トップ情報日本国民は日本という国をどんな国にしたいのか?>「尖閣」をめぐる2つの米国、2つの日本

「尖閣」をめぐる2つの米国、2つの日本

2014/5/8 日本経済新聞 編集委員 高坂哲郎

尖閣諸島に上陸してきた中国兵は海空からの砲爆撃で殲滅(せんめつ)する――。4月半ば、在沖縄米軍幹部が宣言した。ロシア軍によるウクライナ侵攻観測が強まっていた中での発言は、東欧の混乱に乗じて中国が火事場泥棒のように尖閣を強奪することは許さない、との米軍高官の固い決意を示すものだった。一方で、米国には日中の対立に巻き込まれないように周到に手を打つもう一つの動きもある。


在沖縄米軍幹部の胸中

「脅威を取り除くために(兵士を)上陸させる必要すらないかもしれない」。在沖縄米軍トップのジョン・ウィスラー海兵隊中将(沖縄地域調整官)が4月11日、ワシントンでこう語った。

仮に中国軍やその配下の民兵が尖閣に奇襲上陸してきた場合、携帯式の対戦車砲や地対空ミサイルなど強力な火器で武装している可能性が高い。このため、自衛隊や米軍は奪回作戦時に多大の犠牲を覚悟しなければならない。司令官の発言は、その場合は艦艇や攻撃機からの砲爆撃で上陸中国兵を一気に殲滅する作戦を検討していることを示したものだ。

ウクライナ危機のさなかという発言のタイミングに意味があった。強権国家が国際秩序の変更に動く時、他地域で起きた戦争を巧妙に利用する。朝鮮戦争が勃発し世界の目が朝鮮半島に集中していた1950年、中国軍は近代的な国家体制を整えていなかったチベットに侵攻した。ソ連は1956年、スエズ動乱(第2次中東戦争)の混乱時に、ハンガリーに軍を増派して自由化運動を抑え込んだ。

ウクライナ危機のただ中だからこそ、中国を強く威嚇して尖閣侵攻リスクを減らしておきたい。そんな思いがウィスラー中将の胸中にはあったのだろう。

その一方で、米国には「もう一つの顔」がある。

「尖閣諸島は日本の施政下にあり、それ故に、日米安保条約第5条の適用範囲内にある」。4月に来日したオバマ米大統領は、尖閣問題に関して表明した。米大統領が公式に尖閣諸島への日米安保適用を宣言してくれた、と日本では発言を歓迎する空気が広がった。

ただ、発言の中に「それ故に」という言葉をわざわざはさんでいる点に着目して裏読みすれば、「尖閣諸島が日本の施政下でなくなれば、日米安保条約5条の適用範囲から外れる」と米国が暗に言おうとしていることがわかる。米政権は以前からこの立場を維持しており、オバマ氏も4月24日の東京での記者会見で「我々の方針は従来と変わっていない」としきりに強調していた。


現実味が増す「グレーゾーン」シナリオ

こうした状況を踏まえて中国が尖閣諸島を強奪しようとすれば、とりうる策は、通常の武力攻撃ではなく、漁民を偽装した中国兵を尖閣に上陸させる、いわゆる「グレーゾーン」シナリオだ。「中国国民の保護」の名目で中国海警局の公船から行政官も上陸して「島の施政権は中国側にある」と主張し始めた場合、「米中戦争」を望まない米国の一部の人々は、米国政府の尖閣諸島をめぐる従来の解釈に基づいて、尖閣有事への米軍投入に堂々と反対できる。

日本が心しておいた方がいいのは、尖閣諸島を全力で守る姿勢を表明してくれたウィスラー中将と、尖閣問題から周到に逃げを打とうとする一部の米政府関係者の両方とも、現在の米国の偽らざる姿だということだ。米国は一枚岩の国ではない。

さらに忘れてはならないのは、米軍人のとろうとする作戦や方針は、彼らの熱意にもかかわらず、米国の政治家に拒否されることもあるという点だ。朝鮮戦争で米軍を主体とする国連軍を指揮したマッカーサー司令官と、同氏を更迭したトルーマン大統領の関係が好例だ。同様の対立はアフガニスタン軍事作戦でも起きたし、ウクライナ情勢をめぐって米国の政軍間できしみが生じているとの観測もある。

尖閣をめぐって「2つの米国」が併存しているように、「2つの日本」も存在するように見える。

一つは「尖閣諸島は日米安保の適用範囲」とのオバマ氏の発言や日米安保を過信して安逸に浸ろうとする空気だ。オバマ氏の来日時に、尖閣有事に日米安保が適用されない場合もありうる、と冷徹に分析した報道はごく一部だった。

2つ目は、米国のメンツをつぶさないよう表向きはオバマ氏の「尖閣に安保適用」発言を歓迎しながらも、自国の領土は自国で守るのが基本だと認識している現実的な人々だ。尖閣近海で黙々と警備にあたる海上保安庁やその後方に待機する陸海空自衛隊の隊員らもそうした一部だろう。

こうして米国も日本も「内なる分裂」を抱えている。おそらく両国に今必要なのは、関係者が集まって同床異夢の「日米協調」をうたうこと以上に、内なる分裂を克服すべくそれぞれの「宿題」をやることなのだろう。日本は、尖閣を含む自国防衛の一義的義務は自国にあることを再認識して守りを固め、米国の「日米安保重視派」の人々は「中国重視派」に負けない影響力をワシントンで持つということだ。

矛盾するようだが、米国は同時に「米国内政や世論の動向次第では尖閣防衛に協力できないかもしれない」と日本に正直に話す「ストレート・トーク」も始めた方がいい。そうでないと、危機意識が浸透しない日本は、日米安保に過大な期待を寄せて甘え続け、結果的に米国の重荷になるからだ。




今までに岸田外相初め主要閣僚が米国に詣で、国務大臣や国防大臣から尖閣は日米安保適用であるとの言質を何度得たことだろう。それでも不安は拭い去れない。

今回の国賓待遇を用意してまでオバマ大統領の来日を実現させ、安倍・オバマ氏の首脳会談で尖閣諸島が日米安全保障条約の適用対象との確約を得た。大統領の言葉にどこか頼りなさを覚えるのは目に力が無いからだろう。私にはそう映るのだ。

とにかく米民主党には親日派よりも親中派が多いので要注意である。

← Back     Next →