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数字と機微


 インターネット事業のライブドア社が近鉄バッファローズの買収を申し出ていたという話を2〜3日前の新聞でチラッと目にした程度でしたが、今日7月1日の毎日新聞を見てビックリしました。ヘッドラインの柱の中のトップに一面記事としての扱いよりも目立つ場所に社長の談話を取り上げていて、これがちょっと凄いんです。

 ズバリ、「512億円ある」とだけ大き目のフォント。

 そしてそれなりの大きさで、社長の顔写真が下に添えてあります。

 瞬間ではあっても、読む前に金融事件でもやらかしたかのように、

 無意識の中に感じさせる絶妙の仕事振りでです。

 
 せめて「数百はある」にとどめておけばいいものを、わざわざ「512億」と明言したことなどちょっとした驕りが生んだ隙を活字と紙面レイアウトのプロである新聞に強烈にすくわれた格好です。こうした失敗をするのは、得てして面と向かい合わなくても済むコミュニケーションツールに逃げ、人と人との機微が身につかなくなった人達に多いのです。

 関係者達の賛否両論のコメントが載っている中でも、特に目を引いたのは、既に近鉄が断っているにもかかわらず、買収交渉の話を改めて出すのは「単なる売名行為ではないか」と言う意見です。じっくりと関連記事を読み終えると、そこには見え隠れするものがあります。

 それはこの買収話を持ちかけたライブドア社の株価が4日連続してストップ高になったという現象です。計算されたかのようなこの一連の動きを見ていると、そのように解釈されても仕方がないのかもしれません。

 日本プロ野球は戦後の疲弊した人々の心に勇気と活力を与えてきた精神的支柱の部分を持っています。そしてそれらを支えているのは大手新聞社、放送局、鉄道会社といった名門企業で、高校野球も春が毎日、夏は朝日と新聞社が主催しております。読売新聞は巨人、産経新聞はヤクルトといったようにこの新聞大手4社に共通しているのはテレビ局も持っているという点です。   

 そこに既存のメディアを脅かすかもしれない大きな潮流となった、インターネットの成功会社がプロ野球の連盟に入る事そのものが簡単にパーミットされる環境にあるかどうかは大人の判断なら自ずと答えは出るはずです。

 巨人の渡辺恒雄オーナーにいたっては「金の問題ではない」とハッキリ言っていることからしても、まかり間違っても「ネット系メディアには売らない!」というのをライブドア社も想定していたであろう中で再度の買収話を持ち出したということは、買収出来た場合は当然それで良し。売ってもらえなかった場合でも「問題はない」どころか「益がある」との判断であったと思います。

 「512億円持っている」という一言が、

 潮目を自分自身で変えたことになるでしょう。

 こうして新聞に沢山取り上げられる事は、ライブドア社の名前が一気に売れ、短期的には大成功を収めたように見えますが、もうすでに私の目にはベテラン勢の寝技に軍配が上がったように見えてならないのです。

 良い意味でも悪い意味でも、「日本国プロ野球株式会社」なんです。


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