです。先ずは、今鳴っているこの音があっての事ですから、その点においてはブッチギリの勝利の初戦でしょう。それから先の音を作るのは、ローゼンクランツのアイテムさえあればいくらでも可能です。
アンプで増幅した音と違って、小さな振動板の弾けるようなピストニックモーションをそのままホーンで増幅、いや、爆発させたその音にはスフェリカル(球面波)ホーンならでと思わされるものです。
今まで使っておられたレイオーディオとはまるっきり違います。
その決定的な違いは音の抜けです。
同じホーン型のスピーカーであっても、
箱の持つ固有の付帯音がアバンギャルドには無いんです。
このホーンの能力は凄いですね。
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寺島さんとの間に会話が成立し始めた
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とにかく不思議なのは、私と寺島さんとの間に会話が成立し始めたことです。
鳴らし方に問題があったかどうかはさておいて、寺島さんの雇っていた同時通訳者(レイオーディオを中心とした以前のシステム)が私に正確に伝えてくれなかった事が全ての原因だと分りました。それにしてもアバンギャルドという寺島さんの新しい通訳は優秀です。
「この音でしたら、どんな方とも会話が成立するでしょう?」。
『そうだね、私の音に不快感を表明していた人達もこぞって変わったね!』。
『カイザーさんがアバンギャルドの音を聴いた時に、どんな感想をもらすか?が今日の最大の楽しみ』と仰っていた寺島さんですが、あまりにも私のべたほめに嬉しいのを越え、かえって拍子抜けしてしまったようです。
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BOSSの試聴
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すっかり余裕の出た寺島さんは、
『どれなのよ、今日聴かせてくれる新製品というのは?』と切り出してきました。
「はい、これです、ボスといいまして、
今までのジャズバージョンのインシュレーターとの違いはディンプルパターンを変えてあります」。
「オスは同じなんですが、メスが5から6になりました」。
パワーアンプの下にある6穴インシュレーターに入れ替えて聴いて貰います。
『カイザーさんの音だこれは!・・・統率の取れた』。
なるほど6穴の音は暴れるけど、ワイルド感溢れる魅力です。
これが寺島さんの心をずっと掴んで離さないのでしょう。
「私が寺島スペシャル」と名づけなければならなかったのは、
BIG
JAZZにではなく、むしろ6穴インシュレーターだったのです。
首の皮一枚で私と寺島さんを結んでいた理由がハッキリした瞬間でもありました。
私のデビュー作は、荒削りですが怖い物知らず的なところが今聴くとよく分ります。
10年近くも前の製品であっても、今となっては性能面では格段の違いこそあれ、
圧倒的な感情表現力を誇るボスに決して迫力では負けていないのです。
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スピーカーアタッチメントの試聴には強いアレルギー反応
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次に私が出したのがスピーカーアタッチメントです。
いくら説明しても、寺島さんの頭から「余分な物を継ぎ足して音が良くなるはずがない」というイメージを払拭出来ません。それでもやっとの思いで承諾させた後に、一気に情報量アップを狙ってホーンセクションの方に繋いだのです。2ミリほどの単線ケーブルですから、アタック感はあるのですが如何せん響きや雰囲気といったものは出ておりません。
それがアタッチメントを繋いで出てきた音はというと、
良くなるどころか大崩れになってしまいました。
私の完全な読み間違いで、ウーハーとのタイミングがずれて音楽どころではなくなったのです。
これには、『ほら!、言わん事じゃないか・・・』
とすっかり冷めきった顔をした寺島さんが相撲取りのように大きく見えたのです。
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ウーハー部分にはWBTのターミナルに入らないほどの太い撚り線のケーブルが使われております。 「そうだ、これとの関係で上手く行かなかったのだ!」。
「申し訳ありませんが、もう一回ウーハーの方に繋ぎ直した状態で聴いてみて貰えませんか?」。
『いくらやったって、良い結果になるはずなどないでしょう・・・』と言わんばかりのしらけムードです。
繋いでいる端から音のイメージが出来上がってくるのが今回は分ります。
「ウーハーとミッドローの繋がりがスムーズになり、音は間違いなく良くなるはずだ!」。
それと同時にモノラルパワーアンプの向きが左は外に向き、右は前向きというのをキッチリ左右のスピーカーのエネルギーが揃うように、また不利に働かないようにベストのポジションを探り出した上で整然とレイアウトしました。
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変更前 |
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変更後 |
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どうでしょう!、まったく別次元のスピーカーに化けてしまったのです。
これほど化けた例はちょっと見当たらないほどです。 とにかくベースの音がすごく良くなりました。
圧倒的な情報量です。
ピアノも良いです。
寺島さんの顔色が変わったのが分りました。
次から次にディスクを換えては聴き始めたのです。
こういう時は気に入っている証拠です。
『このディスクは特別だから、中庸な録音バランスの物に変えましょう、
そうしないと音のチューニングをとるのにやりづらいでしょう?』。
特にこの2枚のディスクの音は凄かったです。
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Green Grove/John Stetch 2曲目のChips For Crunch |
Out Of This Mood/LYAMBIKO 9曲目のParakeet Prowl |
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AC-1S(8NLimited)の試聴
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この寺島さんの行動に気をよくした私は、次にAC-1S(8NLimited)の電源ケーブルをパワーアンプに入れて聴いて頂こうとするのですが、ここでまたもや、苦言を呈されます。
『何だよ、黒いジャケットで、それじゃどこにでもある安物と同じじゃない』。
『このオルトフォンの赤いACケーブルを見てごらん!、
美しいでしょう?、おしゃれでしょう?』。
『色も購入意欲を大きく刺激するんですよ、
オーディオはとにかく楽しまなくっちゃ』。
『だから目立つように、この赤いケーブルを空中を這わすようにしてあるんだよ』。
『どう?、赤のホーンの色とマッチするでしょう?』。
『気をつけて見てください、ツイーターのホーンだけは緑にしてツートンになってるでしょ、
これも世界に一つしかない私だけのオリジナルなんですよ、
やる事が凄いでしょう?、カイザーさんももっと色に気配りしなくっちゃ』。
「分からないでもありませんが、私の場合は色と音との関係を調べているうちに、
黒が一番音が良いからそうしてるだけで、決して無頓着なわけではないんです」。
その瞬間、ムッとした顔つきに変わりました。
まだ音も聴いて貰っていない段階で色の談義に熱を入れても仕方ありません。
とにかくどんな音になるのか体感して頂くことの方が大切です。
ケーブルにおいては寺島さんと縁が薄いですから気楽に聴いてみてください。
とにかく評判は最高なんです。
『そうだね、じゃ聴かせてもらおうか?』。
今繋いでいるオルトフォンの赤いケーブルに比べるとちょっと線が細くなったようですが、何より音楽のグルーブ感が違います。打楽器系を好む寺島さんはあまり頓着しないところでしょうが、それでも『良いネェ、良くなったネェ!』の連発です。
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インシュレーターの調整
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『でも、少し腰高な感じがしないでもないネェ・・・』。
分りました、ちょっと調整してみましょう、
と言いながらインシュレーターの位置をアンプのシャーシーのエンド位置まで広げます。
『ウ・・・ム!?』。
「じゃあ、これでどうでしょう?・・・」。
5ミリぐらい内に入れてみますと、音に力が出ると同時に低・中・高と非常にバランスが良くなりました。
『こうまで変わるか!、インシュレーターの位置だけで・・・?』。
「さらに良くなりますよ!」。
「エ、エイッ!、こうなったら隠し玉を出しましょう」。
まだ公開出来ませんが、試作インシュレーターに換えてみる事にしました。
これに変えると私の顔を覗くように、
『空気がいっぺんに変わったねェ!・・・・・』。
寺島御大の顔色が変わったのは、良くも悪くもこれで今日三度目です。
この驚きは相当のものとみました。
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全機種にACケーブルを繋いで聴いてみる
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こうなるとついつい調子に乗ってしまうのが私の常です。
「ついでの事ですからオーラルの青蛇が差されてある、
トランスポートとコンバーターにも入れて聴いて欲しいんですけど如何でしょう?」。
『あぁいいですよ』。
「これで今日の持ち駒は終わりです」。
運も手伝って寺島邸はスピーカーのポジションがほぼ理想のポイントに入っている状態なんです。特にホーンセクションは完璧です。ウーハーボックスを左を9ミリ、右を12ミリ後ろに下げてピンポイントに合わせ込みました。
完璧にスピーカーの姿は消え、緑のツイーターホーンから低音のエネルギーが聞こえるバランスなんです。これは低い方から次第に高い方のユニットに力が取り込めている証明なんです。ホーンシステムでこれだけ位相から空間定位と揃った音を聴くのは私とて生まれて初めてです。とにかく恐れ入りましたと脱帽する以外にありません。アバンギャルド恐るべし。
それも、私の頭の中ではまだああもしたいこうもしたいとやりたい事は山盛りのようにあっての上ですから、細心のノウハウとセッティングを施してやればどこまで成長するのかこの先が恐ろしいぐらいです。
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「カイザー指標値は」一気に700へ
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これだけ荒削りでありながら、カイザー指標値は一気に700まで上がりました。これはカイザーの試聴室以外で出た数字では最高です。現時点でこれだけの音は日本中でどこにもないですよ。紛れもなくNo.1の音を体験したと思って頂いて構いません。
この鳴り方は文句なしに私の好む方向ですが、ここで寺島さんと意見が分かれました。
『低音に重さが減った』という感想です。
『奥行きも拡がりも凄いのは分る、また、こんな音は初めて聴いた』。
『この音は忘れられない一つの音になるのは間違いないだろう』。
『しかし私の場合は、いくら音が良くてもじっとしていられなくなるんだ』。
『だから良い音だからといって、ずっとそのままでは聴いていられないだろうネェ』。
『とにかく今の状態でしばらく聴いてみたいから貸してくださいよ』。
「それがですね、あさって別の評論家さんに聴いて貰う約束をしているものですから今日のところは外して3日後にはお送りいたします」。「試作のインシュレーターだけは置いて帰ります」。時計を見ると日付は変わって1時半でした。
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