Zさんはご自分の音に対する要望と、システム概要を事前にメールで詳しく教えてくれました。スピーカーは大型中型を合わせて4組も持っており、アンプ類も4種類あります。若いのにどんな豪邸に住んでいるのだろう? と音よりもその暮らしぶりの方に私の関心は向いていました。
良い音が欲しい! との思いが強く出過ぎて、
名器と呼ばれる機器集めに奔走してしまったのでしょう。
これからどうしたものか?!
と、思案している様子が伝わって来ます。
以下が彼から送られて来た内容です。
■システム状況
スピーカーがTannoy Westminster Royal、B&W 802D、JBL 4344, Sonus Faber Cremonaの4セットです。
メインスピーカー: Tannoy Westminster Royal (基盤に4つのキャスター移動現在Harmonixのインシュレーターを使用中)足に特になんの対策もありません。スピーカー端子が4つ(Tannoy Strc-300ケーブルでバイワイヤーで接続)。
サブスピーカー: B&W 802D (黒い思いボードの上に乗せてある)基盤に4つのキャスター移動 Taocで受け皿としてインシュレーターを入れてある)
音源: | |
1、 | Denon DP-A100 LP player |
2、 | CD player: Goldmund EIDOS 18CD(220v) |
3、 | Transport: Esoteric p-50s (100v) |
4、 | D/A: Reimyo Dap-777(100v 日本仕様) 220v→100vで給電 Goldmund 21 evo プリ+DA 兼用 |
音源アンプ類: | |
プリアンプ: | Accuphase C-2800 (220v) |
パワーアンプ: | Accuphase A-60 P-700 A-20v (合計3台) すべて220v |
プリアンプ: | Marantz 7 オリジナル (100v) |
パワーアンプ: | Marantz 9 レプリカ (100v) |
プリアンプ: | Goldmund 21 evo(DA and プリ機能兼用) |
パワーアンプ: | Goldmund 28 ME (220v) |
そのほか | |
パワーアンプ | マッキントッシュ MC-275 (2セット)も使用中。 |
ケーブル類: | |
RCA: | Goldmund ic cable(2セット) , PAD ,Ensemble, Linn , |
XLR: | Accuphase XLR(3セット) |
SP ケーブル: | Tannoy sp cable, Audio quest cable(2セット), Ensemble cable, |
ボード: | D/A用 Kripton木製モデル、 |
スピーカー | インシュレーター Harmonix 木製インシュレーター |
現在のシステム組み合わせ:
アンプは、それぞれ、Accuphase, Marantz, Goldmundの3セットがあります。
ローゼンクランツへの期待:現在の部屋の中に最高の音を引き出してほしい。
(スピーカー、アンプを問わず、どのコンビでもかまいません)
刺激な音ではなく、自然な音を聞きたい。自由自在のコントロール、風のような低音、感動な音楽性、人声の定位。バランスがある音。音楽の躍進感があること。
基本目標がTannoy Westminster Royalを鳴らし切ることですが。
時間的に余裕があった場合、B&W 802D、Sonus faber Cremonaの調整。
Denon dp-a100 の調整。部屋の家具の調整が自由です。ベランダに通れれば十分です。(家族に迷惑をかけたくない)
日本語が話せるZさん
今回の上海オーディオクリニックを企画してくれたのが、このシステムの持ち主であるZさんです。彼は日本の大学留学をきっかけに日本の企業へ就職し、日本で暮らす内にオーディオが好きになったと教えてくれました。日本での生活が7年、上海に赴任して6年となる30代半ばの働き盛りです。
日本にいる時から「カイザークリニック」を受けてみたい! とかねがね思っていたそうです。今回は彼の他に4人のオーディオクリニック希望者を集めてくれました。休暇まで取って通訳を引き受けてくれるという彼のサポートがあったからこそ、今回の「日中オーディオ文化交流」が実現したのであります。
今から遡る事一ヶ月、Zさんの日本出張があった際、日本のオーディオ友達と共にカイザー東京試聴室を訪ねてくれたので、既にZさんとは面識がありました。
上海到着初日
浦東空港には幟を持った出迎えの人達で一杯です。その中から、『貝崎さ〜ん!』という声と共に、彼の人懐っこい顔が目に入って来ました。福建省の出張先から直接上海浦東空港まで迎えに来くれたのです。
上海の町に着くまでのバス移動の1時間は、目に飛び込んで来る異国の景色に目を奪われていました。上海の町は広く、どこまで走っても町並みが途切れる事がありません。東京の3倍あるのでは?! と思ってしまうほどの広さです。
地震が少ないからなのでしょうが、今にも崩れ落ちそうな薄っぺらなマンション群は、設計をする立場の私としては部門の違いはあれども、とても不安に思えてなりませんでした。
その日の夜は上海料理を彼がご馳走してくれました。独特の匂いが鼻を突き、同行のノンフィクション作家であるJ.T氏共々、出された料理の大半は喉を通る事はありませんでした。中華料理が好きで期待が大きかっただけに、後々まで尾を引く事となり、ご馳走してくれた彼には申し訳ない気持ちになりました。
Zさんとの縁はオーディオクリニック
クリニックに入る前の前置きが長くなったのは、今回のいきさつにはどうしても触れておく必要があったからです。私の日本縦断オーディオクリニックの情報公開の地道な積み重ねがZさんとの縁を取り持ったのです。
3年ほど前にも彼からオファーがあったのですが、機が熟していなかったのか、縁が薄かったのか、「その内行ってみたいですね!」 との返事しかその時は出来ませんでした。
すると、『オーディオ仲間にも声をかけますから、
是非上海へ来てクリニックをして頂き、
友好の輪を広げませんか!』
というメールを三年ぶりに貰った事で、
お互いが本気になれたのです。
中国NO.1のオーディオ誌『現代音響技術』の取材
翌朝9時にZさんとホテルで待ち合わせです。早速タクシーで彼の家へ向かいました。クリニックの一番に彼を選んだのは、上海に於ける今回のクリニックの予行演習と、カイザークリニックとはどんなものなのか?! 通訳としての彼に理解して貰う目的も兼ねています。
同時に、中国NO.1のオーディオ誌『現代音響技術』の張国梁編集長が、オーディオ先進国日本に芽生え育った、「オーディオクリニック技術」というものについて取材してくれる事になっています。
彼と日本との繋がりは強固且つ密接で、中国の大学を出てすぐの'87に日本の情報専門学校に留学し、そのまま秋葉原のラオックスに数年間勤め、オーディオの経験を積んだのだそうです。
ケ小平(としょうへい)が深セン(しんせん)や上海などを視察し、"南巡講話"を発表した'92から改革開放路線が一気に推進され、両都市は驚異的な発展を遂げるのですが、文化大革命の影響で英語やジャズが禁止されていた事を教わりました。
その前後を日本で過ごした張国梁氏が、上海に帰ってすぐにオーディオ誌を刊行したのですが、その盛り上がりと同じように、上海の発展ぶりは凄かったそうです。その上海のシンボルとなっている高層ビル群の殆どは、日本の技術の後押しなんだそうです。
張氏は中国オーディオ界の草分け的存在として認められると共に、業界の牽引役としてしてその実力を遺憾なく発揮しています。お土産に頂いたのは、彼が日本時代に築いた人脈や資料を元に纏め上げた価値ある世界オーディオ図鑑のVol.1とVol.2です。
上海クリニック第1号
Zさんのシステムの音には、これといった長所を見出す事は困難でした。スピーカーに使っているインシュレーターによる音の効果よりも、置き場所の違いによる音の変化の度合いの方が遥かに勝ると判断したので、先ず最初の一手はインシュレーターを外して、スピーカーをカイザー単位に則って動かすと、どのような音の変化とそれらの法則性があるかの説明をしました。
音の良し悪しを繰り返す「カイザーゲージ」に記された周期は、小さい波で52.5ミリ、大きい波でその3倍の157.5ミリ毎であります。目印に置いた場所にスピーカーを移動し、その都度音の変化を確認して頂きます。音の違いは分かるのだけれども、どうしてそのような事が起こるのか? までを理解して貰うのは酷だと思いました。
中国のオーディオ事情は機器の良し悪しや相性といった事が分かり始めた段階で、オーディオアクセサリーについてはこれからだという時に、日本でも理解する人達が少ない、スピーカーの書き場所による音の違いに法則性があるなんていうのは、いきなり大学院クラスの問題を解けと言っているにも等しい訳です。
あとで聞いたところ、この初っ端の音の変化が一番衝撃的だったようです。そのクリニックの様子は動画に収めましたので、ご覧になって下さい。
高画質で見るには、右下の歯車マークを押し720Pにして下さい
明日の午前中に二番目のクリニック対象者として伺う予定となっている、SさんがZ氏宅に姿を見せました。丁度良い機会なので、急遽ゴールドムンドのパワーアンプの簡易モディファイを披露する事にしました。天板部分だけの加速度組み立てです。
ゴールドムンド・パワーアンプの加速度組み立て
一般には、筐体がアルミなら天板にも同じアルミが使われますが、ゴールドムンドでは天板にカーボン板が使われています。カーボンは軽くて強度もあり、振動速度が速いという触れ込みで車やオーディオに重宝されていますが、振動係数が全く違う金属とケミカルハイテク材。
果たしてオーディオ機器にはどうなのか?
という疑問が私には以前からありました。
その音の変化の大きさに、
私を含めて一同ビックリ仰天です。
振動係数の異なる物同士は、お互いに振動を打ち消し合うから良いのだ! という説が大手を振って歩いていますが、それにも程度や内容の差がうんとあって、今日のような場合は明らかに悪い方に出ていたケースの証明なのです。
振動係数が余りにも違い過ぎる場合は、ネジの締め具合の差によって、良くも悪くもその差が大きく出てしまう"諸刃の剣"となる訳です。何事も鵜呑みはいけません。一事が万事ではありません。
数少ない検証にも拘わらず、さも、どんな時でもそうであるかに思い込んでしまう落とし穴に嵌る人のなんと多い事か?
遠来より友来たる
遥か2,000キロも離れた広西省というところから、同じウェストミンスター・ロイヤルを持っているGさん夫婦が、オーディオショウ見学を兼ねて、私のクリニックを体験してみたいという事になっていたのですが、クリニックの順番の変更等により初日は実現しませんでした。
全てのクリニックを終えたあとで、Z氏が自分で縦長配置から横長配置に変更するのに併せて、Gさんの為に再度クリニックを披露する事になりました。モチベーションをもう一度引き上げ、今回の総仕上げという意味でも徹底したセッティングをしました。
スピーカーの背板のネジの加速度組み立てまで行った時には、タンノイでしか絶対に出ない、衣擦れのようなバイオリンの音色に只々聞き惚れるだけでした。エキセントリック式同軸ホーンの成せる格式と伝統のサウンドは、唯一絶対の存在であると感服した次第です。
この音色が出た時のタンノイは、他のどんなスピーカーをも寄せ付けない圧倒的な世界と魅力を持っています。久し振りにその音を拝ませて貰いました。