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兄との思い出



 ラッキーナンバー34

 すい臓がんの兄は入院してわずか34日で亡くなりました。”34”は兄のラッキーナンバーで、つい2ヶ月前まで乗っていた真っ赤なスポーツカーのボンネットにも大きく34という数字を書いていました。

 それもミッション車だったと聞いて二度ビックリ。ゴルフの腕前だってシングルの前半だったから今流の言葉で言うと「半端ねぇ〜」です。66才ですよ!。お迎えの直前まで青春を謳歌していたようです。

 それにしても何という因縁でしょう、実は兄の名前は三十四(さとし)と言います。父が34歳の時に生まれたからつけた名なんです。姉は37歳で早苗です。ちなみに私は40歳だから静雄です。そんな遊び心のある粋な親父でした。


 幻のレストラン”KAISER”

 葬儀を終えた翌日兄の荷物を整理していたら、レストラン”KAISER”のパンフレットが引き出しの中から出て来ました。それは私の名前の歳である40才の時に世界一音の良いレストランという触れ込みで、オーディオショップと併設する形でオープンさせたフランス料理のレストランです。



 当時一番高価だったInfinityのI.R.SをB.G.M.にした雰囲気抜群のおしゃれなレストランでした。'88年にオープンしたのですが、その時兄は外国から帰ったばかりで職を決めていなかったので、レストランの責任者として手伝って貰ったのです。



 それがバブルが崩壊した頃から経営が思わしくなくなり、レストランは已む無く閉鎖する羽目になり、それ以来兄とは疎遠になりました。

 パンフレットは勿論、I.R.Sの写真すら残っていなかったのに、20年もの間大切に持っていてくれたんだと思うと涙が出て来ました。

 別れて以来、何度か私の方から電話してみようかと思った事があったのに、何が邪魔して出来なかったのか、つまらない意地なのか、愚かさなのか、18年間がとっても重たいです。


 私の目標は常に兄でした

 子供の頃の思い出としては、親に通知簿を兄弟で見せ合う時に兄はいつもオール5でした。それがうらやましいやら誇らしいやら、だから兄は常に私の目標であり憧れでした。

 またベトナム戦争真っ只中の頃、岩国基地へエスコートしてくれて兵隊さんと一緒に食事したり、ボーリングしたり、またPXで珍しいレコードを手に入れて貰ったり・・・、思い出が一杯です。


 愚かなる自分

 入院する前のシッカリしている時には、「俺の最後の仕事としてローゼンクランツのウェブを英訳してやるよ」なんて、頼もしい事を言っていたのに・・・。
 
 「パソコンを取ってくれるか」と言って蓋を開けるものの、襲ってくる激痛に集中力を奪われ、一文字とて書き残すことが出来ずじまいでした。

 そんな兄を亡くして初めて失ったものの大きさを自覚する日々です。そして、日を追う毎に悔やむ気持ちが増大してなりません。

 特に印象に残った言葉は、『長男はプレッシャーがあって凄く孤独だった』です。

 残されたわずかな時間を価値あるものにしたかったから、仕事を絡めながら神戸まで何回も足を運びました。そして一度行くと4〜5日はそばに付きっ切りで看病しました。そう出来た事が私にとってせめてもの慰めです。


 「The End of The World」は私のオーディオの原点

 最期を看取った姉の報告では、Sketer Davisの「The End of The World」の曲に合わせて、右手の中指でリズムを取りながら安らかに息を引き取ったそうです。

 「俺の葬送曲を先取りしやがって、アン畜生め!」

 Why does the sun go on shining?
  Why does the sea rush to shore?
  Don't they know it's the end of the world
  'cause you don't love me anymore.

  Why do the birds go on singing?
  Why do the stars glow above?
  Don't they know it's the end of the world
  It ended when I lost your love.

  I wake up in the morning and I wonder
  Why everything as it was.
  I can't understand, no I can't understand,
  How life goes on the way it does.

  Why does my heart go on beating?
  Why do these eyes of mine cry?
  Don't they know it's the end of the world
  It ended when you said goodbye.


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