DAIBUTSU/LOTUS以来、長くアナログオーディオ用の製品が途絶えていたRosenkranz。先日アナログファン待望のフォノケーブルが発売されたと思ったら矢継ぎ早にフォノカートリッジ用リード線を開発中というので、貝崎氏から筆者に試聴の依頼が飛び込んできた。
筆者は大学生の時にCDが発表された世代でアナログを知っているデジタル世代とも言うべき中途半端な世代だが、アナログレコードへの愛着は捨てがたく、クラシックから昭和歌謡まで中古レコードをせっせと収集し、夜な夜な黒いお皿に針を落とすことを夜毎の歓びとしている重篤なアナログ病患者ということで白羽の矢が立ったのだろう。
リード線は若いころに流行った銀線に始まり、OFC,OFFC,8N・・・・と、種々試してみたが結局は普通の銅線に戻ってしまい、今はヴィンテージ線を使ったものに落ち着いている。
貝崎氏から送られてきたリード線は3種。いずれもRosenkranzのケーブルの素線を使ったもので、下記の3種。長さはいずれもカイザー寸法の42mm。
@ Swing素線x1
A Reference1素線X2 プラチナ端子
B Reference1素線X2金メッキ端子
カートリッジ
試聴に際しては手持ちのカートリッジの中からフィリップスのGP922をチョイス。70年代末期から80年代初期の製品でご存知ない方が多いかもしれないが、欧州製らしい柔らかな音色で、MCとしては余り分析的でないところが気に入っている。シェルはフィリップス純正の音叉形。リード線はWEのヴィンテージ線に換えてあるが、これをRosenkranz製に付け替えての試聴になる。
ディスク
試聴に使ったLPは、2009年に肺がんのため69歳で亡くなったケニー・ランキンの77年の名作、”THE KENNY RANKIN ALBUM”/Kenny Rankin(邦題「愛の序奏」)。
フランク・シナトラのアレンジャーとして知られるドン・コスタのアレンジはケニーの歌声と同じくジェントルでデリカシーに富み、アコースティック楽器中心の編成で電気楽器は最小限しか使われていない。
加えて、ウェザーリポートのヘヴィーウェザーやブラックマーケット、マディ・ウォーターズのフォークシンガー等のアルバムのエンジニアであるロン・マロの手になる録音は温かみがありニュアンス豊かな、物理特性と音楽性が見事にバランスした名録音。学生時代から溝が擦り切れる程聴いている愛聴盤である。
再生システム
ターンテーブル |
英GARRARD401 |
トーンアーム |
FR-54 |
キャビネット | 大阪ケーブルLEAD CONSOLE |
フォノケーブル | 米1940’S OLD BELDEN(945mm) |
プリアンプ | 仏AMPLITON |
メインアンプ | ROSENKRANZ P-1 |
スピーカーシステム | ROSENKRANZ MAESTRO |
ケーブル | ROSENKRANZ(トーンアームケーブルを除く) |
フィリップスGP922での試聴
@ Swing素線x1
針を盤面落とした途端、いきなり生ギターの生々しい響きに引き込まれる。
繊細な歌声は伸びやかに天井知らずに上昇していく。
抑制が効きつつも力強く足取り確かなベース。
まろやかで暖色系の木管。
繊細で包み込むような弦はときに空間に漂うが如く。
全体に響きの美しさと抑揚感が増し、表現力が増す
現代の新線でありながらヴィンテージ線的な味わいをも感じる。
A Reference1素線X2 プラチナ端子
Swing素線x1の音をそのままに情報量が増す。
感情表現がさらに高まり、スケール大きい表現でオーケストラの空間描写が見事で、
これ以上何を望むのだろうと思う程の素晴らしさだ。
このまま音楽を楽しんでいたい気持ちを抑えBに付け替える。
B Reference1素線X2金メッキ端子
Aより更に細やかで表現力深まり、より温かみのある音。
消え入る余韻のなんという美しさよ!
軽やかさと力強さの双方を表現し、さらに乗りの良さまで加わる。
ここまで来るともう筆舌に尽くしがたい。これまではリード線の部分でレコードの美味しいところが消えていたとしか思えないのである。
試聴といいながら結局アルバムの最後まで聴いてしまう。余りの素晴らしさに冷静さを失い、これ以降はもう「試聴」にならない状態なのでどうかご勘弁して読んでいただきたい。
DL−103に移植してジャズを聴く
夕食後はジャズが聴きたくなり、ジャズ用として使っているデノンDL-103にBREFERENCE+金チップを移植した。ヘッドシェルはオーディオテクニカの13g。
ターンテーブルに乗せるはハードバップの傑作にしてブルーノートの名盤”ART BLAKEY AND THE JAZZ MESSENGERS”(BST-4003)。十代から親しんだこの盤が堪能できないといくら高価なものでも失格である。
アート・ブレーキーのドラムの力強さが増す。これは予想どおりである。
おお、なんとマックス・ローチのようなハイスピードなドラミング!これは予想外だ。ブレーキー親分、豪快なだけではないのだ。打音と打音の間にこだまのように音が入るように聞こえるが今までリード線の段階で失われていて聞き落していただけなのか?
そしてシンバルやブラッシュワークの切れの良さ、シズル感、余韻の美しさ。その冴えた美音に酔う間もなく、ブレーキー御大が全身全霊でシンバルを打ち込むと鈍い光を放つ真鍮がグイッと圧縮され、平和ボケにっぽんの私は石持て打たれたが如く打ちのめされる。その次の瞬間、澄んだ音と濁った音が同時にマグマ噴火の如く発せられ、音とともに金属粉がきらきらと飛び散るのである。その音は色彩に富んでいて、金、銀、白金、時に黒っぽいものや赤っぽいものまで飛来してまばゆく、恍惚の境地に至る。
繰り返すがこれはDL-103である。何十万円もするような高価なカートリッジの試聴ではない。これまでに103の10倍以上の高価なカートリッジもいくつか使ってきたが今目の前で鳴っている103の音には到底及ばない。そう、アナログファンの諸君、朗報だ!もう高価なカートリッジは要らないのだ。
結論
カートリッジが発電したレコード信号はリード線からトーンアームに渡される時点でエネルギーが半減している。貝崎氏によるとリレー競技のバトン渡しが上手くいっていないのと同じとのこと。言い得て妙である。
このリード線で聴くと、かつて缶詰音楽と揶揄されたレコードには実は鮮度の高い音楽とその場の空気(エア)が詰められていたことが分かる。これまでは缶を開けた時点で酸化してしまっていたのである。
陳腐な表現だが、まさに目から鱗が落ち、長年の愛聴盤に新たな感動を発見する。レコードファンにはまさに無上の歓びだ。
このリード線に付け替えるだけで、貴方の使い古したシュアもオルトフォンも往年の輝きを取り戻すどころか、現代の高価でハイスペックなカートリッジを音楽性で凌駕するだろうし、現代のクールなカートリッジにはアナログ全盛期の力みなぎる音と温かな肌触りを与えるだろう。
音楽を愛してやまないすべてのアナログオーディオファンにお薦めしたい逸品である。
栫 道虎