遊び半分の筈が本能の情動を揺さぶった
それは衝撃的ハプニングでした。ある時遊び半分にローゼンクランツのフルレンジスピーカーRK-AL12を聴いて貰ったのです。最初の内は『フルレンジ一発にしてはそこそこ鳴るもんですね・・・』と、余裕のコメントで居られたのですが、スピーカーケーブルをRGB2aに換えて鳴らし始めた頃から、K.Yさんの顔が急に引きつり始めました。
志賀高原原木杉・戸籍簿管理・オーディオ壁の実力
徐々に調子を上げつつあるRK-AL12から、にわかには信じられないような音に生まれ変わったのです。地響きを立てるような伸びのある重低音は、質の違いこそあれBB5を凌ぐ迫力となり、まるで生演奏を彷彿とさせるリアリティーであります。加速度組み立てを施した志賀高原原木杉による背面壁全体が大平面スピーカーに化けた瞬間でした。
勿論私だってこんな音は初体験です、
完璧に芯を射抜いた時のエネルギーは、
想像の域を遥かに超えてしまいます。
ステレオたる物はかくあるべし!
常日頃、私が口を酸っぱくして唱えている、
"振動"と"電気"と"気流"の三つの時間軸が、
三位一体となった時の衝撃のサウンドは、
閃光鋭い稲妻と地響きを立てる雷鳴のようでした。
余程カイザーセッティングがスイートスポットに入ったのでしょう。床に置かれたスピーカーと背面壁までの距離、そして、志賀高原杉の壁面高や幅の寸法が旨くシンクロして初めて出る音です。勿論その元となっているのは、スピーカーの箱がカイザー和音寸法で設計されているからです。
壁板の釘打ちのピッチまでカイザー寸法で組み上げたので、共鳴・反響して当然です。全員が音楽に参画している状態も、畳9枚分にも及ぼうかという背壁振動板総面積を考えると、38センチウーハー2発の比ではありません。
その時、彼の口から信じられない言葉が発せられたのです!
『カイザーさんBB5を処分して下さい!、フルレンジにします!』
「えっ! 何と言う事を! 本当ですか!」
「ここまで愛情と金を掛けて、専用のスタンドまで作ったのに?!」
「BB5という山の頂きはすぐ目前ですよ!」
『いいえ!大丈夫です!』
『速さと正確さに勝るものは無い! と、確信しました!』
「K.Yさんの決断力には脱帽です!」
カイザーウェーブ理論の証明
この鳴り方こそ、カイザーサウンドが推奨する「カイザーウェーブ理論」であります。不協和音しか出ない構造・寸法の機器や、オーディオラックを含めた周辺アクセサリーで編成したならば、どんなに優れた性能の機器を購入したとて、イラつく不協和音しかしない事を解って欲しいのです。
オーディオは科学と芸術の融合です。最初から数・理・科に於いて間違いから始まっていたとすれば、情・気・術を語るに値するものではありません。好きとか嫌いとか、好みの違いを述べるには、音楽の体を成したる後の話であります。
音楽感受脳の正しき反応無くして、魅惑の音楽再生は成し得ず
音に興味を示す初期段階に誤った情報を脳が認知したなら、人間はそれを了としてしまう怖さを併せ持っているのです。それは化学調味料に毒されてしまうと、素材自身に備わる本物の味を識別出来なくなる事からも証明されています。要は己の音楽感受脳が正しく反応しなければ、魅惑の音楽再生は永遠に不可能なのであります。
Alpair12の片側4発にするか? マエストロにするか?
どうせやるならという事で完成までに半年という期間を貰って、Alpair12を片側に4発使ったワンオフモデルを作ろうという話になりました。あれこれ構想を練りデザインコンセプトもほぼ決まり、ラフスケッチを描けるようになった頃に、K.Yさんがカイザー東京試聴室に来る事になりました。
『任せ切ったつもりで居ても、マエストロの事がいつも最後に頭にもたげて来る』と言われるものだから、「だったらもう一度じっくりと聴いてみたら如何ですか?」と持ち掛けました。
以前にも「カイザータワー」を組み上げてすぐの音を聞かれた事がありましたし、「マエストロ」も勿論体験済みです。特に『和紙で出来たトライモードユニットの生々しい音が耳にこびりついて離れない』と打ち明けられました。
マエストロの音を聞いて、改めて納得が行ったようです。
『やはりマエストロにします!』が彼の答えでした。
「マエストロはシビアーで、鳴らすのが難しいですよ」
「だけどフルレンジユニットとパッシブユニットは一蓮托生なので、これほど正確無比に反応するスピーカーは他に無いと思います」
「従って慣らし切った時には、恐らく想像を遥かに超えた世界が見えると思いますよ」。「私もそれをテーマに現在挑戦中ですから・・」。
「また、お金も結構掛かりますよ」
『大丈夫です! 前進あるのみです』
今回はAlpair12ユニット片側4発の案は消えましたが、私の頭の中ではすっかりその音が出来上がっているので、その内商品化出来る日が来る事を祈りたいと思います。私自身がその設計の音を聴いてみたいという気持ちがあるので、きっと日の目を見る事になるでしょう。これまた斬新な設計なので、商売抜きにしてもやり遂げなければならない宿題として課せる事に今この場で決めました。
BB5は山口県へ嫁入り先が決まりました
K.Yさんが使っていたBB5はブライストン製パワーアンプ4台と、モノラルチャンネルディバイダー2台が、スピーカー本体とセットになったフルマルチシステムです。音は完全にバランスが取られていて、値段も1,000万円が近く、PMCの中のトップエンドに位置するプロ仕様です。
こんな特殊スピーカーはおいそれと誰にでも案内出来るような代物ではありません。「ひょっとして彼なら!」と思える人物が居たので、その話を案内したところ、『興味があるので、兄と親父と一緒に聞きに行きたい』との返事を頂戴しました。一人は茨城、家族の方は山口、私は東京、三方から別々に出発し、信越道の中野ICで落ち合ってK.Y氏宅へ向かいました。
とにかく抜群に鳴っているBB5でしたので、『こんなに素晴らしいスピーカーをどうして手放すのかが信じられない? 余程の理由があるのだろう・・・』と、幾分訝しがる空気も一瞬漂いましたが、そんな事より兄さん(Y.I氏)が乗り気になり、『BB5は以前から憧れだったので是非売って下さい!』という事になり、あっけなくその場で商談が成立したのです。掘り出し物だという事は音を聞きさえすれば誰にでも分かるものです。
手塩にかけた物は、誰とも分からない人の所に行くよりも、この人ならと思える人に焦がれて貰われて行くのが一番喜ばしいですね。だって、私も東京から長野まで10回以上足を運び、その都度気持ちを込めてセッティングした可愛い我が子のような存在なのですから。
K.Yさんが「ミラクルサウンド・スクリーン」まで導入する入れ込みようで取り組まれたのには、私も頭が下がる思いでした。私にとっての「ミラクルサウンド・スクリーン」と「ナイアガラ」は特別な存在で、買って頂いているお客さんは神棚に祭りたいぐらいです。
実のところY.Iさんには弟さんと共に「ナイアガラ」を買って頂いているのです。これは何かのお導きなのでしょうか。そのY.IさんはBB5を迎えるに当たって、『30畳の半地下オーディオルームを建てるんだ!』と意気込んでおられます。半年後か一年後には山口のBB5をレポート出来る事になるでしょうから今から楽しみです。勿論オーディオルームの設計は私が担当します。素晴らしい部屋を作りますので皆さんご注目下さい。
サウンドフロアーの施工
桜無垢材でサウンドフロアーを組み上げる予定を組んでいたのですが、志賀高原原木杉を提供して下さっている材木屋さんから、『かば桜なら在庫があって安く提供出来るけどどうだろうか?』という案内を貰いました。
現物を見に行くと、既製品にしては予想以上に良かったのと、コストを大幅に落とせるのでそれに決めました。長さ1840、幅95、厚15で寸法的にも申し分無しです。私の当初のプランですと、材料費だけで60万円以上もする見積りが上がっていましたので随分節約出来ました。
根太材の米松は3mの物を16本用意し、広島から送らせました。事前に図面を引こうと思って頑張ったのですが、どういう訳かイメージが湧いて来ないのです。こうなったら、材料に聞くしかありません。現場でアドリブで決める事にしました。カイザー寸法の黄金長である1,575ミリと945ミリに切り、後ろと前の長さを場所によって変えて施工する事にしました。
中央部分に525ミリ幅の根太材を固定し、左右に音を広げるべくオスを外側にしてさねを嵌め込みます。音楽のテンポやリズムの元となる根太材を、あらゆる音楽に対応出来るべく色々なピッチで固定します。
この方式は最近開発した「オールマイティー型自動制御ケーブル」の設計ノウハウによるものです。K.Yさんと息子と私の三人で二日掛かりで施工しましたが、とにかく設計図が無いので、考える時間が多くなりやたら時間が掛かってしまったのです。こんな厄介な事は今回が最初で最後です。
K.Yさんは車の整備士の免許を持っているほど器用な方で、大工仕事もこれまたお手の物です。根太は木ネジ止めですが、フローリングはエアーガンによるタッカー打ちになります。それらの道具全てが自前というから驚きです。
打った釘の数は恐らく2,000は超えたでしょう。衝撃もかなりあるし作業を終えた時は彼もヘロヘロ状態でした。しかしながら、自分自身で釘に思いを込めて1本1本止めるので、人任せにしたのとは愛情の掛かり方が大違い。だから音は良くて当たり前なのです。
「志賀高原原木杉オーディオ壁」VS「かば桜サウンドフロアー」
幅5,460、奥行き2,520ですから畳9枚の計算になります。偶然ですが背面壁と同じ面積ではありませんか。お互いの"加速度組み立て"が相乗効果として働き、強烈なエネルギーの等価交換が成されるものと思います。
それにしてもこの偶然は大きなご褒美となりました。部屋全体は24畳あり、一般のオーディオルームとしては理想的な広さです。更に側壁にも部分的に志賀高原原木杉の加速度組み立てを予定しています。現在丸太から切り出して自然乾燥させているところです。
K.Y邸の音は一体どこまで進化するのでしょう。彼は『カイザー第2試聴室にするのだ!』と、嬉しくなるような事を言ってくれます。良い気分になったところで音が出るところまでセットアップする事にしましょう。
今回はこれだけの大工事をしたので、音が落ち着くまでにはしばらく日にちが掛かります。従って普通は細かなところまでのセッティングは出来ないのですが、幸いにもカイザーサウンドには音の成長度合いを先読みする技術があります。
だから良い音になる位置に、スピーカー初めラックやミラクルサウンド・スクリーンを設置出来るのです。これもあらゆるシステムや環境の中で、オーディオクリニックをこなし、数え切れない音のデーターマップを蓄積して来た賜であります。
本日はRK-AL12をマエストロを設置するまでの繋ぎ役として、少しの間聴いて頂く事になります。