「ストラディヴァリ・オマージュでジャズを鳴らしたい!」
神奈川県のMさんからこんな相談を受けました。
ソナス・ファベールは衣擦れのような弦の音が魅力で、クラシック音楽再生に適しているというのが世間の常識です。しかし、同じソナス・ファベールでもストラディヴァリ・オマージュは、音楽のジャンルを超えた未知なる可能性を感じさせます。
その気にさせる何かがある!
だから、ストラディヴァリ・オマージュで”驚くような音を作ってみたい!”
というプロ魂が自分の中にふつふつと湧いて来たのです。
つい最近も、「高価なオーディオラックを導入したけど、希望とする音には至らなかった!」 と打ち明けてくれました。Mさんもかなりのオーディオ歴のようですが、自分の求める音と程遠い現実が疑心暗鬼を招くと共に、実らぬ散財が疲労感を増幅させているようです。
そんな時に、藁をも掴む気持ちが私に白羽の矢を立てたのでしょう・・・
ソナス・ファベールに限らず、幅が狭く奥に長いのが最近のスピーカーのトレンドですが、ストラディヴァリ・オマージュはそれらとは逆で幅広で薄いのが特徴です。その形は張りのある音を出すには向いていて、ジャズを鳴らすには良いだろうなとの思いを抱きます。
このスピーカーには元々惹かれるものを感じておりましたし、
いつか調教出来る時があるだろう!
との思いがあったので今回はとても楽しみです。
厄介な事になりそうな予感が・・・
半地下になったオーディオルームに入って最初に目に止まったのが、全く構造の違う3台のオーディオラックでした。予想だにしなかった状況に、私のオーディオ・コンピューターが戸惑い始めたのが分かります。これだと各機器の振動の足並みが乱れてタイミングと力が上手く噛み合わない筈です。
厄介な事になりそうな予感が・・・
その嫌な予感は的中しました!
各コンポが足を引っ張り合って起きる代表的な混濁混迷した状態の音です。これはかなりの重症だ!” その時点でひとつ不思議に思ったのは、電源ケーブルを筆頭にケーブル類には全くと言ってよいほどお金が掛かっていないのです。
その点をお尋ねすると、過去に色々試したけど結果に繋がらなかったので、ケーブルに金を掛けるのは無駄だという結論に至ったのだそうです。楽器を演奏する方や音感の良い人は、ちょっとしたアンバランスも察知してしまうので、満足を得難いのが辛いところです。耳の優秀さにオーディオセッティングがついて行けないのです。
スピーカーのそばにはご自身が演奏するテナーサックスがありました。機器の性能や相性を拠り所とした音質向上方法を目指すのは、当たりくじを引き当てるのと同じように難しく、好みの方向にフィットする方が珍しいのです。
オーディオは本当に悩ましいものです・・・
このスピーカーの形状は前後の壁の反射の影響をダイレクトに受けるので、スピーカーのセッティングポジションが大切です。だから、スピーカーの位置出しを最初に行いました。しかし?! しかし・・・!? 念入りにやったにも係わらず、私の読みの4割ほどの効果しか出てくれません。
予想をしていたとは言え、あちらこちらで足を引っ張っている反対勢力が広い範囲を蝕んでいるようです。”これは根こそぎやり直さなければ!” と思いつつも、ひとつずつ効果を見ながら手探りのクリニックを続ける事にしました。
スピーカー取り付けネジのトルクコントロール
何をしても効果が現れ難いコンディションである事だけは間違いありません。早々と「伝家の宝刀を抜かざるを得ない!」と判断しました。そうです! ネジのトルクコントロールです。いつもなら、こんな早い段階からは絶対にしないのですが、どこの部分がどれだけ足を引っ張っているのか? 正しい判断をする為にはどうしようも無かったのです。
この処置には、Mさんもかなり気に入ったようですが、私にはそれでも到底納得の行くものではありません。今まで経験した中で1、2を争う昏迷状態です。巡り合わせとは言え、買い物がここまで裏目裏目に出る事があるのですね。
組合せとはいえ、ここまで足の引っ張り合いも珍しい
半ばヤケクソ気味で機器の電源ケーブルをローゼンクランツ最高級の30番代シリーズにして音を出してみましたが、大した事にはなりませんでした。この時点でMさんのシステムが一筋縄で行かない事が判明したのです。それでもと思い、スピーカーケーブルも繋ぎ換えてみましたが、やはり普段の半分以下の効果しか得られません。
ここまで改善の兆候を見せないのは、これで二度目です。
『幾らぐらいのケーブルなんですか?』
「当社の一番上のクラスで、電源ケーブルは17万です・・・」
『かなりのモノなんですね!」
こんな結果では、ケーブルの価格をお教えするるのも口が重たいです。価格の割に効果が薄かったので、この先どれぐらいお金がかかるのか心配になった事でしょう。さりとてこの状態の中では、機器に幾らお金を掛けても成果が目に見える事は尚更見込めません。
私の見立てとして、スパイク受けにGiant Baseを思い切って張りこんで欲しいと次回のプランを提示し、一週間後に再訪する事になっていました。
久々に味わう敗北感
その直前に電話があり、『スピーカーその物を買い替えようと思うので、二度目のセッティングは見合わせたい』という事になったのです。
根本の原因がどこにあるのか?
何故、てこでも動こうとしなかったのか?
それを究明出来ないままに終わってしまったのです。
過去の流れからして、じっくりと腰を落ち着かせて事に誂む気持ちになれないのだと思います。
『誰に頼んでも同じだ!』
『解決出来る人はいない!』
『早々とそんな結論を出してしまったのでしょう・・・』
お気の毒としか言いようがなく、役に立ってあげられないもどかしさが私の中に悶々としています。
一発で見切れるようにならなくては!
プロとして悔しい限りです!
久しぶりの敗北でした!
腑に落ちない部分は幾つかあります・・・。Mさんのお宅は職業柄色々な機器が建物内にあるので、電源汚染も疑わなくてはなりません。不完全燃焼のままは、宿題をやり残した感がありイヤなものです。