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その41 「寺島御大の右脳は85%、左脳はわずかに15%」


 DAコンバーターが言うこと聞かなくなった

 先日三重県にサウンドステーションを納品に伺った先で電源ケーブル/AC-1S(8NLimited)が3本売れてしまいました。その方は、どうせなら戸籍簿管理をした続き番号のケーブルが欲しいとなったのです。しかし、今の私にはすぐに作るほど時間に余裕がありません。とりあえずプリとパワーに試聴して頂いた2本は置いて帰る事にし、CDプレーヤー用の残りの1本は試聴の為に寺島さんにお預けしている続き番号の物をお送りする事で納得していただきました。

 急きょ寺島さん宅に取りに行かなければなりません。

 電話をしますと、相変わらずぶっきらぼうな声で、

 『はい♭、は〜い♭・・・』。

 「お預けしていた電源ケーブルを取りに上がりたいんですけど、如何でしょうか?」。

 『カイザーさんこれまた大変な時に電話をかけてきたネェ』。

 「どうされたんですか?」。

 『いやね、DAコンバーターがいうこと聞かなくなったんだよ!』。

 『いつもは点く二つの赤いランプの一つが急に点かなくなったの・・・』。

 『ケーブルを取っ換え引っ換えしてるんだけどどうも駄目なんだ、

 これからリンのCD12から47研のピットレーサーに変えてみようと思ってたところ』。

 「そうですか、お役に立てるかどうか分りませんけどこれから伺いますよ」。

 『悪いネェ、じゃぁご足労願えますか?』。

 サービスマンに変身

 寺島邸に着いたのは20時ぐらいでしたでしょうか、車で約40分でした。デジタル機器間に繋がれているケーブルがとにかく硬くて曲がりません。そこそこの重さの機械もそのテンションによって動いてしまうのです。それを避ける為に機材の上には真鍮の重石が幾重にも重ねて置かれてあります。そんなハードな状態でコネクションされていますので当然機器側の端子達はいつも悲鳴を上げております。

 「ちょっと様子を見てみましょうか?」。

 デジタルケーブルを他の物と交換してみますが、同じ症状でトランスポートとコンバーターの同期が取れません。どうやらケーブルではないようです。次に予備としてあるワディアのコンバーターを繋いでみます。これまた変化がありません。どうやらトランスポート側に原因があるようです。

 「CD12の取扱説明書はありますか?」。

 『う〜ん、どこにあるか分らない』。

 この間もあるお客さんのお宅で、リンのプリアンプの設定が上手く行かず音が出ないで苦労していた事がありました。


 それではと47研のピットレーサーに入れ替えてみますが、こんどはピックアップ部が動こうとしません。最近調子が悪いのと読み取りまでに時間が掛かるのが理由で、ほとんど使っていない状態だそうです。

 『近くだし、これから47研の木村さんに電話してみようか?』。

 ピピポ、パピポポ・・・・・・。

 『留守みたいだネェ』。

 「この調子ですと九分九厘トランスポートが原因ですよ」。

 週休二日は困る

 硬いケーブルを繋いだり外したりしている間に、内部の基盤と端子の間にストレスが掛かり半田部分に亀裂が入っているのでは?というのが私の読みだったのですが、意外にも端子はゆるんでなくてシッカリとしています。

 その間に寺島さんはリンの古川さんに電話をしています。これまた留守のようす。『CD12の調子が良くないので、電話を下さい』とメッセージを残します。そんな状態ですから仕方なくリンを単体のプレーヤーとして使うことになりました。

 『単体ではキレイ過ぎるのと、こじんまりまとまるので僕には聴けたもんじゃないんだ!』。

 でもそんな事も言っておれないので、とにかく聴ける状態にするしかありません。

 『今日は金曜だからメーカーに連絡が取れるのには丸々二日掛かる』。

 『こういう時に困るようネェ、週休二日っていうのは・・・』。

 『オーディオマニアが二日も音楽を聴けないっていうのは耐え難い苦痛だよ』。

 やりたい事が山ほどある

 へ〜、そんなものかねぇと一人で思いながら、

 「夢中になれることがあるのはどんな事でもいいですよね」と誘い水をかけると。

 『そうなんだよ!、この年になってもトロンボーンは習いたいし、

 ジムにも通いたいし、ジャズは聴きたいし、やりたい事が一杯あって困るのよ!』。

 事実この人にとって、音楽は片時も無くてはならないのが本当のようです。

 
 寺島流インシュレーターの使いこなし

 とりあえずコンバーター無しで音を聴いてみますが、なるほど仰るとおり小さくまとまった鳴り方です。

 『どうですか?、音がいやいやしてこちらに来ないでしょう?』。

 全く仰るとおりです、でも密度の濃い凝縮した魅力のある音を持っているのも事実です。

 
 「寺島さんが気に入る音になるように、インシュレーターの調整だけで、

 これから出来るだけの事をやってみますのでジックリと聴いてみて下さい」。

 寺島流インシュレーターの使いこなしは機材の端っこにはみ出すように置くやり方です。口では『音が塊のように凝縮して鳴って欲しい』と日頃から言っていますが、この方法ですと、音が開放と暴れる方向に変化します。ここらあたりの感じをワイルドと結び付けているのでしょうか?。しかし、これでは瞬間のアタック音を楽しむ事は出来ません。それは芯から外れているからなのです。

 好む方向に音が向いていない場合には、いくらその原因の話をしようとしても、興味を持って話に聞き耳を立ててくれません。寺島さんとの過去の何度ものやり取りの中から学びましたので、その時点では説明する事はしません。大分私も利口になりました。

 
 初めて納得したインシュレーターの方向性

 「とりあえず、寺島さんの好みかどうかは別として、

 機器とインシュレーターの理想のセッティングポジションに入れた状態で一先ず聴いて貰えますか?」。

 1回目は機材の端から10oほどインシュレーターの端が中に入った状態です。

 『ギュッと真ん中に凝縮して来たネェ』。

 『カイザーさん気がついていた?、私がAのマークを揃えているのに・・・』。

 『やってみたよ!、この数日前にAのマークを揃えてみるのを』。

 『どうせ売る為の口先だけの事だろうと思っていたけど、どっこいその効果が確かにあるんだねェ!』。

 『インシュレーターの方向性なんて、何年も信じていなかった』と打ち明けられたのです。

 そういわれて、改めて見てみると、あれれれ??・・・、

 パワーアンプの下のインシュレーターのAのマークが全部聴き手方向に向いているではありませんか?。

 さっき、音がイヤイヤして聴き手に届いてこなかったのはこのせいですよ!。

 凝縮と開放のバランス

 『カイザーさんこの音どう?』。

 私が訊ねたいのに先に聞かれてしまいました。

 「どちらも駄目ですネェ」。

 『エッ、どちらも駄目ってどういうこと?』。

 「両者の間に良いバランスの音があるということです」。

 「すなわち全ては凝縮と開放のバランスなんです」。

 「それを寺島さんはケーブルで為さってこられた訳です」。

 「そういう点では微妙な音の綾を聴き逃さないはずです」。

 「それと同じ事を、今インシュレーターでやろうとしているだけです」。

 「ところで、揃えてみたとおっしゃるAのマークが反対ですよ寺島さん」。

 『何故?、どうしてわざわざ見えにくい後ろ側になるようにAのマークを付けるの?』。

 「前側にAマークをハンマーで打刻しますと、金属素材にストレスが掛かり音抜けが悪くなるからです」。

 この説明には理解の範疇を超えたようで、寺島さんの顔が拒絶反応を示しているのがすぐに分ります。子供と同じように感情が顔にそのまま出るこの人は本当に正直なんでしょう。ですからすぐにその説明は打ち切ります。

 インシュレーターによる音の調整術

 「何はともあれ、これからそこらあたりの音を少しずつ紡ぎ出していきますからよく聴いていて下さい」。

 「その間といっても、寺島好みに近いバランスに持っていきますから」といって、

 ハンダの溝が見えないぎりぎりのところまで広げて置きます。

 この音の変化には驚いた様子です。

 『音が立ったネェ!、こちらにぐっと来るようになった!』。

 「ぐっと来る感じは方向性の違いによるものです」。

 『音の出方がまるで変わった、これは好きだよ!』。

 
 「分ってますよ!、もう寺島さんの好む音は」。

 「もう少し暴れ気味が欲しいんでしょう?」。

 ハンダの溝幅が見えるところまで外に出して再度の試聴です。

 『あれ!、急に音が散漫になってしまったネェ』。

 ここまで行くと寺島さんにとっても行き過ぎなんです。

 ミクロの世界を聞き分けた寺島さん

 今のが1ミリの違いの音ですが、これからその半分に当たる0.5ミリの調整をします。

 すなわち半田の溝が半分はみ出している格好です。

 『これは凄い!、今まで聴いた事の無い音だ!』。

 『CD12単体でこんな音が出るなんて信じられない!』。

 「寺島さんの耳はインシュレーターの0.5ミリの設置場所の差を聞き分けたんですよ」。

 『いや〜、カイザーさん改めて見直したよ!』。

 『カイザーさんと私とでは大学院生と高校生ぐらいの差があるネェ』。

 五感で身についたエネルギーの伝達の瞬間

 ここで初めてメモ用紙を片手に野球のバッティングの芯に当たった時の説明をさせて頂きました。高校時代毎日毎日何百球という球をフリーバッティングのキャッチャーとして受けてきた経験から、時間軸とボールへのエネルギーの伝達というものを身体に嫌というほど叩き込んできていることを。

 自慢するわけではありませんが、当社のインシュレーターの溝の深さは、1/100ミリの違いの物を実際に20個作ってヒヤリングの末に決めているのです。10年近いお付き合いになりますが、寺島さんとやっと会話が通じるようになりました。それもこれもアバンギャルドのスピーカーが、試みた事に対して素直に正直に反応してくれるからです。それと同じようにローゼンクランツのインシュレーターの性能が良いのも、実はリファレンスであるオーデイオモニタリングシステムが理想に近いノンカラーレーションだからなのです。

 それが出来るのも、全ては目や耳といった五感を通して野球から身に付いたことなんです。ですからまだ聞かぬ音であっても理想とする音が頭にイメージ出来るのです。これが私の持つ類いまれな音に対するアドバンテージなのです。その音の代弁者がローゼンクランツの製品群であります。

 リモコンという便利さの裏返し

 丁度CD12単体で良い音が出た後にリンの古川さんから電話が入りました。『前にも同じ事がありましたけど、リモコンの設定が何かの弾みで外れたのでしょう』。『CDのボタンを押して次に0のボタンをしばらく押し続けていると同期が取れるようになりますからやってみて下さい』といわれ、その通りにやってみると、何事もなかったようにコンバーターとリンクしたではありませんか。これだから多機能リモコンは困るのです。

 
 寺島さんの思いやり

 『カイザーさんお腹減ったでしょう?、簡単に食事の用意をしたから腹ごしらえをしてからやって下さい』。

 これは残りそうだなと思いましたが、ボリュームたっぷりのハヤシライスと野菜サラダをぺロッと平らげてしまいました。何度もご馳走になっていますが、奥さんは料理がビックリするほど上手なんです。

 音における犬猿の仲といわれた両者が理解し合えた瞬間

 腹ごしらえが出来たところで、もう一度、いつものセーターのコンバーターとのコンビに組み替えです。

 それがどうでしょう?、寺島さんの好みのはずであるセーターの音がCD12のまとまりのある音を聴いた後では散漫で大作りなのがよく分ります。良いも悪いもアメリカ的ですね。『開放と凝縮のバランスとカイザーさんが言ったのがよく分るネェ』。

 もう一度気を取り直してインシュレーターの微調整を計り、寺島好みの音に仕立て上げて行きます。レイオーディオの時には相容れなかった両者が、ことごとく音の好みというか、この作業の工程中は不思議なほど音の良し悪しの判断基準が同じになってきたのです。

 ここで分った事は、一般の人が数学(音のバランス)を最初の脚切り点の対象にするのに対して、寺島さんの感じる脚切り点は単にその科目の順番が違うだけである事が判明したのでした。その点アバンギャルドはどの項目も高得点が故にお互いが合格点を与える事が出来るのです。

 レイオーディオの時には誰もが寺島さんの音を良くいう人はいませんでした。私もその中の一人でした。そんな埋もれた音の中であっても、自分の出したい音のイメージは確固として描いておられたのでしょう。でも今日の出来事は、目指す最終目標は「誰が聴いても良い音は良い」というのが証明出来たようで嬉しい気持ちになれたのでした。

 
 寺島さんはオーディオ界の長嶋さん

 その22の「写実派」と「抽象派」といったタイトルで「スイカをリンゴといわれても分らない」といった例えを書きましたが、「ゴリッ」とか「バッシャーン」とかいった表現をするのも寺島さんはオーディオ界の長嶋さんなのかもしれません。

 人並み外れた直感型の人だったという事が判明した今回の一件でした。

 「カイザー指標値」によりますと、

 寺島さんは右脳が85%、左脳が15%の人なんです。

 ちなみに長嶋さんは右脳が90%、左脳が10%。

 私は右脳が55%、左脳が45%。

 やはり長嶋さんが右脳型人間の横綱、寺島さんは大関です。


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