四国松山と高松でのオーディオセミナーが19日と20日です。瀬戸内しまなみ海道を通って行く事にしました。楽しみは大島の海宿”千年松”の魚料理です。今年の四月に初めて体験し、虜になったからです。
翌日朝早い仕事の関係上、前日に当地入りしておきたかったので、今回は泊らず食事と風呂だけを予約しました。料理が10,000円、風呂が700円、ちょっとばかり奮発してみました。今回は息子と二人です。
車を走らせながら助手席から撮った瀬戸内の美しい景観です。
千年松のロケーションは島の外れの行き止まりにあります。初めての時は道に迷ったんじゃないかと不安になるほどです。宿の前の砂浜は正にプライベートビーチです。”満天の湯”という名の露天風呂もあります。満天の星空を楽しめる事から命名されたそうです。地元産粗目の御影石風呂、海水風呂、ひのき風呂の三つです。
対岸には今治の街明かりが見えます
行きかう船の汽笛が時折聞こえます
砂浜に優しく寄せては引く波の音
そして穏やかな潮風・・・
都会の喧騒を離れて感じる自然の宝物
生かされている事を実感出来る貴重なひと時です
こんな環境で暮らしていたら、現代病である心の病なんか襲って来る事は決してないだろう。晩年、終年はこんな環境で暮らしてみたいものだ。
最近は他人の目を気にして滅多に料理の写真は撮らないのですが、個室だった事もありますが、今回だけは”命が宿った料理”を知って頂きたいと思ってカメラに収めてみました。
『ちょっとご覧頂きたいものがあります!、初物です!この”紋甲イカ”』と言って仲居が持つお盆には、真っ黒なイカがピチピチと跳ねています。興奮すると色濃く変色するのだそうです。
『では、すぐに刺身にして参ります』。
目の周りの透き通るようなみどり色は今までに見た事の無い色です。有り難い事です。心して頂きたいと思います。耳、胴、足、それぞれに違う触感です。弾力があって柔らかいにも拘らず、一方で爽やかな粘っこさと程好い固さのコシが特徴。その踊るような生き物特有の不思議な歯応えは到底文字に換える事は出来ません。
たて続きに炊いた”紋甲イカ”がやってまいりました。胴の部分の肉厚は普通のイカの倍はあります。大きく輪切りにした身をほおばると、イカ墨のコクのある地味な甘みが口の中一杯に広がります。これまた刺身とは違う種類の弾力ある歯応えです。素晴らしい美味しさです。全く別の素材を食べているようで、とても同じイカとは思えません。ここらあたりが日本料理の醍醐味でしょう。
ちょっと行儀が悪いですが、美味しさに誘惑され、大皿に残ったイカ墨の煮汁を横綱の祝杯を真似るかのように飲み干してしまいました。天然の味は後口がとても自然です。食をそそる匂いに誘われ、またその美味しさに心を奪われ、写真に収めるのを忘れてしまったのがとても残念です。何故ならば、私にとって今日の一番料理だったからです。
次は刺身の盛り合わせです。殻つき生うには口の中でとろけるようですが、伊勢えび、鯛、アジの刺身はぷりぷりです。各々の魚が持っているエキスが濃いのが瀬戸内の魚の特徴なのですが、その中でも来島海峡の魚の味は透明で純度が高いのが最大の特徴です。何故ならば日本一潮の流れが速いからです。正に”モノが違う”といった表現がピッタリです。
続いて2センチ近い厚みのぶつ切り”アワビのバター焼き”です。歯が強くない私に大丈夫かなと心配しましたが、活きが良いとサクサクと楽に噛み切れるのです。バターの風味と塩味で締める様に炒められた身の表面には、不思議な味覚のブレンド膜が形成されるようです。一瞬地中海料理を頂いているかのような気分になりました。
鯛の脂の乗り方から推するに、水炊きではなく、おそらく蒸したのだと思います。ポン酢でシンプルに頂きます。活きが良いので身がポロリと取れます。鯛は明石が有名ですが、私は来島海峡の鯛に軍配を上げます。
でっかい車えびの殻つき塩焼きに至っては、焼いた後も殻一杯に身が詰まっていて、プリンプリンした身は今にもはち切れんばかりです。「正に、海老の王様!、車海老!」こんなに美味しい車海老は人生初です。
メバルかな?あぶらめかな?と思ったが、”あこう”の煮付けだそうです。地元でも貴重で高い魚として有名だそうですが、姿、形、味はあぶらめ似です。特にその絹の様に肌理細くデリケートな身は、生かすも殺すも板前の腕次第ですが、魚本来の美味しさを損なわない控え目の味付けはさすがです。
『お酒を召し上がらないから早めに鯛ご飯をお持ちしました!』そう言って持って来た土釜には、えも言えぬ匂いと湯気の昇る鯛めしが盛り上がらんばかり。伊勢えびの味噌汁を一緒に持ってきたので、期待が膨らみます。
一口食べてみると想像を遥かに上回る美味しさにビックリ仰天!。米が勢いよく立っているのが凄く分ります。力強い噛み味です。思わずお代わりしていました。もうこの辺で腹は満腹状態になり、じわりじわりとお腹が膨らんできました。
「東京でこれだけの料理を頼んだら5万円で効くかな?」
『いんにゃ!、100万出しても無理だね』
『肉やマグロなら冷蔵庫の寝かせ具合で旨いとか言う世界だけど、魚だけは現地でなければこの味は手に入らないからネ』
「そうだ、そうだ、まったくだ!」
鯛のお頭部分の天婦羅がやって参りました。刺身でもなく、塩焼きでもなく、敢えてランクが落ちるとされる調理法を、最高に活きの良い鯛を持ってするにはそれなりの理由がある筈。無理してでも、『今食べなくては、その意図するところは汲めぬ筈』と言って頑張って食べ始めた息子の弁たるや!。
『これは凄い!、本当に凄い!』
『こんな食べ方があったのか!?』
『裏の裏を突かれた感じだ!』と言う
『これは無理してでも今喰っといた方がいいよ!』
読書家の息子曰く、徳川家康がこの鯛の天婦羅を好物としていたそうですが、”その訳が初めて分った!”と口にしたほど旨かったようです。そのようですと言うのは、そこまで言われても私の胃には1ミリの余白も無かったからです。
「こんな魚を食べていた伊予水軍が無敵の強さを誇ったのが判る気がするなぁ」。
『冷凍のファーストフードに慣らされた現代人が把になって掛かって行っても、当時の武人にはとても歯が立たんよ』。
来島海峡の魚を食べて確信しました
来島海峡の魚は命を食む
音楽によっても命は食む
命を食むオーディオとは?
答えはローゼンクランツです
そんな自信ある結論に至りました